メンター制度とは?目的やメリット、制度を導入する手順も解説

厚生労働省の調査によりますと、新規学卒就職者の就職後3年以内の離職率は新規高卒就職者39.2%、新規大卒就職者32.0%となっております。入社3年目におよそ3割から4割が離職していますので入社3年目の社員定着率は多くても7割と言えます。せっかく希望をもって入社した新規学卒者が3年間で約3割の人が離職する現実は、人材育成に多額な投資をしている企業にとって悩みの種になっています。

離職する主な理由は「適切な評価・処遇ではない」「やりがいを見いだせない」「ギスギスした人間関係」「女性が働きにくい」などがあげられています。

このような現状を打破しようと企業側も取り組んでいますが、その一つに「メンター制度」があります。そこでここでは、メンター制度とはどのようなものなのか、目的やメリット、制度を導入する手順も解説します。

貴社の人事部などがイニシアティブを取ってこの制度を全社的に実行すれば、離職率を低減させる効果が期待できますので、ぜひ参考にしてください。

メンター制度とは

メンター制度は若手社員のサポートをするシステムと言うことができます。若手社員の1年以内の離職率は全職種平均で見た場合、高卒で17.2%、大卒は11.6%ですから1割以上が1年以内に離職しています。特に高卒は離職率が高いので採用を躊躇する企業もありますので、早期に若手職員のサポートシステムを構築することが求められています。

若手社員のサポート制度

若手社員のサポート制度として実施されているメンター制度の内容で特徴的なことは次の通りです。

年齢の近い先輩社員がサポート

特徴の1つは入社してきた新人社員を「年齢の近い先輩職員がサポート」することです。一般的には、職場のかなり経験のある職員が教育係として新人職員に業務内容や組織上で注意すべきことなどを教えますので、新人職員は緊張してしまいます。メンター制度では年齢が近い職員が担当しますので、比較的リラックスして遠慮せずに知りたいことを聞くことができます。

英語のMentorが由来

メンター制度のメンターは英語の「mentor」に由来しています。「mentor」は「信頼がおける相談相手、助言者、庇護者」などの意味があります。ギリシャ神話でトロイ戦争に出陣するオデッセウスが息子を託した良き指導者「Mentor」が語源になっています。

メンターとメンティー

メンターから様々な支援を受ける人、つまりここでは新入社員になりますが「メンティー」と呼ばれます。「メンティー(Mentee)」は20世紀半ばに「Mentor」から作られた言葉で

メンターがいる人、あるいは助言者の指導を受けている人の意味で使われています。

エルダー制度との違い

ご存じかもしれませんが、メンター制度に似ている制度に「エルダー制度」があります。

英語の「elder」は「年長者・年配者・お年寄り」などの意味がありますが、新入社員の教育を直属の上司ではなく、社員の年長者が担当するものです。

エルダー制度とメンター制度は次のような違いがあります。

エルダー制度は仕事のサポートを重視

新入社員は直ぐにでも即戦力になってもらいたいのはどの企業でも同じだと思います。

それでもいきなり上司が教育担当に乗り出すと新入社員は萎縮する可能性があります。

そこで上司の意を受けた同じセクションの年長者が、そのセクションの業務のサポートを重視して行う教育です。

メンター制度は精神的なサポートを重視

これに対して、メンター制度は新入社員の精神的なサポートを重視します。そのため、メンター制度の場合は、メンティーのサポートをするメンターが、メンティーが所属する部署以外から選定されるのが通常です。そうすることによって、両者が共に気楽に話し合える環境になります。

