カーブアウトとは?メリットや手順、失敗しないためのポイントも解説

入社を希望する会社について、その会社が発行する統合報告書などを読んで「この会社なら大丈夫」と確信して入社した皆さん。ある日突然上層部から「カーブアウトを検討しているので、君たちもメンバーになって活躍してもらいたい」と指示されたらビックリすると思います。カーブアウト(carve out)は「会社分割」や「事業譲渡」などの意味で使われますが、ICTに強い若い社員が入社したことを契機に、厳しい企業間競争を勝ち抜くための戦略を検討しているのかもしれません。

そこで、カーブアウトについて取り上げてみますので、会社の先導役になる出発点にしてください。

カーブアウトの意味とは?

日本語でカーブアウトと言うと野球で「カーブを投げられてアウトになった」などと早合点してしまいそうですが、野球のカーブはcurveでスペルも発音も違います。

「切り出す」「分裂する」という英単語が語源

Web上で利用できて進化し続けている英和・和英辞書の英辞郎で調べたところ carve は「切り出す」「分裂する」の意味があり、carve out も「切り出す、分割する」など同じような意味でした。

会社全体の事業が時流に乗り、運営も収益も順調な時は「総務部門」など直接的な収益を上げることを主目的としていない部門を除いて不採算部門はないと思います。

しかし、コロナが猛威を振るっている時には不採算部門が出るなど、多くの企業がその対策を求められていました。カーブアウトでは、その対策として次の2つをあげています。

企業の一部を切り取り独立させる

企業の一部門を切り取り独立させる手法は、カーブアウトの典型的なスタイルです。自社の不採算部門を自社事業から切り離し、独立した組織として運営させることで収益化を目指します。大企業は多くの事業を抱えていますので、この手法で不採算部門の再興を図っていますが、次に述べるような戦略を立てて新たな事業展開を模索している企業も増加しています。

ベンチャー企業の立ち上げ

企業の経営層は、ICT(情報通信技術)関係はあまり得意と言える分野ではありません。しかし、どの企業もICTを無視しては発展が期待できませんので、ICTを利用した経営戦略を探求しています。ベンチャー企業を立ち上げるのはその表れと言うことができます。
ICTに精通した若い社員を得たことで、このベンチャー企業の専任スタッフとして、消費者のニーズを踏まえた商品やサービスの研究開発などに従事させ大きな成果をあげれば、その企業は他企業に大きな差をつけることができます。

ビジネスにおけるカーブアウト

ビジネスにおけるカーブアウトは、先述しましたように「企業内の不採算部門」や「将来性は期待できるがまだ芽の出ていない部門」を切り離し別組織にすることがメインになっています。このようなカーブアウトをすることで目に見える効果が表れるのは次の2点です。 

独立により意思決定が迅速に

切り離された部門は親会社の傘下に入っていますが、事業自体は独立して推進できますので経営上層部の判断を仰ぐ必要がなく、若い年代層が中心になると思われるメンバーのコンセンサスを主体にして迅速な意思決定をすることができます。  

独立させて事業価値を高める

カーブアウトされた部門は、目的達成に向けて構成されたプロジェクトチームと言うことができますので、スタッフ全員の独立意識が強く、商品やサービス開発等における高い成果が期待できます。成功すればその企業の事業価値を高めることにつながります。  

カーブアウトのメリットとデメリット

カーブアウトで企業の1部門を切り取って新たに出発する場合は、過去のしがらみにとらわれずに心機一転させて取り組むのが成功の近道です。カーブアウトのメリットとデメリットをきちんと押さえておきましょう。

カーブアウトのメリット

カーブアウトのメリットとしては次の2点をあげることができます。

投資ファンドや個人投資家から支援を受けられる

カーブアウトして親企業から離れても財源や人材などで援助を受けることができます。その上に、新企業として投資ファンドや個人投資家からの支援を受けることもできます。発足時に多額の財源を確保できれば、商品やサービス等の研究開発に潤沢な資金を投入することができ、迅速かつ満足度が高い成果を得ることが期待できます。

主力以外の事業の業績向上

カーブアウトした企業が、例えば新商品やサービスの開発に成功すれば、次に目指すのはその製造販売です。親企業とのタイアップや新たな生産ラインの構築で主力以外の事業の業績を向上させることができます。

