コロナが完全に収束したわけではありませんが、マスクの着用は各自の判断になりましたね。今年は対面式で入社式を実施した企業が8割を超えていますので、厳しい就職戦線を乗り越えて希望する企業に就職できた方たちは、コロナ禍以後で初めてノーマルな入社式を経験することができ、幸運だと思います。
「出だし良ければすべて良し。」この言葉は本の書き出しに使われていたものですが、今年就職できた方たちは新たな人生を無事に出発できたことと思います。そして早速「マーコム」の担当を任されているのかもしれません。もしそうであれば、「マーコムとはどのようなことをいうのか、その基本となる分析や担当者の仕事、注意点も解説」しますので、ぜひ参考にして、マーコムのスペシャリストになってください。
「終わり良ければすべて良し(All’s Well That Ends Well)」というシェイクスピアの名言が
ありますので、中途で困難な事項に遭遇しても最終的に良い結果が得られるように貴方のご健闘を期待しております。
マーコムとは
「マーコム」という言葉を耳にしたことがありますか?企業に就職して1週間も経てば、マーケティングの話題は必ず出ると思いますので聞いたことがあると思いますが、マーコムは英語の「マーケティングコミュニケーション(Marketing Communication)」をカタカナ読みにした上でさらに簡略化したものです。
マーケティングコミュニケーションの略
「マーケティングコミュニケーションの略」と言われてもマーケティングコミュニケーションそのものがどういうものなのか分からないと思いますので説明します。
マーケティングを通じたコミュニケーション
「マーケティングを通じたコミュニケーション」とは近年の企業の販売戦略の1つとして重要視されているマーケティング手法です。従来は企業が顧客のニーズを探って開発した製品やサービスについて広告媒体を使って企業側が一方的に宣伝するパターンが一般的でした。
しかし、この方式だと必ずしも顧客のニーズを正確に把握したわけではありませんので、失敗に終わることがあります。そこで、企業が顧客を巻き込んで双方の間で会話を重ねながら情報発信して販売促進をする手法が取り入れられるようになりました。このような手法を「マーケティングコミュニケーション」と言っております。
適切な例ではないかもしれませんが、MLBのW杯大会で、侍Jの大谷選手を初めほぼ全員の選手関連グッズが飛ぶように売れて品薄状態が続いていることをメディアが報じていました。日本の試合がない日でもグッズを求めて球場を取り囲む日本人の姿を見ていると連帯意識が強い民族であることに誇りを感じました。グッズ製造企業はおそらく期間が限定されていて、一時的なものなのでニーズはそれほどないだろうと判断していたと思われます。しかし、テレビ・通販サイト・SNSなどで取り上げられ、口コミなども通じて日本人としての仲間意識が啓発され、それが拡散されてヒット商品になったのではないかと推測しております。
このことを知って、マーコムもこのような幸運に恵まれる可能性はかなり高いのではないかと喜んでいます。マーコムはマーケティングオペレーションの部門の中では目立たない存在です。しかし、企業やその製品のブランド化を実現する使命があります。
今回のW杯では、チーム侍Jが世界最高のブランドであることを全世界が認知し、ブランドに値する選手も輩出しました。選手や監督、それを補佐するコーチや身の回りを世話してくれるスタッフ、そして内外の応援団が心を一つにして盛り上げてくれた結果だと思います。
前述しましたように、顧客に参加してもらい、会話を重ねながら顧客ニーズに合致する製品やサービスを提供し続ければ、貴社のブランド化やブランド製品が案外早く実現するものと確信しております。
デマンドジェネレーションとの違い
マーケティングコミュニケーションの対極にあると言われている販売手法に「デマンドジェネレーション」があります。デマンド「Demand」は英語で「需要」の意味があり、ジェネレーション「Generation」はビジネスの世界では「創出・産出・生成」などの意味で使われています。したがって「デマンドジェネレーション」は「需要の創出」という意味になります。具体的には将来自社の顧客になってくれそうな見込み客(リード)の情報を大量に集めて育成し、見込み客になりそうな人を選別して最終的に「見込み顧客」として営業部門に引き渡す一連の活動をデマンドジェネレーションと呼んでいます。マーケティングコミュニケーションのように企業と顧客が会話を重ねながら情報発信するスタイルは取りません。
マーコムの目的
マーコムという言葉は前述しましたように「マーケティングコミュニケーション」ですから、企業が商品やサービスをマーケットに出す場合は頻繁に使用される用語です。
マーコムの目的として2点取り上げます。「企業と顧客の良好な関係を維持」することと
