ダイナミックプライシングの意味
「ダイナミックプライシング」とは、「商品やサービスの価格を、需要と供給に応じて変えること」を意味しています。
消費者の需要に応じて価格を設定
消費者需要の多い時に価格が上がり、需要の少ない時は価格が下がります。
特徴は価格の幅が一定にならないことです。
原価から価格を決めない方法
価格は、販売時期と消費者需要が参考になるため、商品やサービスの原価は考慮されません。
ダイナミックプライシングの経緯
宿泊業や航空業では古くから導入
ダイナミックプライシングそのものは昔から存在しており、宿泊業や航空業が代表的です。
宿泊業ならば、ホテルの眺めの良い部屋、良くない部屋によって料金に差があり、また航空業ならば大型連休(GW、年末年始など)は価格が高くなります。
近年はAIによる価格設定
最近では価格設定の条件がより複雑に、膨大なデータを活用しておこなわれており、代表的なものはAIの導入です。
AIならばさらに詳細条件での設定が可能になり、周辺の関連イベントや天候、また話題性なども対象となります。
ダイナミックプライシングの仕組み
価格の導き方
年間や月別の売上をデータとして蓄積
価格を決定する要因は「データ」を参考にします。
月間、年間の売り上げなどの「データ収集や分析」、また顧客の「需要予測」などをもとに以前は価格を決定していました。
経営が成り立つ範囲で価格を変動
参考になるのは売り上げや顧客データや経費です。
人件費や光熱費または変動費も含めて利益を出せる価格を計算しますが、あまりにも価格の変動が大きいと消費者離れを引き起こします。
その点を踏まえて、さまざまなデータで価格を決定するのです。
年間を通して利益が出るように、経営が成り立つ範囲でのプライシングが重要と言えます。
従来は人間の作業によって計算
以前は手作業で価格設定がおこなわれており、月間売り上げや消費者の年間動向などが目安とされていました。
現在は膨大なデータを参考にするため、人の手でおこなうのは非常に困難です。
そこでAIを導入する企業が増え始めています。
AIの導入
ビッグデータを活用
ビッグデータとは、文字通り巨大なデータ群のことで、人が全体を把握するのが困難とされています。
簡単に言うと「量」、「種類」、「入出力や処理速度」の3要素から成り立つもので、一例を挙げれば「SNS」「消費者データ」「マルチメディア」「オフィスデータ」などです。
これらのデータをもとに、AIツールが価格設定をおこなう企業が増加しています。
最適なタイミングで価格を変動
AIでの価格決定要素は上記のビッグデータ以外に、自社の売り上げ実績や在庫状況などのデータの他、イベントや天候、競合を参考にします。
瞬時に価格を計算するのがAI最大のメリットであり、さまざまなデータを蓄積することで、精度が高まるのです。
ダイナミックプライシングのメリット
それでは企業側と消費者側で解説します。
企業側のメリット
設備の有効活用
生産ラインなどの設備を有効活用できることです。
例えば、繁忙期と閑散期において需要を均等にすれば、製造ラインを止めずに稼働
できます。
収益の向上
需要が高い時は、販売価格を上げて利益を出します。
対して需要が低い時は価格を下げるのです。
価格を下げて販売すれば、在庫や廃棄処分する製品を減らすことができ、トータルで見れば無駄が減らせて、収益が高くなります。
消費者側のメリット
安く購入できる
最大のメリットは、購入する際のタイミングを合わせれば、通常よりも安く購入できることです。
また価格が高騰しやすい商品やサービスも、転売目的での購入を防ぐことができるといえます。
選択の幅が広がる
消費者としては、購入のタイミングを自由に選べるメリットが生まれました。
値段の低い時期に購入するもよし、または高い時期に購入するのもよし。
時期に応じて価格が変動することは、選択の幅が広まったと言えるでしょう。
ダイナミックプライシングのデメリット
企業側のデメリット
システムの導入にコストがかかる
ダイナミックプライシングは、膨大なデータ分析に基づいて成り立っています。