カーブアウトのデメリット

親企業の1部門を切り取ってしまうので、当然デメリットもあることは覚悟しておく必要があります。次の2点を頭に入れておくと良いでしょう。

外部資本の導入による経営権の変化

独立した段階で親企業から援助を受けていても投資をよびかけることができることを述べましたが、投資を受ければその投資者の意向も考慮することが求められ、親企業の意図と異なる方向に進む可能性があります。
また、新しい企業として出発しますので、事業計画を提出する必要があり、親企業から人材や財源などの支援を受けると、棲み分けで苦労することがあります。

従業員のモチベーション低下

親企業から新企業に移動したスタッフが左遷させられたと思いこんでしまうとモチベーションが下がってしまいます。新企業の事業推進に影響がでますので、スタッフ全員が常に高いモチベーションを維持できるように新事業の意義や事業計画について会話を重ね、コンセンサスを得ておくことが大切です。

カーブアウトとスピンオフ・スピンアウトの違い

カーブアウトに似ている制度に「スピンオフ」と「スピンアウト」がありますので、その違いを取り上げます。

スピンオフとは?

大企業が不採算部門や将来性が見込まれる部門を親企業から切り離して新たな企業として発足させる手法としてカーブアウトでは新企業が財源やスタッフを親企業に依存できることを記述しましたが、「スピンオフ」の場合も資本関係は親企業に依存することができます。しかし、カーブアウトのように投資を呼びかけることは禁じられています。そのため、事業運営は次に述べるような形態になります。

独立する新会社を主体とした関係

スピンオフは親会社から資本の提供を受けて独立しますので親会社の意向が強く反映されます。独立する新会社を主体とした関係は親会社との間で維持されます。外部の融資を受けられないため財源的には窮屈です。親会社と新会社がともに発展する

経営戦略は素晴らしいですが、決済承認などでも親会社が関わりますので、スピーディーな運営に難があります。

カンパニー制や社内ベンチャー制

カンパニー制は親会社が行っているすべての事業に独立採算制を取り入れて運営していくものです。会社の各部門を独立した会社とみなし、運営上の権限も持ちます。

社内ベンチャー制は、会社がIT事業などについて社員にアイデアを募り、優秀なものに資金を提供して子会社や別企業として起業させるものです。

スピンアウトとは?

スピンアウトは独立性の高い新会社として設立され、親会社からの影響はほとんど受けない特徴があります。社員が技術やアイデアを持っていて、それを活かすために退職して自分で起業する場合などが該当します。

完全な独立企業

完全な独立企業ですので、親企業が持つ販売チャネルなどは利用できませんが、事業計画や運営方法は迅速に決定できるメリットがあります。  

親会社との資本関係なし

スピンアウトは親会社との資本関係はありません。全て自前で進める必要があるためIT部門など親会社の1部門で自立できる部門が対象になることが多いようです。また、親会社が不採算部門を売りに出す場合にも使われている手法です。

カーブアウトの手順

ここでは、カーブアウトを実行する場合の手順について述べます。

二種類の法的手続き

カーブアウトを実行する法的手続きは次の二種類があります。

新会社に事業譲渡する方法

親会社の事業のうち1事業だけを新会社に譲渡する方法です。それでも、親会社が有していた許認可の取り直し・個別契約の巻きなおし・新会社に異動するスタッフとの雇用契約締結等の手続きが必要になります。

会社を分割する方法

会社を分割する方法は、親会社が出資して新会社を設立するという手法を取ります。そのため、新会社に事業譲渡するような個々の面倒な手続きは必要ありません。スタッフも基本的に引き継がれます。(業界によっては異なることがあります)。

カーブアウトに必要な事項

カーブアウトを実行する上で必要な確認事項などが多く存在しますので、慎重に進めてください。

元会社と継続する関係の確認

「事業譲渡」と「会社分割」では元会社と継続する関係が異なります。「会社分割」であれば包括的な業務移転が可能ですが、事業譲渡の場合は上述の通り事業ごとに継続する関係を確認する必要があります。