「市場反応などの情報収集」することです。
企業と顧客の良好な関係を維持
マーケティングで良く使われる言葉に「リテンション(retention)」があります。同じ顧客でも自社製品やサービスを複数回購入してくれた人と初めての人がいます。リテンションは「保持」という意味で使われますが、複数回購入してくれた人を最初にリテンションの対象にします。
そのためには「企業と顧客の良好な関係を維持」することが大切です。店舗経営している企業であれば分かると思いますが、顧客と顔なじみになると店舗側が「顧客はこの商品をどう思っているのだろう」という問いかけにも気楽に答えてくれるようになります。
企業と顧客の良好な関係を維持する方法としては、次のような対策が有効です。
• アフターサービスの充実
• 既存顧客限定の特典・キャンペーン実施
• メルマガ等を使った自社商品・サービスの継続的発信
• 顧客体験イベント実施で顧客満足度の向上
などです。
市場反応などの情報収集
「市場反応などの情報収集」もマーコムの目的の1つです。実際に開発した商品やサービスをマーケットに投入してどのような反応が出るのか情報収集します。マーコムは企業自体もしくはその商品やサービスの「ブランド化」を図ることも目的になっていますので、情報収集したデータをあらゆる角度から分析すると課題が見えてきます。
2種類のマーコム
ここでは、2種類のマーコムについて説明します。
広告としてのマーコム
「広告としてのマーコム」と言うとマーケットで広報活動だけに専念していれば良いと思われがちですが、近年は「セールスプロモーション・PR・CSR活動(企業が実施する組織活動の社会的責任)・パブリシティ(自社製品などをマスコミに取り上げてもらう活動)・マーケットからの情報収集等、マーケットに関わる全ての活動のことを指すことが一般的となっています。もちろん企業によっては広報活動のみに専念する例もあります。
市場と関わる全ての活動
上述しましたように、近年は広告としてのマーコムは、「市場と関わる全ての活動」が対象になります。市場に関わる活動は上で述べましたが、中でも情報収集がメインになります。
情報収集がメイン
統計では標本数が多いほど分析結果の正当性が評価されますが、マーケティングでも同じことが言えます。最近は情報分析手法が進化していますので、情報が多ければ多いほどその分析結果は信憑性が高く評価される傾向にあります。(ウクライナ問題のように政治が介入すると話は別になります。)
職種としてのマーコム
「職種としてのマーコム」というと「広告宣伝」や「PR活動」の実施が主要な業務になります。
広告宣伝
広告宣伝業務はステークホルダー(利害関係者)に自社製品・サービス等の企業情報を伝える役割を果たすのが一般的です。自社のPR戦略に基づいて「プレスリリース原文の作成」
「メディアとの良好な関係を築く」「メディアからの取材に対応する」「自社メディアの作成と発信」など費用をほとんどかけずに実施することができます。また、「社内報の作成」などを通じて自社内に情報音痴部門ができない配慮も求められます。
PR活動
PR活動では、自社の広報戦略に基づいて予算枠を使い、「自社製品の宣伝やその効果分析の実施」「分析結果に基づく販売戦略の立案」などを実施します。企業によっては「広告宣伝」と「PR活動」を一体的に捉えて同一セクションで実行したり、PR活動は専門業者に委託したりする例が見受けられます。
マーコムの基本
マーコムについてご理解いただくために、もう少し掘り下げてみます。よく使われている「マーコムの基本」を述べます。
4つのP
きちんとした分析ができていないとマーケット対策もミスリードする可能性が高くなります。分析の方法として現在使われている企業側からの視点で分析する「4つのP」と、顧客(消費者)の視点で分析する「4つのC」について説明します。
企業側の視点である「4つのP」はいずれも頭文字を取ったもので次の4語です。
Product(製品)
自社製品は顧客(消費者)の購買行動を促すような価値あるものになっているか、この製品の提供で自社にどのようなメリットがあるかなどについて分析
Price(価格)
販売するに当たって設定した価格は意図するターゲット層にマッチしているか、また、設定価格で自社の利益はどの位確保できるのかなどについて分析
Place(流通経路・販売場所)
商品の流通経路は適正か、販売場所は消費者がすぐ手にすることができる所か、ネット販売も考慮すべきかなどについて分析
Promotion(販売促進策)
自社商品の良さを消費者に知ってもらい販売網を拡大するには、マーケットでどのような活動をすべきか分析
4つのC
顧客の視点で分析する「4つのC」は次の通りです。
Customer Value (顧客にとっての価値)
顧客がその製品を購入することで「どのような価値を感じるのか、購入後の感情や考えはどのようなことか」などを分析
