会計基準を表すGAAPという言葉ですが、聞いたことはあるけどよくわからないという方も多いのではないでしょうか。今回は米国会計基準であるUS‐GAAPの意味を日本の会計基準であるJA-GAAPと比較しながらわかりやすく説明していきます。
US-GAAPとは
US-GAAPとは、アメリカ版の会計基準を指します。わかりやすく言うと会計の法律です。
GAAPは、Generally Accepted Accounting Principles(一般に公正妥当と認められた会計原則)の略語です。「ギァープ、ガープ」と読みます。企業は財務諸表をGAAPに基づいて作成しなくてはいけません。
日本の会社が日本で上場する場合に認められている連結財務諸表の作成基準は以下の4つです。
- US-GAAP(アメリカ会計基準)
- JA-GAAP(日本会計基準)
- IFRS(国際財務報告基準)
- J-IFRS(修正国際基準JMIS)
その中の一つであるUS-GAAP(アメリカ会計基準)について、深堀していきましょう。
US-GAAPとJA-GAAPの違い
JA-GAAPは日本の会計基準であり、日本企業にとっては1番馴染みのある会計基準といえます。JA‐GAAPはUS‐GAAPを参考に設定されているため、非常によく似ています。
ここではUS‐GAAPとJA‐GAAPの違いについてみていきましょう。
のれんについての違い
のれんは企業をM&A(買収)したときの買収価格と、買収された企業の純資産との差です。
具体的に説明すると、A社がB社を30億円で購入したとします。B社の純資産が28億円の場合、残りの2億円がのれんとして計上されます。
のれんとして計上された2億円には、目に見えない無形資産(顧客リスト・ブランド力・人材力・経営ノウハウ)が該当します。
US-GAAPではのれんを償却しません。M&Aをして数年後に価値がないと判断した場合、2億円の価値とされていたのれんが0円になる可能性もあります。
対してJA‐GAAPでは20年以内の均等割りで償却していきます。2億円ののれんの場合は、毎年1,000万円ずつ資産価値が下がり、20年後に消えていきます。
金融資産・有価証券の違い
有価証券の違いについても基本的にはのれんの違いとおなじです。
保有している金融資産や有価証券の価値が下がった場合、US-GAAPの場合はその差分を損益計算書に計上しません。
連結範囲の違い
子会社を有する企業は、親会社とその子会社を1つの企業とみなして表示する連結財務諸表を作成します。そしてUS-GAAPとJA-GAAPではこの連結の範囲が異なります。
US-GAAPは変動持分事業体を連結します。対してJA-GAAPは実質支配基準による子会社の判定に関する詳細なガイダンスが存在しており、当該ガイダンスにより連結範囲を決めています。
給付の違い
退職給付会計基準についてはUS-GAAPとJA-GAAPで基本的な考えに違いはありません。
ただし、US‐GAAPでは回廊アプローチが採用されています。回廊アプローチとは、US-GAAPやIFRSにおいて認められている償却方法です。未認識の保険数理差損益に一定の許容範囲(=回廊)を設け、許容範囲内であれば、これを費用または収益として認識しない方法をいいます。この方式は、JA-GAAPでは採用されていません。
US-GAAPを採用する日本企業
次にUS‐GAAPを採用する日本企業を見ていきましょう。
US-GAAPを採用している日本企業は2022年11月現在で10社あります。
・株式会社東芝
US‐GAAPを適用する日本企業は年々減少していますが、US‐GAAPを採用しアメリカに直接上場する日本企業は増加傾向にあります。
Non-GAAPとは
Non-GAAPは、米国会計基準に基づいていない決算書をさします。
わかりやすくいうと、GAAPから一時的な損益を除いた調整後の金額がNon-GAAPです。
GAAPでは会計の計算方法がやや異なっており、GAAPとNon-GAAPでは最終的に手元に残る純利益に僅かではありますが差額が生まれます。