カーブアウト財務諸表

事業譲渡は譲渡する事業についてどの程度の価値があるのか説明するためカーブアウト財務諸表を作成しておく必要があります。元会社全体の財務諸表から売却する事業だけをピックアップし作成することになりますが、「その事業を独立して行った場合に採算がとれるのか」がポイントになるものと思われます。

カーブアウト実施で注意する点

 カーブアウトを実施する場合は法律的に複雑な面があります。失敗を避けるため注意点を述べます。

業種による注意点

ビジネスには多種多様な職種・形態がありますから、カーブアウトを実施するときは注意する必要があります。

分離が困難な業種がある

例えば、部品製造を含む業種を事業譲渡したいと考えても、相手方が部品製造工場を持っていなければ契約を結ぶことができません。会計上は分離が可能でも業務遂行で分離が困難だからです。

新たな許認可が必要な業種がある

許認可を必要とする業種の事業譲渡を受ける場合は、新たな許認可が必要とされることが多いです。会社分割でも自動的な承継が認められないことがありますので、関係官庁などに事前確認して、事業譲渡や会社分割前に許認可を得るように準備してください。

社内体制に関する注意点

会社分割・事業譲渡の両方に関わる問題として「社内体制をどうするか」があります。次に述べる2つの事項は特に留意して準備してください。

総務や人事など新たに部署設立する必要も

会社分割でその会社の1事業部を新会社にした時は、新会社は大多数が総務や人事などの管理部門を持ちません。新会社があっという間に好成績をあげて大規模になれば「総務や人事など新たに部署設立する必要がある」という声が上がるでしょうが、発足当初は親会社や投資会社が困らない範囲で支援してもらう必要があるでしょう。  

従業員との雇用契約

カーブアウトした新会社に元会社から従業員を転籍させる場合は、労働継承法により従業員が不利にならないように取り扱う規定が定められています。

「基本的に会社が独立前の労働契約を尊重すること」「理由なく従業員に不利益な変更をすることは許されないこと」など把握して守る必要があります。

カーブアウトを成功させるポイント

カーブアウトを成功させるには、どのようなポイントに気を付けたら良いのでしょうか取り上げてみます。

事前に十分な検討をする

自社事業で「事業譲渡するとすれば、どの事業が良いのか」「不振な事業部門は会社分割して売りに出した方が良いのか」等々経営陣は常に考えていると思います。自社を発展させることは社会に役立つと同時に従業員の待遇改善にもつながります。経営者になったつもりで過去の経験や他社の成功例なども参考にしながら事前に十分検討することをお勧めします。

参考までに検討すべき事項を2つ掲げます。

事業の成長性の見極め

成長性が高い事業に重点投資する会社は効率的事業運営をしていると言えます。

しかし、自社製品が毎日飛ぶように売れて他の会社から羨ましがられていても、必ずしも成長性が高いとは言えません。その製品原料・加工設備・労働力・流通コスト等が高ければ生産するほど赤字になる可能性があります。
正しい成長性分析をするには、「売上高」「経常利益」「営業利益」「総資産」「純資産」「従業員」の6つのデータが必要です。これらのデータを毎年算出して、前年のデータと比較すると正確な成長率を算出できます。そのうえで成長性が高い製品に投資すると効果的です。 

必要な支援の把握

カーブアウトを取り入れるにあたって必要な親会社からの出資・技術・人材の提供、出資者やファンド等からの資金提供など必要な支援を把握してスムーズに活動に入れるようにします。

元会社の業務に影響が出ないようにする

カーブアウトで設立された新会社は「資金面」「人的面」「技術面」で元会社にかなり依存します。特に人材は親会社から派遣してもらう必要性が高く、元会社との間で調整が必要です。元会社の業務に影響が出ないようにすることを基本的なスタンスとすべきです。

適切な人材の確保

新会社の人材は元会社を避け、できるだけ外部の有能人材を確保すべきです。

場合によってはM&Aも検討

カーブアウトは「将来性はあるが飛躍するまでに至っていない」部門を持つ大企業などに取り入れられていますが、会計情報の調整・事業分離が困難・新会社における従業員の雇用問題など解決すべき課題も多くあります。場合によっては視野をもっと広げてM&Aも検討して良いのではないかと思います。


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