シンクタンクとは?意味や役割の解説と国内事例を紹介

学生でこれから就職を目指す人は最適な職場を選びたいでしょうからおそらく「シンクタンク」という言葉を聞いたことがあると思います。何事についても調査・分析をして方向性をまとめ上げるのが好きな学生であれば自分の就職先の有力な選択肢の1つにあげていると思います。そこでここでは「シンクタンクとはどのようなものなのか」意味や役割を解説するとともに、実際にシンクタンクとして活動している機関の国内事例も紹介しますので、意欲がありましたらチャレンジしてください。

シンクタンクとは?

「シンクタンク」は英語の「Think Tank」をそのまま日本語読みした

ものですから英国ではどういう意味で使われているか調べてみたところ

オックスフォード辞典に「A body of experts providing advice and ideas on specific political or economic problems.」という説明がありました。「特定の政治

的あるいは経済的問題に対して助言やアイディアを提供する専門家集団」

という意味ですので当初は政治または経済問題に限定されていたことが

窺えます。日本ではどうでしょうか?

シンクタンクの意味

シンクタンクの「think」は(じっくり)考えることですが名詞として

「思考」が適訳かと思われます。また、「tank」も色々な意味で使われ

ますがここでは気体や液体を蓄える大きな「槽(入れ物)」と捉えると

「思考集団」になります。しかし、米軍が「作戦を練る部屋」を[Think

Tank]と呼んでいたのが語源と言いますから「頭脳集団」が最適訳と言えます。

「頭脳集団」を意味する

「頭脳集団を意味する」と言われると筆者がすぐ思い浮かぶのは「NASA」です。

米国の大統領だったアイゼンハワー氏が現役時の1958年7月29日に設立したものですが、アメリカ合衆国の政府機関主導で宇宙開発の専門家が集まったまさに「頭脳集団」です。素人目からすると「どうしてこのようなことが分かるの?」というような情報を次々と開示してくれます。人間が月面に立って探検したことなど未だに信じられませんが、日本の宇宙飛行士が次々と宇宙ステーションに滞在して研究を続けている事実を目の当たりにすると「頭脳集団」の能力

の高さに驚嘆するばかりです。

政治・経済などの研究機関

日本においてシンクタンクが設立されるようになった当初は、日本国際問題研究所(後述)に見られるように政府主導型でしたから「政治・経済などの研究機関」

の位置付けになっています。

しかし、その後に企業などの発展のためにもシンクタンクが利用されるようになり、2022年4月時点で100を超えるシンクタンクがあります。特徴的なことは、大企業に属しているシンクタンクと地域やフィールドに特化したシンクタンクに二分されることです。

シンクタンクの定義

「シンクタンクは研究機関であり、政治・経済・科学技術など幅広いフィールドにおける課題や事象について調査・研究を実施して、その結果を発表し解決策を提示することを主務とする」と言うのが一般的な定義です。

シンクタンクは次のような特徴があります。

高い専門性と得意分野を持つ機関

「高い専門性と得意分野を持つ機関」と言えます。例えば、政府系のシンクタンクは、次のようなことを実施しています。

  1. 国民に関するデータ収集と分析を行い、白書や年次報告の作成・公表をする
  2. 政策に関する世論調査・シミュレーション等を行い提言する
  3. 現行のシステムや科学技術を検証し、より有用性の高いものを研究・開発し提供する

などです。

「研究所」と名乗っている場合が多い

シンクタンクの定義を踏まえて「〇〇研究所」を標ぼうするシンクタンクが多く見受けられます。実際の名称を4つ掲げます。

(政府系)

  1. 日本国際問題研究所
  2. 日本銀行金融研究所

(民間系) 

  1. 株式会社野村総合研究所
  2. 株式会社三菱総合研究所

シンクタンクの役割

日本におけるシンクタンクは政府主導の「日本国際問題研究所」が第1号ですが、その後は民間も積極的にシンクタンクを設立し、現在は100以上のシンクタンクが活動しています。活動内容はそれぞれ特徴がありますが、国や地方自治体が民間のシンクタンクを利用することが多々あります。このような状況からシンクタンクに求められる役割は次の2点は必ず満たすことが要求されます。

得意分野の調査と分析

社会状況・政治経済状況・企業状況等が目まぐるしく変化している時代になっていますので、各シンクタンクは得意とする分野の課題を引き受けて調査と分析をすべきです。

展望を提言

その上で解決策としての展望を提言すれば、世界で6,000あるシンクタンクの中でも日本のユニークさが高い評価につながると思います。世界のシンクタンクは大部分がNGO(非営利団体)であり資金集めに苦労しています。日本のように大企業が子会社として設立することや社会・地域問題などに特化してシンクタンクを設立することは珍しいと思われます。どちらの方法が良いのかはまだ分かりませんが、資金が枯渇するとシンクタンクの活動はストップする可能性が高いのでファンドレイジングはNGOにとって常に課題となっています。

シンクタンクの歴史と現在

シンクタンクがなぜ活用されるようになったのか、その歴史と現在の状況をのべます。

シンクタンクの歴史

シンクタンクの歴史を日本に限定して見た場合は、1959年に当時首相だった吉田茂氏が設立した「日本国際問題研究所」を政府系シンクタンクの第1号として挙げることができます。