まずはデータ収集のために「AI」や「ビッグデータ(巨大なデータ群)」を準備しなくては、なりません。
こちらの導入には、資金投入が必要ですし、期間も要します。
相応のコストが必要であることはいうまでもありません。
繁忙期の価格の高さには反感も
「同じものでも、購入時期によって価格が変わる」ので、価格差が激しい場合などは消費者離れのリスクが発生する恐れがあります。
価格差に納得する消費者もいれば、そうでない消費者も生まれるのも事実です。
企業側が利益を追求するのは当然ですが、消費者離れを起こさぬ価格設定が重要だといえるでしょう。
消費者側のデメリット
消費者の多様なニーズに合わない
どの商品やサービスでも、繁忙期・閑散期を問わず求める消費者は存在します。
消費者にも多様性があるので、企業が全てにマッチした価格で提供することは不可能です。
つまり消費者の多様なニーズに応えることは難しく、消費者間で損得差は発生する点は避けようがありません。
高額で購入せざるを得ないケースも
消費者が欲しい商品が、値段の高い時期になる事態も発生することがあります。
どうしても必要な際は、高い値段で購入せざるを得ないのは仕方ありません。
企業のデータによる価格操作によって値段が決定するため、消費者は従わざるを得ない点がデメリットです。
ダイナミックプライシングの例
ここではいくつかの企業でのダイナミックプライシング例を見てみます。
ローソン
顧客のSNSにポイントを付与
ローソンでは実験店舗で、賞味期限の近くなった商品を特定する実験を行いました。以下の流れになります。
①賞味期限の近い商品(電子タグ付き)を棚のリーダーが読み取る
②LINEアカウント登録者に通知を届ける
④商品購入者にLINEポイントが還元される
③消費者が対象の商品を購入する
廃棄ロスの低減に貢献
実験的試みでしたが、このダイナミックプライシングが全国的に展開するとしたら、おおいに賞味期限の切れた食品ロス問題への対策となります。
コンビニの食品廃棄は、現在問題としても上がっているので、実現すれば大いに効果を期待できるものです。
横浜F・マリノス
2ヶ所の施設で試合を開催
横浜F・マリノスは2つのホームグラウンドを所有していますが、「日産スタジアム(7万人収容)」と「ニッパツ三ツ沢競技場(1.5万人)」では収容人員に非常に差があります。
Jリーグでは、チームによって人気・不人気のカード(試合の組み合わせ)があり、観客数に幅が出るのです。
マリノスは集客が見込めるカードは料金を高く設定し、反対に集客が見込めないカードでは料金を低くしてチケットを販売しました。
人気の差で価格差を設定
人気カードの差で価格差を設定することは、クラブにもファンにも共にプラスになる対応です。
クラブ側では、収容人員の差があったグラウンドに平均的に集客が増え、ホームゲームでは24%の増加率でした。
ファン側でも、人気の低いカードはリーズナブルな価格で観戦可能なため、お得にチケットを購入できるメリットがあります。
年間の全ての試合を観戦するサポーターなどにはとても嬉しい対応です。
ユニバーサルスタジオジャパン
2019年に導入
2019年にダイナミックプライシングを導入されたユニバーサルスタジオジャパン
(USJ)。
その狙いは価値の追求と、繁忙期・閑散期間の来園者数の平準化でした。
顧客満足度の向上に成功
導入後は、例えばゴールデンウイークなどは通常よりも1000円アップした入園料でしたが、結果として大盛況のなか利益を出しています。
同社の顧客満足度も向上され、閑散期の入場者数も増加しました。
なおチケット料金は細かなデータによって決定されており、4か月先までの料金を知ることが可能です。
消費者にとってプラスなのは、 入園料金だけでなく「航空運賃」や「宿泊費」が安くなることも挙げられます。
各費用の料金差は、オンシーズンとオフシーズンでは、大きく異なり、大きなイベントが無いオフシーズンの入園者には、旅行の料金をかなりリーズナブルに抑えることができますし、家族連れの来場者ならばなおさらです。