ダイバーシティとは?意味や重要性、進め方を解説

近年「ダイバーシティ」という言葉をあちこちで耳にするようになりました。

日本が少子・高齢化社会に突入し、各企業は人手不足や有能な人材を確保するため多様性を許容し、人権問題にも配慮した視点から従業員を採用する必要性に迫られているためと思われます。とりわけ企業の人事部など管理部門に勤務されている方は、人材採用だけでなく採用後もどう能力を発揮してもらうか悩んでいると思います。

そこで今回は「ダイバーシティ」問題を取り上げ、その意味や重要性、さらにはどのようにこの問題を進めたら良いのか解説しますので参考にしてください。

ダイバーシティとは

「ダイバーシティ」という言葉がビジネス関係で使われたのは1964年に米国で施行された「公民権法」でした。多様な人種で構成される米国において黒人やマイノリティなどは就職で差別的な取り扱いを受けていましたので、「雇用機会均等」を目的に制定されたものです。現在も人種などによる雇用差別はなくなっていないようですが、約60年近く前に打ち出された雇用機会平等の理念は、民主主義先進国の面目躍如の感があります。

ダイバーシティの意味

「ダイバーシティ」は英語の「diversity」をそのまま日本語読みしたものですが、「意見や様式などの違い」あるいは「人種や社会的な違い」など社会の「多様性」を意味します。勿論その「多様性を許容すること」のニュアンスを含んで使われています。

多様性を意味する英単語が語源

英単語の「diversity」が語源になって、日本では「多様性」と訳されて普及していますので、「diversity」の単語をWeb上のオックスフォード辞典で調べてみました。

Diversityは「何かについて、多くの異なる考えや意見があるという事実」という定義が記載されていました(原文:the fact that there are many different ideas or opinions about something.)。この定義から「多様性」という表現が適訳であることが分かります。

従来は人権問題などで使用

近年は日本の多くの企業が企業運営で「多様性」を取り入れる必要性を認識して積極的に取り組んでいますが、従来は人権問題が前面に出ていて、その一環として「多様性」の問題が語られる傾向があったようです。ニュースを見ていますといまだに企業・芸能界・スポーツ界等々で起こる「パワハラ」「セクハラ」「虐待やいじめ」などハラスメントの事件が報じられています。企業については、国連が「ビジネスと人権に関する指導原則」を定めていますので、企業で人権問題が先に取り扱われているのは、それに沿った対応を企業内で実施することを重視していたためと思われます。

経営戦略の1つとして認知

人権問題への対応が先行していた感がある日本でも、近年はダイバーシティの理念を「経営戦略の1つとして認知」して実践し、成功している企業があります。大変喜ばしいことですが世界における日本の立ち位置を世界経済フォーラムが公表している「ジェンダーギャップ指数2021で見ますと、順位が156カ国中120位となっています。

先進国の中で最低レベル、アジア諸国の中でも韓国や中国、ASEAN諸国より低い位置にいます。一日も早く「日本はダイバーシティを受け入れてくれる素晴らしい国だ」と評価されるように日本全体が意識改革を求められていると言えます。その意味で「多様な価値観に対応」することや「生産性や競争力の向上」を図ることはダイバーシティ受け入れの出発点になります。

多様な価値観に対応

日本人だけで会議をしていると、最後まで何も言わない人がいます。意見がないのか問いかけるとやっと口を開いてくれます。「空気を読む」「場違いなことはいわない」「上司が言うことに逆らいたくない」等々いろいろ理由はあるのでしょうが外国人から見ると奇異に感じるようです。

これからビジネスはますますグローバル化して、現在は外国人の社員がいない企業でも外国人社員を受け入れる可能性が高いと思います。外国人は自分の意見を遠慮なくぶつけてきますので、日本人も自分の意見をどんどんぶつけて気心を知り合うことが第一ステップになります。

生産性や競争力の向上

企業が発展していくには「生産性や競争力の向上」が欠かせません。そのためには常に幅広い視野で優秀な人材を確保する必要があります。日本は外国人を対象に「教育実習制度」を取り入れており、その枠内でベトナム・インドネシア・フィリピンなどをはじめとする多くの外国人を研修生として受け入れています。これらの研修生は事実上「生産性や競争力の向上」を目指す企業の貴重な人材になっています。これからも益々企業側からの受け入れ要望が高まると思いますが、先述しましたようにジェンダーギャップが先進国中で最低レベルにありますので、企業側はダイバーシティを良く理解し、企業として取り入れていかないと外国人にそっぽを向かれ、遅れを取る懸念があります。

