マトリクス組織とは?メリットとデメリット、導入する際の注意点も解説

人材の有効活用やコストカット手段として検討されるのが「マトリクス組織の導入」です。

本記事では、マトリクス組織についての基礎知識からメリットやデメリット、そして導入する際に必要な注意点まで分かりやすく解説しますので導入を検討する際の参考にしてみてください。

マトリクス組織とは

「マトリクス」の意味は知っていますか?元々は「数学の行列」といった意味ですが、ビジネスにおいては縦軸と横軸、2つの要素についてデータを分類する「マトリクス図」がおなじみでしょう。

マトリクス組織はつまり「複数の軸」から構成される組織といった意味合いを持ちます。

マトリクス組織の概要

マトリクス組織は、例えば「職能別組織と地域別組織」のように、一人の従業員が複数の部門に所属する組織です。

職能別組織と地域別組織の混合

マトリクス組織では「営業」「製造」といった職能別組織と、「エリア別」「製品別」などの地域別組織といった複数の組織軸があり、それぞれの軸で別の指揮系統が存在します。

従業員が複数の組織に所属

従来の一般的な会社組織であれば、「人事部」「営業部」といったように、一人の従業員はひとつの組織に属し、基本的には同じ部署の人間を中心に共に業務を行います。

しかしマトリクス組織では、従業員が「職能別」と「地域別」など複数の組織に所属します。従来の職能別のみの組織に比べ柔軟な組織運営が可能なため、複数の専門分野が必要なプロジェクトや製品開発などの業務に適しています。

マトリクス組織の目的

マトリクス組織の目的は、機能別組織と地域別組織の混合による効率的な業務遂行の実現です。従来の組織形態に比べ柔軟性と反応性が高く、複雑な業務にも対応できる利点があります。

対応力の強化

マトリクス組織は、各職能同士での横断的な情報共有が行われるため、迅速な意思決定や問題解決が可能になり対応力が強化します。

また、メンバーがプロジェクトの進行状況をよりリアルタイムに把握できるため、変化に対応するスピードが速くなるというメリットがあります。

業務の同時進行

マトリクス組織では、複数の組織が同時に業務を進められます。

専門性の高い各職能の従業員がプロジェクトに参加し、複数の視点から業務に取り組むことにより業務が効率的になる、個々の従業員のスキルが向上するといった効果が期待できます。

マトリクス組織の種類

マトリクス組織には、ストロング型・ウィーク型・バランス型の3つのタイプがあります。これらのタイプは、マトリクス組織における機能別組織と地域別組織の役割分担や、権限・責任の配分などによって異なります。

ストロング型

ストロング型のマトリクス組織は、プロジェクトマネジメント専門のメンバーがプロジェクトリーダーになり、強い権限の下にプロジェクト管理とメンバーへの指揮を行う形式です。

ウィーク型

ウィーク型のマトリクス組織は、プロジェクトリーダーを持たず、プロジェクトメンバーが話し合った決定事項に沿って業務を進める形式です。

バランス型

バランス型のマトリクス組織は、プロジェクトンバーの中からプロジェクトリーダーを決め、プロジェクト管理とメンバーへの指揮を行う形式です。

マトリクス組織が導入された背景

マトリクス組織が導入された背景には、現代の企業が抱えるいくつかの問題点がありました。

働き手の不足

近年、日本は少子化と人口減少が進んでおり、人手不足が深刻化しています。このため、企業は限られた人員で業務を効率的にこなすために、新しい組織形態を模索するようになりました。

少子化と人口減少

少子化により就労可能な人口が減少しており、採用や人材育成において企業が直面する課題は深刻化しています。このような状況下で人材の有効活用が求められ、マトリクス組織が注目を集めています。

機械化やAIの導入

また、機械化やAIの導入が進む現代社会においては、人と機械が共存する環境で、「人にできること」と「機械やAIに任せて省力化すること」を分ける動きが出ています。

機械やAIに業務の一部を行わせる分、従業員には業務専門性や能力を生かして人間にしかできない業務を任せてできるだけ活用する方向性になってきた点もマトリクス組織導入の背景といえます。

従業員の高齢化

少子高齢化が進んだことによる、従業員の高齢化と業務を引き継ぐ人材不足という点もマトリクス組織導入の背景の一つです。

シニア雇用の増加

シニア雇用の増加により、多様な年代層が混在する職場が増えています。

こうした状況下で、マトリクス組織は年齢や経験によって形成された部署と業務内容に応じた部署との連携により、シニア層の知識や経験を活用し組織全体の対応力を高める効果が期待できます。

知識とスキルの伝承

従業員の高齢化による課題の一つが、高齢化した従業員が引退するまでに、業務遂行に支障をきたさないために残る従業員に培ったスキルや知識、見識を伝承することです。

働き方改革

マトリクス組織が導入された背景には、働き方改革の推進もあります。

多様な働き方の促進

フレックスタイムや時短勤務など、働き方改革によって従業員の多様な働き方は促進された半面、人材不足も企業の課題となりました。

テレワークの普及

また、テレワークの普及によって、従来の部門ごとに独立している組織形態だけでは連携が取りにくかったり人材が不足したりという問題が発生する場合もあります。

コストカット

人手不足と合わせて大きな要因となったのが、長引く不況と価格競争によるコストカットの重要性です。

人員削減

マトリクス組織は、多くの場合、部門間の情報共有が行われ、部門間で業務を共有するため、その部門の人員を削減できます。そのため、経費削減と人手不足、両方の課題を解決できる方法として取り入れられるようになりました。