日本国際問題研究所の設立

「日本国際問題研究所」は国際問題を中長期にわたり調査・研究しその結果を対外発信しています。また、「領土・主権・歴史センター」を設置しわが国の領土・主権・歴史に関する国内外の資料の収集・整理・対外発信、国内外での公開シンポジウムの実施などの事業展開をしています。

民間企業による創設が増加

1959年の「日本国際問題研究所」設立以降しばらく間が空きますが、1965年に野村総合研究所が民間初のシンクタンクを設立、これを皮切りに1970年代に入り民間シンクタンクの設立が相次ぎました。さらに1980年代後半から1990年代初頭にかけては、金融機関関連のシンクタンクの創設も相次ぎ民間企業による創設が増加しています。

近代シンクタンク

近代シンクタンクは世界的なシンクタンクの歴史でもありますので、日本との違いを知るうえでためになります。

英国のフェビアン協会

「英国のフェビアン協会」は英国の知識人を中心とした社会主義団体が1884年にロンドンで設立したものです。土地や大産業の国有化、福祉国家の樹立などを唱え当初は保守層に浸透しましたが、1900年に後に労働党となる労働代表委員会に参画したことにより、これらの主張は労働党のバックボーンになりました。

議会政治を通じての社会主義運動に大きな影響を与えています。

米国のブルッキングス研究所

米国のブルッキングス研究所は1916年にロバート・ブルッキングスによって設立されたものです。「政府活動研究所」として設立されましたが、現在の体制になったのは1927年で、その間、「経済研究所」や「公共政策大学院」を統合化しています。フランクリン・ルーズベルトが「ニューディール政策」を実行する際に世界大恐慌の分析を行い、調査報告書をまとめあげるなど、シンクタンクの先駆的役割を果たしました。現在は全米のシンクタンクのトップ機関になっています

国内のシンクタンク事情

再び日本に戻って、国内のシンクタンク事情を見てみます。

経済成長に伴い活発化

前述しましたように民間のシンクタンクの設立が相次いだのは、「経済成長に伴い活発化」したと言うことができます。日本のシンクタンクそのものが企業と密接な関係を持っていたり、経済成長が続くと行政関係が新たな事業を打ち出すのにそのアイディア出しにシンクタンクを頼ることが多いことにも原因があると思われます。

100以上の機関が活動中

「100以上の機関が活動中」はシンクタンク関係者の間で語られている数字ですが、カテゴリー別に仕分けされたものは発見できませんでした。ペンシルバニア大学の「2020 Global Go To Think Tank」によりますと日本のシンクタンク数は「137」になっています。

シンクタンクとコンサルティングファームの違い

シンクタンクは時折コンサルティングファームと間違って理解されることがありますので、その違いを説明します。

コンサルティングファームの特徴

コンサルティングファームは、課題や問題を抱える企業に手を差し伸べ、サポートをする企業です。「ファーム」と言うと農業関係のイメージが強いですが、施設などの「管理を請け負う」という意味でも使われます。

コンサルタントという人材を派遣

サポートの仕方は、「コンサルタントという人材を派遣する」ことです。具体的なサポート内容は、「事業戦略・財務戦略の策定」「業務オペレーション改革」「システム構築・システム導入」「企業組織の変更」「M&A」など多岐にわたります。依頼者側の希望する作業内容に適した専門家を派遣することになります。

人月商売

「人月商売」という言葉は聞きなれない言葉と思われますが、業界用語で「1人の人が1カ月稼働して生産できる量」を言います。顧客から「人月単価いくらですか?」と聞かれることがあります。覚えておいて、プロジェクトの一つにあてはめて計算するなどの経験を積んでおくと役にたちます。

シンクタンクとの違い

シンクタンクとコンサルティングファームの違いを見てみます。

シンクタンクは情報を商材とする

コンサルティングファームは、企業から依頼を受けて最適と思われる専門家が

その企業に派遣され、企業が抱える課題や問題点の解決に協力するのに対して、シンクタンクは「情報を商材」としています。与えられた課題について頭脳集団が徹底的に分析して問題点等を把握し、解決策まで検討して情報としてフィードバックするものです。

民間シンクタンクとは違いがなくなりつつある

民間のシンクタンクは大企業の場合は自社内に独立したシンクタンクを設けて自社の問題解決に利用したり、ジャンルや課題ごとに専門のシンクタンクが設立される傾向がありますので、コンサルティングファームとの違いがなくなりつつあります。

国内シンクタンクの事例

ここでは政府系のシンクタンクと民間系のシンクタンクをそれぞれ5

例紹介します。

政府系シンクタンク

政府系シンクタンクとして次の5つの機関を紹介します。

経済社会総合研究所

経済社会総合研究所は内閣府に属するシンクタンクです。元は経済企画庁経済研究所として活動していましたが、2001年の中央官庁再編時に内閣府に移りました。政府系シンクタンクとして「経済活動・政策」「社会活動に関する理論・政策研究」を行っています。四半期のGDP統計、消費者動向調査を含む景気統計の公表などで国民との接点があります。