ダイバーシティの重要性

そこで、ダイバーシティがなぜ重要なのか考えてみます。

グローバルな戦略が求められる

例えば、日本の自動車メーカーが国内で自動車を生産し輸出しようと思っても半導体が手に入らなければ生産工程に入れないなどの厳しい状況が現実に起きています。サプライチェーンがグローバル化して混乱していることが原因と思われますが、部品の確保一つとってもこのような状況ですから、グローバルな戦略が求められていることは明らかです。グローバルな企業運営をするに当たって最初にクリアする必要があるのは、外国人の人材を確保することです。その確保策で失敗しないために次の2点に気をつける必要があります。

国籍や人種を問わない採用

書類選考や面接時に国籍や人種を理由に応募者を採用しないのはN Gです。不採用理由が明らかになった時点でこの会社は就職試験で「公平な取り扱いをしていない」と流布される可能性があり、会社の信用が急降下します。 

多様な文化や価値観の受け入れ

面接時の会話で応募者が、「この会社は多様な文化や価値観を受け入れてくれる」

と判断すると実りある会話ができると思います。「外国人スタッフとして、どのような活動をしてみたいですか?」などの問いかけをしたりするといろいろ希望が聞けるかもしれません。

労働人口の減少

次に認識する必要がある課題は「労働人口の減少」です。 

慢性的な人手不足

緊急的な課題として2025年に団塊の世代と言われる高齢者が全員75歳以上の後期高齢者になることです。人口の約5%を占め、コロナによる死亡者数も極めて高いため社会構造に大きな変化をもたらすと言われています。因みに70歳以上でも2020年における就業率が17.7%を記録しています。また、生産年齢人口の割合は、1995年の69.8%から減少、2017年に60%を割っています。 2065年には51.4%にまで落ち込むと予想されています。働き手が急速に減少しますので「慢性的な人手不足」になることは確実です。

人材の確保が必要

このようなフェーズを打開するには人材の確保が必要ですが、出生率を上げる施策が実施されても時間がかかりますので、人材の確保は先述したように外国人の確保に頼るだけでなく、様々な方策を講じて対応する必要があります。

例えば、実行段階に入っている「働き方改革」とダイバーシティをパラレルに進行させることも考えられます。 

働き方改革

「働き方改革」としての課題として「ワークライフバランスを重視」

することと「能力を活かせる環境」を提供することが挙げられています。

ワークライフバランスを重視

「ワークライフバランス」は、働くことと同時に私生活も充実させて生産性を向上させることです。コロナを契機にリモートワーク活動を実践する人が増えていますが、国もワークライフバランスを推奨しており、内閣府が「仕事と生活の調和憲章」と「 仕事と生活の調和推進のための行動指針」を策定しています。取り入れている企業が増えていますので、ダイバーシティとともに普及していくことが期待できます。

能力を活かせる環境

先述しましたように日本の企業等における人手不足が明らかになっていますので様々な対策を講じてこの難局を乗り切る必要があります。そのためには、「働きたい人が「能力を活かせる環境づくり」が必要です。「子育て・介護などで離職していた人が何時でも職場復帰ができる環境」「障害があっても配慮すれば能力を発揮できる環境」「高齢者が在宅勤務を含め自分本位のペースで能力を活かせる環境」など企業側と就職希望者が話し合えば良いアイディアが出てくると思います。

消費の多様化

「消費の多様化」も見逃せない重要ポイントです。

柔軟な意思決定が求められる

ダイバーシティの多様性は消費者行動にも影響しています。大分前の自分の消費者としての行動と現在の消費行動を比較したことはありませんか?消費者行動も多様化しています。以前は「この商品いいわよ」と言われるとすぐ買いに走ったりしていたと思います。この行動は「モノ」に対する消費者行動ですが、現在は「コト」に対する行動に代わっていると言われています。そのため、企業は商品の開発には柔軟な発想による意思決定が求められています。いずれにしても企業は大量生産・大量消費の時代は終了したことを自覚し、顧客の多様なニーズに対応した「個」の商品を開発しないと生き残れないと言われています。