IFRSとは
IFRSとは International Financial Reporting Standardsの略称であり、世界100か国以上で採用されている国際会計基準です。「イファース」と読みます。日本語では「国際財務報告基準」と言います。
会計基準は国によって異なります。日本の場合はJA‐GAAPを採用しており、お隣の国韓国ではKorean-GAAPを採用しています。
日本国内の企業同士を比較することは簡単ですが、日本企業とアメリカ企業では会計基準が異なるため比較することが難しいですよね。
このような状況を解決すべく、EUを中心に世界の会計基準を国際財務報告基準IFRSに統一する動きが加速しています。実際にEU域内の企業では2005年からIFRSに準拠した連結財務諸表の公表が強制されました。
US-GAAPとの違い
IFRSとUS‐GAAPの違いを説明します。
まず、IFRSは国際財務報告基準であり、US-GAAPはアメリカの会計基準です。
従前は2大会計基準とされていました。
しかし、世界中でIFRSを採用する流れが加速しているため、US-GAAPはコンバージェンス作業を推し勧めた結果、2008年末にはIFRSとUSGAAPの重要な差異は解消しています。
コンバージェンスとは自国の会計基準を保ちながら、毎年会計基準をIFRSに近づけて、スムーズにIFRSに切り替えることです。
JA-GAAPとの違い
IFRSとJA‐GAAPの違いを説明します。
まず、IFRSが国際基準であり、JA‐GAAPは日本の会計基準です。そしてIFRSは原則主義であることに対し、JA‐GAAPは条文主義、IFRSは賃借対照表重視であることに対し、JA‐GAAPは損益計算書重視という違いがあります。
J-IFRSとは
J-IFRSとは日本版のIFRSです。修正国際基準(JMIS)ともよばれています。
国際財務報告基準IFRSの一部は日本の会計基準と大きく異なるため、このような部分について日本の会計基準に合わせて国際会計基準を修正したJ-IFRS(修正国際基準JMIS)が制定され、2016年3月の決算期から採用が可能となりました。
会計基準が複数ある理由
金融商品取引法に基づく連結財務諸表の作成基準は以下の4つです。
・US-GAAP(アメリカ会計基準)
・JA-GAAP(日本会計基準)
・IFRS(国際財務報告基準)
・J-IFRS(修正国際基準JMIS)
このように会計基準が複数ある理由を説明します。
今までは国ごとに歴史や経済環境が異なるため、自国に適した会計基準(JA-GAAP)を定めていました。
しかしEUを始め世界中で会計基準を統一させようという声が上がり、IFRS(国際財務報告基準)が誕生しました。
そこで自国の会計基準を採用していた企業が、グローバル化の波に乗るためにUS-GAAPやIFRSの採択を検討し始め、日本の会計基準に合わせて修正したJ-IFRS(修正国際基準JMIS)が制定されたため、会計基準が複数存在します。
まとめ
世界では、会計基準をEUが提唱するIFRSに統一しようという動きが加速しています。
しかし、いきなり会計基準をIFRSに変更すると、反発が起きてしまいます。
そのため、US-GAAPやJA-GAAPなど自国の会計基準を保ちながら、毎年会計基準をIFRSに近づけて、スムーズにIFRSに切り替える「コンバージェンス」が進められています。
つまり米国会計基準や日本会計基準は、毎年少しずつルールを変えながらIFRSの基準へと寄せているのです。
日本の会計基準はコンバージェンスさせながらIFRSに近づいていますが、実際にIFRSを採用している日本企業よりもJA-GAAPを採用している日本企業のほうが多いのが現状です。
投資家の関心を高めるためには、IFRSによる連結財務諸表を公開するに越したことはありませんが、JA-GAAPやUS-GAAPを採用している企業がIFRSに変更する場合、会計処理コストの増加など懸念されています。
自社に最適な会計基準を選択するためにも、引き続き世界の動向に注目し検討していきましょう。