従業員のライフスタイルに合わせた就業を可能にし、従業員のモチベーション向上と効率的な業務遂行のためにフレックスタイム制を導入する企業も存在します。しかしながら、具体的な知識が不十分な方も多いのではないでしょうか。
そこで、本記事ではフレックスタイム制の仕組みやメリット・デメリットについて解説します。導入を検討されている方はぜひ参考にしてください。
フレックスタイム制とは
フレックスタイム制とは、従業員が自分で勤務時間を決められる働き方のことです。通常の労働時間の中で従業員が自分で出勤時間や退勤時間を決めることができ、時間に縛られない柔軟な働き方が可能となります。
時間に縛られない働き方
制度の導入により従業員は時間に縛られない働き方が実現できるようになり、仕事とプライベートのバランスを取りやすくなりました。
勤務時間が固定されない
フレックスタイム制においては従業員の勤務時間が固定されず、通常の勤務時間内であれば自分で出勤時間や退勤時間を自由に決められます。そのため従来の勤務時間の枠を超えて、朝早くからや夜遅くまで働くといった選択が可能です。
総労働時間の範囲で自由に決める
フレックスタイム制では、総労働時間の範囲内で自由に勤務時間を決められます。このため、従業員が自分のライフスタイルに合わせた働き方ができるというメリットがあります。
導入された経緯
フレックスタイム制が導入された経緯は、急激な経済成長に伴い長時間労働が一般的だった1980年代に遡ります。
1987年に労働基準法の改正
1987年に労働基準法が改正され、業務と生活の調和を図りながら効率的に働くことで労働者の労働時間を短縮する目的により、フレックスタイム制度が法制化されました。
1988年に正式導入
1988年に正式に制度が導入されてから、従業員の生産性向上やワークライフバランスの改善を目的として、多くの企業で採用されてきました。現在ではフレックスタイム制度は、働き方改革や柔軟な働き方の実現を目指す取り組みの一つとして重要な役割を担っています。
フレックスタイム制の特徴
次にフレックスタイム制の特徴について確認しましょう。
出社と退社の時間が自由
最大の特徴は、出社と退社の時間が自由に決められる点です。従業員は早朝や夜遅くなど自分に合った時間帯での勤務が可能となり、ライフスタイルに合わせた柔軟な働き方ができます。また、通勤ラッシュの時間帯に通勤しなければならない負担から解放されます。
労使協定に従い決定
フレックスタイム制度は、企業ごとに労使協定を締結し、具体的な勤務時間や休憩時間の規定を定めた上で導入されます。
フレキシブルタイムの勤務は自由
フレックスタイム制度では、一定の時間帯内で勤務時間を自由に決定できる「フレキシブルタイム」の勤務が認められています。従業員は、自分の仕事の進捗状況や業務内容に応じて最適な勤務時間を選択できます。
残業代も支給される
フレックスタイム制度では、法定労働時間を超えた場合には残業代が支払われます。これは、労働者保護の観点から定められた措置であり、フレックスタイムでも例外ではありません。
法定労働時間を超えた場合に支給
法定労働時間は、1日8時間・週40時間以内と定められており、フレックスタイム制度でもこの法定労働時間を超過した場合には残業代が支給されます。
法外残業の場合は割り増し
法外残業が発生した場合には、割り増しで残業代が支払われます。法外残業とは、法定労働時間を超過した残業のことです。この場合は、労働時間が1.25倍、1.35倍などになる割り増し率が適用されます。
フレックスタイムの導入状況
成立から30年以上経っているとはいえ、まだまだ9:00~17:00のような日中固定の就業時間で働いている会社員が大部分ではないでしょうか。ここではフレックスタイム制の導入状況について見てみましょう。
令和2年では労働者の9.3%
フレックスタイム制度は日本においてはまだ十分に普及していないとされており、令和2年の労働力調査によると制度を利用しているのは全労働者の9.3%とされています。
リモート化の影響を受け増加中
フレックスタイム制度の導入は近年、特に新型コロナウイルス感染症の流行によるリモートワーク化の加速により普及しました。リモートワークにより従業員が自宅で仕事できるため、従来のオフィスでの勤務時間に縛られずに柔軟な働き方が可能になりました。
フレックスタイム制の仕組み
ここでは一般的なフレックスタイム制と、スーパーフレックスタイム制について仕組みを解説します。
一般的なフレックスタイム制
一般的なフレックスタイム制にはコアタイムとフレキシブルタイムがあります。
コアタイムとフレキシブルタイムを設定
フレックスタイム制の一般的な仕組みは、コアタイムとフレキシブルタイムの設定です。一定の総労働時間の確保により、出社と退社の時間を柔軟に調整できます。
コアタイムは必ず勤務