自由な発想が求められる

商品に対する消費者行動が多様化しているため、どのような商品開発をするか難しいですが、消費者行動をジックリ観察しながらひらめきが出るような自由な発想が企業に求められています。

ダイバーシティに関する国の取り組み

近年は企業がダイバーシティの理念を企業運営に取り入れていこうとしていますので、それをバックアップするために国も活動しています。国では「厚生労働省」と「経済産業省」がダイバーシティの直轄機関ですので、どのような活動をしているのか見てみます。

厚生労働省

厚生労働省は歴史的に男性と比較して女性の賃金が低いので「女性活躍推進法の改正」と「厚生労働大臣の認定制度」の創設をしています。

女性活躍推進法の改正

男女間賃金格差の更なる縮小を図るため、令和4年7月8日に女性活躍推進法に関する制度改正が行われ、情報公表項目として「男女の賃金の差異」が追加され、常時雇用する労働者が301人以上の一般事業主は、この項目の公表が義務づけられました。

厚生労働大臣の認定制度

「厚生労働大臣の認定制度」として「特例認定制度(プラチナえるぼし)が創設されています。これまで女性の活躍推進に関する状況等が優良な事業主の方は「えるぼし認定」を受けていますが、それよりも水準の高い認定を受けることができるようになりました.(令和2年6月1日施行)。

経済産業省

経済産業省は、「多様な人材の確保」と「ダイバーシティ経営の推進」について定義づけや経産省の取り組みを紹介して企業の啓発を行っています。 

多様な人材の確保

多様な人材の確保では、人材の定義を次のように述べています。

「多様な人材」とは、性別、年齢、人種や国籍、障がいの有無、性的指向、宗教・信条、価値観などの多様性だけでなく、キャリアや経験、働き方などの多様性も含みます。「能力」には、多様な人材それぞれの持つ潜在的な能力や特性なども含みます。

ダイバーシティ経営の推進

「ダイバーシティ経営の推進」では、ダイバーシティ経営の定義を次のようにのべています。

「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営で、組織内の個々の人材がその特性を活かし、生き生きと働くことのできる環境を整えることによって、自由な発想が生まれ、生産性を向上し、自社の競争力強化につながる、といった一連の流れを生み出しうる経営」また、経産省の取り組みとして「新・ダイバーシティ経営企業100選」や「なでしこ銘柄」の選定を行い、これらの発信強化を通じて女性を含む多様な人材の活用を経営戦略として取り込むよう啓発しています。 

ダイバーシティの種類

ダイバーシティは多様性を意味し、年齢、性別、人種、宗教、趣味嗜好などさまざまな属性を持つ人が集まった状態であり、多種多様な人がそれぞれのバックグラウンドを認め合い尊重しながら共に成長していくことであると捉えているのが一般的です。

これに対し、高千穂大学高千穂学会の中村豊氏は更に深く分析して「表層的ダイバーシティ」と「深層的ダイバーシティ」に分けて考えていますので紹介します。  

表層的ダイバーシティ

表層的ダイバーシティは、年齢・性別・国籍・人種・民族・障害の有無・性自認・性的指向を意味している。

年齢・人種など生来の要因

上記の年齢・性別・国籍・人種・民族は変えようがない生来の要因であり、表層的ダイバーシティに属する。

育った環境による属性

障害の有無・性自認・性的指向は育った環境による属性であるが、やはり表層的ダイバーシティに属する。

深層的ダイバーシティ

深層的ダイバーシティは、価値観・仕事観・宗教・学歴・職務経験・コミュニケーションの取り方・受けてきた教育・第一言語・嗜好・組織上の役職や階層などがその要因となり得る。

職務経験

職務経験は一見表層的ダイバーシティの範疇に見えるが、外見上で判断できない個性を形成するものなので、深層的ダイバーシティに属する。

受けてきた教育

受けてきた教育をキャリアと見れば表層的のように見えるが、その人の人格形成にどのような影響を与えたのかは本人が語らないかぎり分からないので深層的ダイバーシティに属する。

