企業の課長クラスになると、企業現場サイドのトップランナーとしてこれからの企業の成長をどう進展させたら良いのか悩むと思います。時には経営者からコーポレートファイナンスについて検討するよう依頼を受けるかもしれません。「先んずれば、人を制す」と言いますので、コーポレートファイナンスとはどのようなことなのか説明し、その効果と必要なスキル、効果的なケースについても取り上げてみますので参考にしてください。
コーポレートファイナンスとは
コーポレートファイナンスは英文の「Cooperate Finance」を日本語読みで表現したものです。日本語では「企業財務(あるいは企業金融)」と訳されています。cooperate には「協力する、協同する」finance には「財務、金融、財源」などの意味があります。ここでは、
「企業財務」として取り上げます。「コーポレートファイナンス」という言葉自体はいろいろな文脈で使われておりますので気に留めておいてください。
日本語で「企業財務」
企業財務が良好であれば、その企業価値は高く評価されるのが一般的です。そのための活動は次の2つが挙げられます。
企業価値を高めるための活動
「企業価値を高めるための活動」の目的は「企業価値を最大化」することです。そのための一連の活動としては「外部からの資金調達をすること」「資金の創出を図ること」「資産の最適配分を考慮すること」「ステークホルダーとのコミュニケーションを進めること」が必要と言われています。
資金調達から返済までの総称
企業財務は「資金調達から返済までの総称」としても使われます。
例えば、企業価値の最大化を目標に
- 市場において資金の調達活動をする
- 調達活動で得た資金を事業に投資する
- その活動で得た資金を調達元に返済・還元する
という一連の流れを総称した活動の意味で使われます。
コーポレートファイナンスの流れ
コーポレートファイナンスの流れは大まかに次のようになります。
市場から資金を調達
上述しましたように資金がなければ投資をして企業としての利益をあげることができませんので目的とする「企業価値の最大化」の実現が危うくなります。調達方法については後述しますが、金融機関等から借り入れをしない場合は、「市場を通じて資金を調達」することが第一課題になります。
事業に投資
次の流れとしては、市場で調達した資金を「事業に投資」することです。新規プロジェクトなどに投資することが多いですが、苦労して調達した資金が無に帰さないように正確な判断力を持つことが求められます。経営戦略の一環として考えていることもありますので経営者の意向確認が必要かもしれません。
資金調達元に資金を還元
正確な読みに基づき投資した結果、企業として十分な資金を得られることができれば「資金調達元に資金を還元」することができます。
大雑把ですが、「コーポレートファイナンスの流れ」は、以上のような進行になります。
コーポレートファイナンスの目的
コーポレートファイナンスの目的については、「企業価値の最大化」を図ることであることを先に述べましたが、企業価値の最大化とはどのようなシチュエーションを言うのでしょうか?
企業価値の最大化
企業価値の最大化は、例えばいま自分の会社を売却するとすれば「これまでにない最高額」で売れるような状態を作ることです。企業価値の評価をあげるために、調達した資金を効率的に投資に使って利益を得ることはもちろんですが、その企業についての総合的な価値判断ですから、手元にあるキャッシュや預貯金、負債や目に見えない「のれん」「有能なスタッフが生み出す価値」等も考慮する必要があります。
財務手段の選択
企業価値を最大化するため「どのような財務手段を利用するか」選択する必要があります。手間はかかりますが資金は市場を通じて生み出すのか、あるいは利子の支払いや元本の返済が必要ですが金融機関から融資してもらうのか、自社に最適な財務手段を選択することが必要です。
キャッシュフローを現在価値に換算
上場企業であれば、キャッシュフロー計算書の提出が義務付けられていますので、それを現在価値に換算することである程度の企業価値が分かります。上場していない中小企業でもキャッシュフロー計算書を作成していれば現在価値に換算できる可能性があります。
キャッシュフローを現在価値に換算する方法は一定の数式があります。
資金の調達
財務活動で事業に投資する「資金の調達」方法は、市場を通じて行うものと金融機関からの借り入れがあることを述べましたが、ここでは企業価値の最大化という意味で金融機関を頼らずに資金の調達を目指す観点から述べます。
財務活動のうち特に調達活動を指す
市場を通じて資金を得るための財務活動は、資金獲得の調達活動がメインになります。
この資金調達は「直接金融」と呼ばれていますが、具体的には「新株発行」と「社債発行」があります。また、新株発行の場合は「株主割当増資」「第三者割当増資」「公募増資」の3つに分類されます。金利の支払いや元本の返済はありませんが株主の期待収益率を考慮する必要があります。
株主への配当対策
資金調達を株式で行う場合は株主への配当対策を考慮する必要があります。調達した資金を利用して純益が出た時は、企業が次期投資に備えて内部留保などをしますが、株主へは「配当金」として還元します。株主へはどの程度の割合で還元しているかを計算する「配当性向」によれば、日本の場合は30%程度で推移しています。
調達活動の理論
資金調達活動の理論として「インベストメント」と「企業金融理論としてのコーポレートファイナンス」の2つがあります。
インベストメント
インベストメント(investment)は英語ですが日本語で「投資」を意味します。
投資家は自分が保有する余剰資金を運用するためにできるだけ高い利回りでリスクのすくないものをターゲットに企業側に資金提供をしようと思っています。これを投資家側の「投資理論」と言っております
企業金融理論としてのコーポレートファイナンス
一方企業側は企業金融理論に基づいてできるだけ低利で資金調達をしようとしますので投資家側との間で激しいせめぎ合いが行われます。このせめぎ合いが一定の均衡を保ったときに取引が成立するというのが「企業金融理論に基づくコーポレートファイナンス」と言っております。
コーポレートファイナンスによる企業価値
コーポレートファイナンスにおける「企業価値」とはどういうことを言うのでしょうか?