OJT制度との違い

メンター制度はOJT制度とも異なります。

OJT制度は同じ部署の先輩社員

OJTは英語の「On the Job Training」の頭文字を取ったものですが、「実地研修」を意味します。そのため、同じ部署の先輩社員が指導者になります。

メンター制度は別の部署の先輩社員

これに対してメンター制度は、先述しましたように別の部署の先輩職員で新入社員の指導者と言うより「良き相談者」になります。

メンター制度の目的

メンター制度の主要な目的は「若手社員の離職を防ぐこと」「社員の孤立を防ぐこと」「女性社員のサポートをすること」などがあげられます。

若手社員の離職を防ぐ

メンター制度では、部署の異なる先輩職員が若手社員などを対象に定期的に話し合いをしますので、自分の職場では聞きにくいことや不安に思っていることなどを気軽に相談でき、離職を防ぐ効果があります。

年功序列の崩壊

入社した新入社員が最も関心を持っているのがその会社の給与システムです。近年は年功序列で入社したらそのまま定年まで勤務し、定年後も再雇用でその会社に勤務し続けるという制度を取る企業が少なくなりつつあります。公益財団法人日本生産性本部の発表では、日本での年功序列の導入割合は、2018年時点で47.1%となっています。1999年時点では78.2%でしたから31.1%低下しており、現在はもっと少ないと推測できます。

 一方、役割・職務給といった成果に対する賃金制度は、2018年時点で57.8%に増え、年齢・勤続給を基本とする年功序列の導入率を上回っております。

新入社員がどちらの給与体系を望むのかは、業種あるいはその時の社会情勢も変動要素になりますので断定できませんが、IT関係に高い能力を有している人は「職務給」を選択する傾向にあるようです。いずれにしてもメンターは自分の経験をベースにメンティと話しあうことができますので、離職を翻意させる可能性が高いと言えます。

居場所の確保

メンター制度の実施は、新入社員の「居場所の確保」にも有効です。仕事上の悩みやその他の悩みなども職場ではできませんので、年齢が近いメンターとの話し合いでざっくばらんに話すことでアドバイスがもらえると思います。「自分の居場所がある」ことは「うつ病」の防止にも役立ちます。

社員の孤立を防ぐ

メンター制度は「社員の孤立を防ぐ」目的もあります。

競争激化によるストレス

新入社員は配属された部門によって多少違いはありますが、競争激化によるストレスにさらされます。例えば、会社に同期に入社した1人が人事部に配属されたのに自分は営業部だったりすると「なんで?」と思うかもしれません。入社が同期であればライバル意識が芽生える可能性があります。また、営業部ですと「活動は待ったなし」です。先輩が「取引先に挨拶に行こう」と連れていってくれ「名詞交換」をすることになります。その瞬間から営業部の一員として認知されたことになりますので、翌日早速電話がかかってくるかもしれません。職場にいれば対応する必要がありますのでストレスになります。まだ業務内容が分かっていないので「電話恐怖症」にならないように注意する必要があります。

相談しやすい環境作り

会社がメンター制度を取り入れていれば「相談しやすい環境作り」もメンター制度の目的の1つですので、メンターが決まったら失敗を含めた経験談などを聞くとストレス解消になると思います。新入社員が最初に悩むと思われる「キャリアアップをどう考えているのか」についても迷惑にならないようであれば聞いてみることをお勧めします。

女性社員のサポート

以上は新入社員が会社に定着することを目的としたメンター制度について述べましたが、メンター制度そのものはメンターとメンティがフラットな関係で話し合いができますので、命令系統が絡まない制度として人気があり、様々なシチュエーションで取り入れている企業が増えています。その一つに国も政策として掲げている「女性の社会進出」、特に先進諸国から後れを取っている「キャリア形成の支援」や「管理職育成」をメンター制度に取り入れる企業が増加しています。

キャリア形成の支援

「キャリア形成の支援」や「管理職育成」の支援を含め、国は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)を平成27年8月に成立させ、既に施行されています。これにより、働く場面で活躍したいという希望を持つすべての女性が、その個性と能力を十分に発揮できる社会を実現するために、女性の活躍推進に向けた数値目標を盛り込んだ行動計画の策定・公表や、女性の職業生活における活躍に関する情報の公表が事業主(国や地方公共団体、民間企業等)に義務付けられております。