採用に苦労する企業

コストカットの必要性と少子化により採用に苦労する企業にとって、内部で業務遂行に必要な人材を確保する必要性がありました。

マトリクス組織のメリットとデメリット

マトリクス組織の概要と背景について解説したところで、具体的なメリットとデメリットについて見ていきましょう。

マトリクス組織のメリット

マトリクス組織のメリットには、業務の円滑化・品質の向上・管理側の負担軽減などがあります。

業務の円滑化

メリットにはまず、業務の円滑化が挙げられます。マトリクス組織は、プロジェクトごとにチームを編成するため、専門性の高いメンバーが集まり連携もしやすくなります。その結果、効率化が図れて業務が円滑に進む効果があります。

品質の向上

また、品質の向上も期待できます。マトリクス組織は各部署の連携での業務遂行により、複数の視点からプロジェクトを進められます。これにより、製品やサービスの品質だけでなく従業員のスキルも向上できます。

管理側の負担軽減

さらに、管理側の負担軽減もメリットの一つです。プロジェクトマネージャーが全体を統括するマトリクス組織では、部署長や上司が全ての管理や調整をする必要がありません。そのため、管理の煩雑さが軽減されます。

マトリクス組織のデメリット

マトリクス組織のデメリットは、命令系統の二元化・業務の複雑化・従業員のストレスなどです。

命令系統の二元化

マトリクス組織では、従来の部門ごとの上下関係に加え、プロジェクトごとの上下関係も存在します。管理者の負担が減る反面、指示命令が二元化して複雑になります。問題となるのは、複数の上司間で指示が異なる場合に業務に支障が出る可能性です。

業務の複雑化

マトリクス組織では、部門ごとに専門性の高い業務を行う従業員が複数のプロジェクトに参加します。そのため業務内容が複雑化することがあり、一人あたりの業務量が増えてしまう可能性があります。

従業員にストレス

複数の上司やプロジェクトに所属することで、報告や連絡、調整が煩雑になりストレスがかかりやすくなります。

マトリクス組織の注意点

マトリクス組織を導入する場合の注意点は、業務が複雑化する従業員の業務管理とストレス管理でしょう。

従業員の業務管理

多くのメリットの反面、複数の業務を抱えることになるため、管理者側が個々の従業員の業務量を把握して適切に管理・配分するようなマネジメントが重要になってくるでしょう。

業務量の偏り

マトリクス組織では、従来の縦割り型の組織に比べて、多様なプロジェクトに従事することになるため、業務の偏りが起こりがちです。そのため、各従業員の能力や適性を正しく把握し、適切な業務量を割り振ることが重要です。

管理者のマネジメントが重要

マトリクス組織では、プロジェクトごとに異なる上司やリーダーが存在するため、従業員の管理が複雑化します。

そのためマネジメント能力の高い管理者を配置し、各プロジェクトの進捗状況や従業員の業務量・負担状況などを適切に把握し、問題があれば早期に解決することが求められます。

従業員のストレス管理

業務量が多くなりやすく、また各組織への気遣いが必要になるため、従業員はストレスを感じやすくなります。そのためマネージャーは、従業員への負担を考慮した業務の割り当てやストレス管理の実施が必要です。

業務量が多くなりやすい

マトリクス組織では、従業員に多くの業務が割り当てられる場合があります。気が付いたら抱えきれないほどの業務量になっていて業務が続けられなくなるといった状態が起こる可能性にも注意が必要です。

気を遣うことが増える

また、それぞれの上司からの指示を受けて業務を進めるため、従業員は多くの報告や調整で気を遣うことが増え、ストレスが増大する可能性があります。

残業時間が増えやすい

マトリクス組織においては一人の従業員が複数のプロジェクトに関わることが多く、残業時間が増える傾向があります。

ストレスチェックの導入

従業員のストレス具合を客観的に把握できるのがストレスチェックです。

ストレスチェックは、従業員のストレスの原因を把握して適切な対策を取るために行われます。ストレスチェックの結果をもとに、管理者は従業員の健康管理や休養を勧めるなどストレス解消のための取り組みを行います。

セルフケア研修の実施

多くの従業員のストレス状態を把握するのは大変です。そのため、従業員が自身のストレスを管理するためのスキルや知識を身につけるセルフケア研修も効果的です。

具体的には、ストレスを感じたときにどのように対処すべきか、リラックス方法や運動、栄養などの健康管理方法などについて学び、ストレスによる精神・身体的問題が発生する前に適切な対処ができるようにします。

まとめ

マトリクス組織は職能別・地域別やプロジェクト別にチームが組まれる組織形態で、業務の円滑化や品質の向上、管理側の負担軽減などのメリットがあります。しかし、命令系統の二元化や業務の複雑化などのデメリットがあるため、従業員の業務管理やストレス管理、管理者のマネジメントなどに注意が必要です。

そのため、マトリクス組織を導入して効果を上げるためには、これらの問題を解決するための具体的な対策も合わせて講じることが求められるでしょう。


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