企業価値の定義
「企業価値とは企業全体の経済的価値」を言い、企業が将来にわたって生み出すキャッシュフローの現在価値を指す」と言うのが一般的です。
企業価値を決定するのに必要な事項として次の3つをあげることができます。
事業価値
「事業価値」は企業の事業活動によりもたらされる価値です。事業・資産・負債・投資した事業が将来もたらすであろうキャッシュフローの合計額です。資産には「のれん」や「人的資源」も含まれます。
企業価値
「企業価値」の算出方法はいくつかありますが、代表的なものとして「コストアプローチ」「インカムアプローチ」「マーケットアプローチ」をあげることができます。簡略化して述べますと
- コストアプローチは企業の保有する資産を基準に算出
- インカムアプローチは将来得られる収益やキャッシュフロー予測に基づき算出
- マーケットアプローチは同業他社や市場の株価などを参考に算出
と言えます。
株主価値
「株主価値」も企業価値の範疇に含まれます。株主価値は企業価値の一部で株主の取り分になります。株主価値は企業価値から債券や借入金などの負債価値を減ずることで算出します。
コーポレートファイナンスに使われる指標
「コーポレートファイナンスに使われる指標」として「NPV法」「DCF法」「IRR法」の3つがあります。その概要を説明します。
NPV
「NPV」は英語の「Net Present Value」のイニシャルを取ったものですが、日本語では「正味現在価値」と訳されています。
正味現在価値
「正味現在価値」を投資の判断基準にする考え方です。投資を新規事業やプロジェクトにすることは、それらの事業が将来生み出すキャッシュフローを現在の時点で購入することと同じであるという考え方に基づいています。
キャッシュフローから算出
事業やプロジェクトが何年単位で続けられるのかは各企業によって異なりますが、数年先のキャッシュフローを予測して現在価値を算出し、投資するかしないかを決定します。
DCF法
DCF法のDCFは「discounted cash flow」の頭文字を取ったもので、「割引キャッシュフロー」または「割引現在価値」の意味があります。企業が継続して事業実施すれば収入であるキャッシュフローが毎年生じますが、それを現在価値に割り引いて「企業価値」を算出する方法です。
割引キャッシュフロー
企業価値の定義のところでも触れましたが、「現在価値に割り引く」という意味が分かりづらいかもしれません。例えば、現在持っている1,000円と1年後の1,000円の価値を比較した場合、価値があるのは現在の1,000円です。現在の1,000円を利率10%の金融機関に預ければ1,100円になるからです。
逆に1年後の1,100円を同じ利率で現在価格に換算すると1100円÷110%=1,000円となります。これを1年前の1,100円の「現在価値」と言い、この現在価値を算出することを「現在価値に割り引く」といいます。
収益を生み出す資産などを評価
収益を生み出す資産なども評価の対象になります。非事業資産である「のれん」や「人的な価値」あるいは「保有する不動産」も対象になります。
IRR
IRRは英語の「Internal Rate of Return」の頭文字を取ったもので、日本語では「内部収益率」と訳されています。
投資案件の収益率を計算
新規のプロジェクトや事業に投資を行う時にその収益率を計算してから判断します。事業やプロジェクトが将来生み出すであろうキャッシュフローの現在価値とそれに必要なキャッシュフローの現在価値としての投資額がイーブンになるようにします。
ハードルレートとの比較で判断
実際に投資するかどうかは、上記の投資額だけでなくハードルレートとの比較で判断します。ハードルレートは最低限必要とされる利回りで投資評価基準の1つですが、投資実行決定にはこのハードルレートを上乗せして「内部収益率」を上回る必要があります。
コーポレートファイナンスにおける資金調達
コーポレートファイナンスにおける資金調達については所どころで触れましたが、ここで確認をしてみます。
資金調達方法
資金調達方法には「株主資本による調達」と「負債による調達」の2つがあります。
株主資本による調達
株主資本による資金調達はエクウィティ・ファイナンス(equity finance)と呼ばれる
新株や債券発行を伴う調達方法があります。新株発行については先述しましたが、この調達方法で株主と資金の増加が見込まれ財務体質が強化されます。しかし、既存株主にとっては1株当たりの価値が下がるのではないかという危惧が生じる可能性があります。
負債による調達
負債による資金調達はデットファイナンスと呼ばれます。「金融機関からの融資を受ける」「公的融資を受ける」「社債を発行する」などがあげられます。デットファイナンスの英語表記は「Debt Finance」でDebtは「借金・負債」を意味します。
資金調達に必要なコスト
「資金調達に必要なコスト」は「負債コスト」と「株主資本コスト」の2つがあります。
負債コスト
上述しましたが、資金調達で金融機関や公的機関からの融資を受けた場合、あるいは社債を購入した場合は〇〇%の利率で算出した利息と元金を返済する必要があります。この利息部分を「負債コスト」といいます。
株主資本コスト
「株主資本コスト」の明確な定義はありませんが、企業が資金調達のため新株などを発行する時に、それに応じる株主はそれぞれ自分なりの「期待利回り」を持っています。
企業側はそれに応える必要があるという意味で「コスト」という言葉が使われています。
「株主期待利回り」と同じ意味です。