女性の場合は企業に入社して最初のうちは将来的にキャリアアップを図りたいと思っていてもライフイベントとも言うべき結婚・妊娠・出産あるいは家族の介護などの道に入ると

両立は困難と諦めてしまいますが、女性の活躍を支援する制度などを使って両立させ、キャリアアップを勝ち取るとともにその経験をメンターとして伝えるなど自ら女性活躍の場を広げる努力をされている方もいます。  

管理職育成

日本メンター協会により「女性活躍推進法」に基づき企業が管理職になった女性をメンターにして女性のメンティを募集し管理職の育成を図っている事例が報告されています。女性管理職育成に向けた支援策を用意している企業が増加していますので、是非チャレンジしてください。

メンター制度のメリット

ここではメンター制度のメリットについて述べます。

メンターのメリット

メンター側のメリットとしては、「メンター自身の強みと課題が見えてくる」「コミュニケーション能力が向上する」などのメリットがあります。

自身の強みと課題が見えてくる

メンティと年齢がそれほど変わらなくても話し合いをするには自分の経験に基づくことが中心になりますので、過去の業務活動の整理をしておく必要があります。その過程で良かった例や失敗した例が思い浮かぶと思います。それを冷静に分析すると自分の強みや課題が見えてきます。

コミュニケーション能力の向上

年齢が近いといってもメンティは新入社員ですから、メンターは会話をリードする必要があります。挨拶や自己紹介から始まってメンティが雰囲気に慣れるまでに時間がかかるかもしれませんが、「聞き上手」になると良いでしょう。メンターが新入社員当時に戸惑ったことなどを話して「職場で何か戸惑うようなことはありますか?」などフレンドリーな姿勢で問いかけると心を開いてくれると思います。メンティが話している時に「うなづいたり、相づちをうったりする」と親近感が増します。常に同じ目線で会話をすることを心がけることで話のポイントの把握やメンティが必要としている援助が分かるようになり、コミュニケーション能力の向上につながります。話し合いの終了時には「自分のためにもなった」とお礼を言うことも大切です。

メンティーのメリット

 メンティ側のメリットは「視野が広がる」こと「キャリア形成の道筋が見えてくる」ことが挙げられます。

視野が広がる

メンティは学生から実社会に飛び込んだわけですから会社で毎日体験することは自分の視野を広げてくれますが、メンティとしてメンターと話し合いをすることで他部門のことも知ることができます。この話し合いがきっかけでメンターの職場との交流が始まるかもしれません。

キャリア形成の道筋が見えてくる

先述しましたが、メンターとの会話を通じてメンターがどのようなキャリアアップを目指しているのか分かり、これから自分はどのような行動をしたら良いのかキャリア形成の道筋が見えてくると思います。

メンター制度を導入する手順

実際にメンター制度を導入する場合の手順について解説します。導入手順の大枠は「導入目的の明確化」「導入体制の構築」「ルールの決定」「マッチング」そして「メンター制度の実施」になります。

導入目的の明確化

メンター制度を導入する場合は、最初に「導入目的の明確化」が必要です。

ここで取り上げましたのは新入社員の離職を防ぐことと女性社員の活躍推進ですので

導入目的の具体例は次のような案が考えられます。

1 新入社員の離職防止

2 女性の活躍推進

短期目標と長期目標

その次に考えるのは達成目標期間です。「短期目標」と「長期目標」に分けて考えると良いでしょう。

1 短期目標

新入社員の1年以内の離職率を〇〇%以内にする

女性の管理職を1年以内に〇名増やす

2 長期目標

新入社員の3年以内の離職率を〇〇%以内にする

女性の管理職を3年以内に〇名増やす

達成可能な具体的な数値を入れて目標とすることで意思統一を図ることができます。

効果測定方法

この例の効果測定方法は次のような案が考えられます。

1 新入社員については短期目標が実施開始1年後、長期目標は3年後実績で判定する

2 女性の管理職も上記と同様とする

体制の構築

以上の目標や達成期間等が決まったら、その執行体制の構築が必要になります。

執行体制の構築に取り組む時に最初にクリアすべきことは「社内の合意」を得ることとこれまでのプロセスを見てさらに促進させるために介入が必要と判断した時は「効果的な介入をする」ことです。

