上場企業会計改革および投資家保護法
上場企業会計改革および投資家保護法は、「SOX法」と呼ばれることがあります。
投資家が正しい企業の公開情報を知ることができるよう、情報の正確性を守るために制定されました。
エンロン事件・ワールドコム事件がきっかけ
法律の制定のきっかけとなったのは、「エンロン事件・ワールドコム事件」です。
2001年から2002年にかけて、アメリカ経済は景気低迷により企業経営が厳しい時期がありました。
その打撃を受け、アメリカの大手総合エネルギー企業であるエンロン社は業績赤字が発生しました。赤字を揉み消すために不正会計を行い、株主をはじめとする世間の信用を失墜する大きな出来事がありました。
それに続き、アメリカ通信会社大手のワールドコム社も、業績赤字から不正会計に手を染めました。
エンロン事件とワールドコム事件を受け、企業会計や財務会計制度の不正防止強化が重要視されるようになり、SOX法が制定されました。
粉飾決算などの不正を防ぐ必要性が高まる
粉飾決算と言われる不正会計や開示情報の虚偽により、株主をはじめとする世間の信頼性の低下が起こります。その結果、株価暴落や倒産、解雇が起こり、株主や消費者、従業員などの会社に関わる人に大きな影響を及ぼしてしまいます。会社に関わる人を守るためにも不正を防止することが求められるようになり、不正の取り締まりをSOX法をもって厳しく取り締まる運びになりました。
サーベンス・オクスリー法(略称SOX法)の成立
SOX法はポール・サーベンス(Paul Sarbanes)とマイケル・G・オクスリー(Michael G.Oxley)議員の二人の名前から取った「Sarbanes‐Oxley act」(サーベンス・オクスリー法)が由来となっています。
SOX法の適用範囲は?
SOX法が適用される範囲は自社の支配力が及ぶ範囲になります。なので、連結子会社に含まれる子会社、持分会社、存外子会社(国外の子会社)、外部委託先が対象となります。
SOX法はヨーロッパにもある?
ヨーロッパにはSOX法の様な法律は存在しませんが、企業不正を防止するための社内の取組が定義された「規程」が存在します。イギリスやドイツ、フランスなどでは、国内で上場する企業に対し規程に準拠した取組みを義務付けています。内容はSOX法とほとんど同じく、企業の公表する財務会計の情報を中心に、正確な情報を株主に提供できるよう社内体制の強化や主要機関への報告などです。
SOX法を成立させた目的とは?
企業の内部統制を強化
“情報を公開する企業にとって、情報の正確性を守るための法律がないと、いくらでも改ざんができてしまいます。このような改ざんを防止するためにも法律を定めることにより、企業内部での不正防止の取組強化や株主をはじめとするステークホルダーへの安心の提供を実現しています。”
事業と財務の透明性を維持
企業の公開する事業内容や財務情報、経営状況は、株主をはじめとするステークホルダーが意思決定をするための大事な判断材料です。そのため、公開する情報は企業に関わるステークホルダーが妥当な意思決定ができるよう、正しい情報を公開する必要があります。SOX法では、情報の妥当性を担保するために、社内における責任者や第三者によるチェックを行うことで透明性を維持できる仕組みを確立しています。
外部の監査機関による監査
SOX法には情報の妥当性担保を強化するために、外部の第三者機関による監査義務が定義されています。SOX法では、企業内で経営者が評価した結果を再度、外部の監査機関が監査する二重監査になっています。
市場での信頼を確保
ステークホルダーから信頼を得ることは、企業にとって非常に大事なことです。公開する情報の正確性はステークホルダーやそれを取巻く市場での信頼性の確保につながります。
株主・投資家の保護
企業が公開する情報の正確性を保証することは、株主や投資家を守ることに繋がります。企業へ投資をする株主や投資家は、企業の業績や安定性などを見て投資判断をします。企業から公開されている情報が誤っている場合、投資家は意思決定を誤り損害を受けることになります。このような観点からも企業は財務状況や経営成績を適正に報告することが必要です。
消費者・取引先の保護
株主や投資家だけでなく、消費者や取引先も企業の公表する情報を元に日々、判断をしています。企業が公開している情報を信頼し取引をしているため、不正確な情報を提供してしまうと判断を誤ることに繋がります。そのため、公開する情報には責任をもって対応することが企業に求められています。
SOX法の内容
適正な年次報告書の公開を義務付け
企業が透明性の高い財務情報を公表するための仕組みとして、SOX法では企業が年度ごとに発行する「年次報告書」の公表を義務付けています。
宣誓書の提出
企業は年次報告書が適切なプロセスを経て作成され、財務情報などの公開情報に対して正確性や完全性があることを宣言する必要があります。宣言内容は「宣誓書」として企業のCEOやCFOが掲げます。これはSOX法302条に定められ、義務付けられています。
罰則の強化
SOX法には「ホワイトカラー犯罪に対する罰則強化」に関する事項が定義されています。主に、違反時の罰金の上限額引上げによる罰則強化を図っています。粉飾決算や虚偽の情報公開のほか、市場操作やインサイダー取引等、株主や投資家に影響を与える不正が適用となっています。
会計事務所による監査の義務付け
SOX法には経営者が行う内部統制評価と、公認会計士などの監査人が行う評価の2つが存在します。
監査報告書の作成
監査人は企業の財務情報に虚偽がないか、内部統制の手続きが適性に行われているかを監査します。監査した結果をエビデンスと共に意見として報告書にまとめます。報告書は企業のCEOやCFOが報告した評価内容が適性であることを証明する役割があります。
評価の報告義務
会計事務所を含む監査人は報告書に評価した内容を報告する義務が課されています。要求されている報告内容は、
・財務報告に係る内部統制を整備し、維持する責任が経営者にある旨
・財務報告に係る内部統制の評価結果(年度末時点)
・外部監査人がアテステーション(証明)報告書を発行した旨
があります。
J-SOX法とは?