価値観・仕事観

価値観・仕事観も人によって異なり本人が語らないと分からないので深層的ダイバーシティである。

言語や宗教

言語や宗教は同じ文化をもつ集団であるが表層的とは言えず、深層的ダイバーシティに属する

ダイバーシティの進め方

米国と違って日本は長い間単一民族の社会でしたので同質性が強く、企業運営でダイバーシティを考慮する必要性は感じなかったのではないでしょうか。

しかし、ここまでグローバル化が進み人間も多様化してくると、旧態依然の運営システムでは企業が生き残れなくなっています。多くの企業が経営戦略としてダイバーシティを取り入れ一定の成果をあげていますので、困難性を伴いますが、まだ会社として何もしていない場合はこれを契機に一歩踏み出すことを推奨します。その踏み出し方として日本に合った方法を述べてみます。ダイバーシティの進め方として、働き方改革を取り込んで進めるのが合理的と思います。

ワークライフバランスの充実化

政府主導の「働き方改革」にむけて2019年4月から順次関連法が施行されています。その中で「ワークライフバランス」が推奨されていますので、企業はそれを積極的に推進することで優秀な人材を失わず社員の帰属意識が高まるだけでなく新たな人材を得る可能性が高まります。

育児・介護休業の活用

「育児休業、介護休業等、育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」は

「1歳未満の子」を養育するための育児休業」「2週間以上にわたり常に生活補助を必要とする家族を介護するための介護休業」「3歳未満の子を持つ労働者が利用できる所定労働時間の短縮措置」を定めています。

社員はこの規定を知らないか、知っていても会社の雰囲気で「認められないだろう」
とあきらめているかもしれません。気兼ねしないで利用するよう経営層が呼びかけることで社員の会社に対する好感度がアップすると同時に利用しても安心して戻れるという気持ちになると思います。

柔軟な勤務体系の導入

「柔軟な勤務体系の導入」も社員のワークライフバランスを応援するのに有効です。始業時刻と終業時刻に一定の幅を持たせ出退勤時刻は各自の判断にゆだねる「フレックスタイム制」、労使協定で決定した時間において労働したとみなす「裁量労働制」、勤務場所に縛られない「リモートワーク」など社員と相談して導入すると有能な人材の維持と獲得に有効です。

研修制度の整備

何事でもそうですが、コトを始めるにはまず研修制度を整備することが求められます。社員のなかには「ダイバーシティ」という言葉を聞いたことがない人もいると思います。時間はかかりますが研修でその内容を熟知して貰えば社員にとっても有益であることが理解できると思います。まず、第一歩を踏み出すために次の2点に注力することをお勧めします。

経営層を含めた研修プログラムの実施

経営層は立場上広い情報網を持っており、他社の動向にも注視していると思いますのでダイバーシティについての知識はあると思います。そうであれば経営層自体が中心になって社員に投げかけて議論するのがダイバーシティを理解する一番の近道ですが、正確な知識を持っていないとミスリードすることが危惧されます。

「経営層も一緒に学ぶスタンス」にして、専門家で実践の経験がある方と全社員が定期的に話し合う場を設け、これからは「ダイバーシティを取り入れていかないと会社が生き残れない」という自覚をもってもらうようにするのがベターと思われます。「日本人だけの社員」「年功序列型賃金」「指示待ち社員が多い」「同質性である」などの組織だと「ダイバーシティは外国の話でしょ」と真剣に考えないと思われます。

企業文化レベルにまで引き上げ

何年か後に入社した社員が「入社したばかりで申し訳ないのですが、子どもが2歳で面倒を見なければならないので、勤務時間を短縮してもらいたいのですが」

と言われた時に、「大丈夫だよ。人事に申請しておきなさい。」と言うことができれば、「事情による勤務時間短縮は当たり前のこと」として企業文化レベルに引き上げられたと言うことができます。

英国発祥の化粧品会社「ラッシュ社」をご存じと思いますが、ALL ARE WELCOME, ALWAYS (真の意味で公平性、多様性、インクルージョンの体現を目指して)というスローガンを掲げて活動しています。ダイバーシティのフロントランナーとして様々な取り組みをしており、「ラッシュジャパン」のサイトがありますので暇がある時に訪問されることをお勧めします。


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