社内の合意

メンター制度の導入は企業運営戦略の一環ですので、人事部がイニシアティブを取って進めるのが望ましいですが、営業部の新入社員の離職率が高いので営業部から導入の要望が出た場合は人事部に働きかけて「導入推進体制構築」の協議をすることをお勧めします。

導入決定の前提として経営層の了解を取ることで全社的な事業として実施することができます。社内の合意は全ての部門の職員に情報が行き渡る配慮が必要です。許されるのであれば他部門の人も推進体制に参加してもらうと全社的なプロジェクトになります。

適切な介入が効果的

短期目標と長期目標で期間を限定していますので、順調に進行しているか常にチェックすることが必要です。チェック要員は導入推進体制のメンバーから2名程度選定し依頼することで乗り切れると思います。ステークホルダーへの事前説明など意外と忘れてしまう事項がありますので、ヒアリングをするなど適切な介入が効果的です。

ルールの決定

メンター制度の導入体制が進捗してくると導入後守るべきことやハプニングがあった時などの相談窓口を設置しておくなどルールを作成して決定しておく必要があります。

守秘義務の徹底

守秘義務とは、職務上知った秘密を外部に漏らさないことや個人情報を開示しないことを言います。メンターとメンティの間だけでなく、会社の秘密情報や社員の個人情報などは全社員に課せられた守秘義務事項ですので守ることを徹底しなければなりません。

相談窓口の設置

メンター制度を導入すると相談したい事項が必ず出てきますので、どのような疑問・質問等にも対応可能な「相談窓口を設置」しておく必要があります。

マッチング

メンター制度が実行段階に入りますとメンターとメンティの組み合わせをする必要があります。いわゆる「マッチング」ですが、この「マッチングが適正であるかどうか」がメンター制度運用の成否に関わると言われるほど重視すべき事項です。マッチングには「アサインメント方式」と「ドラフト方式」があります。

アサインメント方式

アサインメントは英語の「assignment」ですが、任務などの「割り当て」の意味があります。

メンターとメンティを人事担当者が割り当てるシステムです。第三者の目で見て判断しますので客観的で両者の組み合わせが良好なことが多いですが、人は見かけによりませんので時にはミスマッチになることがあります。その時は責任を持って再度マッチングをやり直すようにします。

ドラフト方式

ドラフト方式は人事担当者などがメンター候補の一覧表を作成し、メンティに選ばせる方式です。新入社員の場合は他部門の情報を得るのに苦労することと、自分で選んだメンターが自分には合わないと思った時にキャンセルすると失礼になるなどの難点があります。人事担当者によく相談する必要があります。

制度の実施

マッチングが完了するといよいよメンター制度の実施になります。実施に入る前にメンターを対象とした事前研修を行いメンター制度についてよく理解してもらうことが求められます。

事前研修

事前研修は、メンターのレベルを同水準に保つことを目的に実施します。メンターのレベルが異なるとメンティのレベルにもばらつきが出る可能性があります。余裕があれば自社独自の研修カリキュラムを作成すると発展的ですが、余裕がない場合は外部委託することも選択肢の1つです。「メンター制度の内容に熟知してもらうこと」「優れたメンターになってもらうためにメンターの役割や心構えを知ってもらうこと」「そのために日ごろからスキルの向上を図ること」などが研修の位置付けになります。

定期的に情報交換を

メンター制度が軌道に乗ったら、構築した導入推進体制のメンバーが中心になって定期的に情報交換を行うと新たなアイディアが見つかる可能性があります。


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