内部統制報告制度
J-SOX法は内部統制報告制度とも呼ばれ、金融庁管轄の法律です。
米国のSOX法をもとに制定
J-SOX法はアメリカで制定されたSOX法を元に作られました。2006年6月に金融商品取引法が成立した際に規定され、「日本のSOX法」ということから「J-SOX法」と呼ばれています。
企業のコンプライアンス欠如の防止
J-SOX法制定の背景には、企業のコンプライアンス(法令順守)意識を強化し、不正や不祥事を防止する目的があります。コンプライアンスを守るためには内部統制を適切に機能させることが必要です。
J-SOXにより課せられる義務
内部統制が正常に機能していることを示すために、J-SOX法では条件を満たす対象企業に対し、内部統制報告書の作成と提出が義務付けています。
内部統制報告書の提出
内部統制報告書の提出は、上場企業が対象になります。上場企業は財務報告に対する内部統制の実施結果を、内部統制報告書に記載し内閣総理大臣へ提出する必要があります。内容が適正でない場合、罰金を課される場合もあります。
有価証券報告書の提出
内部統制報告書と共に、財務情報も提出することをJ-SOX法では規定されています。財務情報は、事業年度ごとに作成される財務諸表や連結財務諸表などの財務計算書を指します。これら財務情報や事業状況等の情報は有価証券報告書にまとめられ、内部統制報告書と共に内閣総理大臣へ提出されます。
J-SOX法の対象企業と対応方法
全ての上場企業が対象
J-SOX法が適用される企業は、金融商品取引所に上場している企業になります。
子会社も対象となる
企業決算に関わる範囲が対象のため、子会社をはじめとするグループ会社がJ-SOX法の対象になります。
違反すると罰則が課せられる
規定されている内容に違反をすると、懲役や多額の罰金を受けることになります。
J-SOX法への対応方法
内部統制の整備と報告書の作成
内部統制に対する評価ができるよう、社内業務フローの整理や評価ができる仕組みの構築を進めていきます。内部統制に対する評価結果を記載する内部統制報告書の作成も実施します。
公認会計士や監査法人に監査を依頼
J-SOX法では第三者による監査を義務付けています。そのため、社内で内部統制を評価した後、第三者による監査が行われます。監査は公認会計士や監査法人が「内部統制報告書や財務情報の内容が適正であるか」を評価していきます。
SOX法の日本と米国での違いは?
内部統制に対する評価方法
SOX法とJ-SOX法には、内部統制を評価する評価区分が存在します。しかし、評価に対し異なる点がいくつかあります。
J-SOXでは内部統制不備の評価を簡略化
内部統制の不備を評価する区分として、SOX法では「重要な欠陥」「重大な不備」「軽微な不備」の3つがあります。一方、J-SOX法には、 「重要な欠陥」「不備」の2つに簡略化されています。
J-SOXでは二重評価をしない
外部監査においても、SOX法は経営者が評価した内容を外部監査人が1から監査する二重評価システムを採用しています。J-SOX法では、評価の効率化を図るために、経営者の評価結果のみを外部監査人が監査をするシステムを採用しています。
J-SOX独自の項目を追加
SOX法には内部統制の目的が3つありますが、J-SOX法ではそこに2つの独自の目的を追加しています。
資産の保全
J-SOX法には「資産の保全」という独自項目が存在しています。企業にとって資産は利益を出すために重要な項目です。そのため、資産に対する適切な管理が必要と考えられ、企業資産を適切に管理することを目的として定められました。
ITへの対応
ITシステムを用いて業務をする機会が増えたことから、IT統制の強化も注目されています。社内のITを適切に使用・管理できることや安全性の高いシステムを選択することが求められています。J-SOX法には、このようなITへの対応を行うことが定められています。