Cost(製品と価格のつり合い)
魅力を感じて製品を購入した消費者が、払った金額に相応な製品かどうかを「消費者目線」で分析。
Convenience(製品を簡単に購入できるか)
製品が売れる理由の一つに購入の簡便さがあり、その要件を満たしているか分析。
Communication(コミュニケーション)
製品を購入しようとする消費者に対し、企業側から適切なメッセージが届き、消費者との間でコミュニケーションが取れているか分析。
マーコム担当者が行う仕事
マーコムの基本について企業側目線と顧客目線の双方から分析が必要な内容を述べましたが、ここではマーコム担当者が行う実際の仕事内容を説明します。
市場との対話
マーコム担当者は自社製品のブランド化や販売の増進を図るため、競合他社に先んずる必要があります。そのため常時マーケットに張り付いて対話を続け、顧客の本当のニーズを把握することが求められます。次の4項目はそのひな形になります。
新商品の投入
顧客のニーズがあると予測して開発された商品やサービスを実際にマーケットに投入してどのような反応があるのか観察し分析します。店舗が複数あれば、それぞれの店舗で異なる投入の仕方も考えられます。「事前に投入の告知をする」「アンケート回答を条件に無料で提供する」など新商品の投入案を作成する作業が必要です。
顧客の声を聞き改善
新商品投入後に寄せられた顧客の声を参考にどのような改善をするか検討し商品の改善を図ります。検討の過程で顧客にも参加してもらい会話をしながら検討を進める手法が基本になります。この手法をとることで、製品を購入してくれる可能性が高くなります。参加してくれた顧客にはそれなりの処遇策を考えるようにします。
商品投入後の情報収集
商品投入後にどのようなリアクションがあったのか情報収集と分析をして、販売戦略の参考にします。
販売促進
以上のようなプロセスを経て、「顧客のニーズ」「ターゲット層」「適正な価格設定」「他社にない強み」を最終的に確認し商品の改善を行った上で販売促進活動に入ります。
データの活用
「貴方の会社に膨大なデータが眠っていませんか?」特に店舗を運営している企業は毎日売り上げ伝票などが整理されないで積み上げられているかもしれませんね。データの活用は「金の卵」を発掘する作業だと思って取り組んでください。「DXの推進」やマーコム部門だけでなく社内全体が共同利用できる「社内データの集約」にもつながります。データ解析ツールも目的に応じて進化しています。
DXの推進
DX(デジタルトランスフォーメーション)は人々の生活をより良いものにするためにデジタル技術を社会に浸透させていこうとするものですが、そのためには膨大なデータの集積が必須です。貴方の会社に蓄積されたデータを分類整理してデータベース化することでDXの推進に寄与することができます。
社内データの集約
会社内には各セクションごとに様々なデータが存在していると思います。それらを会社全体のデータベースとして編成し直すと、会社の経営戦略の幅が格段に広がると思います。マーコム担当の立場から提案されたらいかがでしょうか。
マーコムの注意点
マーコムはマーケティングという大きな枠組みの中で「ブランドの育成をすること」「育成できたブランドを守ること」が活動のメインと言っても過言ではありませんので活動実績が分かりにくい業務です。しかも成果が表れるまで長期間かかりますので担当者は焦ってしまうこともあるかと思います。注意点を述べます。
売上を評価するものではない
マーコムは「売り上げを評価するものではない」ことを心得ておくべきです。理由は業務の中心が「ブランドの育成」と「育成したブランドを保守」することに加え常に顧客との対話が求められるからです。また、マーコムの売り上げは間接的に発生するものですので、評価するのは適切ではありません。
ブランドの育成
「ブランドの育成」は一朝一夕にしてできるものではなく、長い年月がかかります。ブランドでも会社自体がブランド化すると素晴らしいですがその会社の1商品がブランドとして認知されるにも苦労が伴います。
ブランドの保守
苦労して生まれたブランドを保守し続けることも容易ではありません。有名な老舗がちょっとした過ちから「ブランド名」を失う事態が発生することを見てもお判りになると思います。
責任と予算の分散
マーケットオペレーションにおいてマーコムは他の部門のようにすぐ結果が現れませんので、一つの案としてマーケットオペレーション部門を集中させた上で責任と予算の分散をする方式が良いのではないかと思われます。
目的に応じた部門
集中化すれば各部門の連携を図ることができ、その中で目的に応じた部門を立ち上げるようにします。
マーコム専門チームの立ち上げ
このような方策を取ることでマーコム専門チームの立ち上げが可能になり、会社自体のブランド化が進むのではないでしょうか。マーコム担当の方のイニシアティブを期待しています。