財務総合政策研究所

財務総合政策研究所は1985年に財政金融研究所として発足しましたが、財務省が2000年に発足した時に現在の名称に変更されました。財務省の政府系シンクタンクとして活動の主軸を財政経済の調査・研究に置いています。財政経済政策を立案するに当たりグローバル化に対応した海外のシンクタンクとの交流や開発途上国への支援も視野に入れた対応をしています。その他に法人企業の統計調査も担当しています。

日本国際問題研究所

日本国際問題研究所は1959年に吉田茂氏が首相をしていた時に設立した公益財団法人のシンクタンクです。国際問題の研究、知識普及、海外交流の活性化を目的としております。

1960年9月からは外務省所管の公益財団法人となり「研究活動・講演会・シンポジウム・出版」などの活動を実施しています。2008年から米国ペンシルバニア大学が行っている「世界のシンクタンク調査結果」では、世界にある6,300以上のシンクタンクのうちで、アジア部門におけるトップを3年連続で獲得するなど世界的にも広く知られた組織です。国民との接点としては、雑誌「国際問題」を刊行し、時事的な国際問題の分析・検討結果を報告しています。

日本銀行金融研究所

日本銀行金融研究所は、日本銀行創立100周年を記念して日本銀行の内部組織の1つとして、昭和57年10月に設立されたものです。目的は次の通りです。

  1. 日銀政策の適切な運営に役立てるため、金融経済の理論・制度・歴史に関する基礎的研究の充実を図る
  2. 学会との交流を促進させる
  3. 外部の研究活動の便宜に役立つ各種情報・資料等を公開する

というものです。この目的に基づいて様々な金融関係の研究活動が行われています。

科学技術・学術政策研究所

科学技術・学術政策研究所は国家行政組織法に基づく文部科学省直轄の国立試験研究機関です。国の科学技術政策立案過程の一翼を担うために設立されたもので次の3つの役割を担っています。

  1. 将来新たに発生する政策課題を予見し、自発的かつ掘り下げた調査研究を行う。
  2. 行政部局からの要請を踏まえ、機動的な調査研究を行う。
  3. 科学技術・学術政策研究の中核機関として、他の研究機関や研究者と連携して研究活動を展開し、基盤となる各種データを提供する。

というものです。 

民間シンクタンク

民間シンクタンクについては次の5例を紹介します。

株式会社野村総合研究所

株式会社野村総合研究所は日本で初めての民間総合シンクタンクである株式会社野村総合研究所とシステム開発会社の 野村コンピューターシステム開発株式会社が合併して誕生したものです。この合併でシンクタンクとしての活動領域が拡大して、企業や官公庁に対してもトータルなコンサルティング事業を展開しています。2019年に行われたペンシルバニア大学のグローバル・シンクタンク・ランキングでは、営利企業部門でトップになっています。本社が大手町にあるためか就活中の東大生が選ぶ就職先ランキングでは2018年と2020年にトップでした。

みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社

みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社は、みずほファイナンシャルグループのシンクタンク、システム開発会社です。「先端技術への挑戦」をスローガンに、「リサーチ」「コンサルティング」「ITデジタル」関係の顧客の依頼に応えています。

株式会社東京海上研究所

株式会社東京海上研究所は、東京海上日動火災保険株式会社を株主とする民間のシンクタンクとして1992年4月に設立されました。母体が保険関係事業をメインとしていますので、保険関係の調査・研究を強みとしています。シンクタンクとして受託する調査・研究内容は保険以外でも「国内外の経済、金融、政治、社会、産業、企業、科学技術等に関する調査・研究」など広範囲にわたります。調査・研究以外の事業としては、各種講演会やセミナーの開催あるいは刊行物の出版なども行っています。

株式会社NTTデータ経営研究所

株式会社NTTデータ経営研究所は、株式会社NTTデータの100%出資による子会社として1991年4月に設立されました。民間のシンクタンクとして次のような事業を展開しています。

コンサルティング関係業務として

  1. 企業経営および行政に関する調査研究
  2. 情報および通信システムの企画・開発に関する調査研究
  3. 経済、社会、産業、文化等に関する調査研究

などです。

このほかに教育研修・セミナーの実施・運営、情報の提供ならびに刊行物の出版なども行っています。

株式会社三菱総合研究所

株式会社三菱総合研究所は三菱創業100周年を記念して1970年5月に設立され同年の9月から事業を開始しております。「独立」「学際」「未来志向」を基本理念として

当初はコンピューター事業・ソフト開発事業が中心でしたが、現在は各種の研究開発事業も請け負う民間のシンクタンクとなっています。事業実施の過程で国の重要なプロジェクトや外国のプロジェクトにも積極的に参画し、日本唯一のあらゆる科学技術分野をカバーできる「総合シンクタンク」としてのポジションも確立しています。

創業50周年となる2020年には「これからの未来共創」を目指して経営理念の刷新を行うとともに「DX事業部門の設置」をするなど常に未来志向の事業運営をしています。


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