コアタイムとは、勤務を行う必須の時間帯で全員が必ず出社していなければならない時間帯です。その代わりコアタイム以外の時間帯であるフレキシブルタイムは、勤務の時間を自由に決めることができます。
スーパーフレックスタイム制
スーパーフレックスタイム制は、コアタイムを設定しないフレックスタイム制度です。
コアタイムを設定しない
スーパーフレックスタイム制は、フレックスタイム制の一種ですが、コアタイムを設定しない点が特徴的です。
全ての勤務時間の出社・退社が自由
コアタイムのないスーパーフレックスタイム制では全ての勤務時間の出社・退社が自由です。
清算期間
フレックスタイム制では、清算期間と呼ばれる一定期間内に勤務時間をまとめて計算し、総労働時間と残業時間を計算するのが一般的です。
労使協定で決定される
清算期間は企業ごとに労使協定で決定されますが、一般的には1か月~3か月程度となっています。
期間内の総労働時間を決定
清算期間内であれば労働時間を柔軟に調整できるため、繁忙期などの季節的な業務量の増減に対応できるというメリットがあります。
フレックスタイム制のメリットとデメリット
次に、フレックスタイム制のメリットとデメリットについてそれぞれ見ていきましょう。
フレックスタイム制のメリット
主なメリットは「通勤時の負担軽減」と「多様な働き方が可能」という2つです。
通勤時の負担を軽減
通勤時間帯を避けた出勤時間に設定できるため、従業員は通勤ラッシュ時の混雑を避け自分の都合に合わせて出勤時間を調整できます。このため通勤時間を短縮でき、負担の軽減につながります。
多様な働き方に対応
フレックスタイム制の導入で可能になるのが、従業員それぞれのライフスタイルに合わせた働き方によるワークライフバランスの実現です。例えば子育てや介護などの理由で定時に勤務しにくい従業員にとって、フレックスタイム制は非常に有用です。
フレックスタイム制のデメリット
従業員の柔軟な働き方を支援できるメリットの反面、「人事担当の負担増加」「緊急時の対応の難しさ」というデメリットがあります。
人事担当者の負担が増加
従業員がそれぞれの都合に合わせて勤務時間を選択できるフレックスタイム制ですが、従業員個々の勤務状況を把握し、勤務時間の管理を行う必要のある人事担当者の負担増加がデメリットです。
緊急時の対応が難しい
また、緊急時の対応が難しくなるのもデメリットです。フレックスタイム制では従業員の出勤時間がバラバラになるため、急なトラブルが発生した際に人員が不足したり、連絡がすぐにつかなかったりなどで対応が難しくなる場合があります。
フレックスタイム制の活用例
ここではフレックスタイムを企業内でどのように活用すべきかについて解説します。
従業員が働きやすい環境作り
フレックスタイム制ではライフスタイルに合わせて仕事のスケジュールを調整できるため、一般的な固定の勤務時間では仕事を続けられない事情ができたときにも勤務を継続でき、従業員が働きやすい環境作りに役立ちます。
オーバーワークの防止
業務の都合に合わせて勤務時間を設定できるため、過剰な残業を抑制することができオーバーワークの防止になります。
育児や介護をサポート
フレックスタイム制は、育児や介護など家庭と仕事との両立が難しい従業員にとっても有益です。労働時間を柔軟に調整することができるため、家庭の都合に合わせて仕事のスケジュールを調整できるほか急な家庭の事情にも柔軟に対応でき、介護離職や放課後の子供の預け先がない「小1の壁」などによる退職の防止にもつながります。
ライフスタイルに適応
フレックスタイム制は従業員が自分のライフスタイルに合わせて働けるため、仕事とプライベートのバランスをとりやすくなり従業員のモチベーション向上にもなります。
家族と過ごす時間を重視
フレックスタイム制では、例えば出勤時間を早めることで小さい子供を育児中の従業員は子供の送迎や就寝時間に合わせるといったように家族と過ごす時間を確保できます。
趣味や交友の充実
また、子育てや介護中の従業員だけでなく、フレックスタイム制の利用で早朝や夜間に自分の好きな趣味や交友を充実させるといった活用もできるでしょう。例えば、早起きしてジョギングをしたり、趣味のサークル活動に参加したりといった時間を確保できます。
まとめ
フレックスタイム制は、労働生産性の向上と従業員のワークライフバランス改善の両面でメリットをもたらす、現代的な勤務制度の一つです。
フレックスタイム制には育児や介護を始めとする状況の変化があっても働きやすい点や生産性の向上などのメリットがある反面、人事担当者の負担や緊急時の対応が難しくなるというデメリットもあります。
導入前には、従業員のニーズや業務内容に合わせた形の導入が大切です。また、労使協定の締結やシステムの導入など、導入までに多くの準備も必要です。フレックスタイム制の導入にはリスクもありますが、上手に活用できれば従業員の働き方改革や企業の生産性向上につながるでしょう。