ケイパビリティとは?向上させる方法や活用事例を解説

ケイパビリティとは

高い品質やスピードなど、企業が他社よりも優位に立てる能力のことをケイパビリティといいます。ただしその意味は本来広く、人が持っている能力や素質、才能、手腕などのほか、個々に潜在している可能性や将来性なども含みます。

能力や可能性などを表す英単語に由来

ケイパビリティの語句の由来は英単語の「capability」です。また単語を分解すると「cap」 は「掴む」、「abie」は「できる」、「lity」は「こと」といった意味を持つことから、「自分自身で掴める」というのがその大意となります。

実行力や指導力なども含む広い意味を持つ

ケイパビリティをさらに広義に捉えると「実行力」や「指導力」といった意味もあります。これはケイパビリティの語源が「収容能力」や「容積」であり、さまざまな事態に対応するのに十分な力量とも定義されるからです。

1992年に発表された論文で提唱

一方、ビジネスに限定した場合、ケイパビリティは本来の意味よりも狭く、1992年にジョージ・ストークス、フィリップ・エバンス、ローレンス E.シュルマンの3人による論文で提唱されたことで一般的に認識されるようになります。

ビジネスにおけるケイパビリティ

では、ビジネスにおけるケイパビリティについて詳しくみていきましょう。

事業戦略に使用される

ビジネスにおいてケイパビリティは組織を横断的に俯瞰した場合、他社と比較して強みがある分野を指します。このためケイパビリティは製品や市場といった単体ではなく、研究、開発、調達、製造、販売、維持など、事業全体のプロセスにおける強みを指します。

自社の強みを示す

さらに経営用語としてのケイパビリティは企業や組織が得意とすることや、強みである部分を見出す考え方を指します。これは他社と比較するものではなく、独自の優位性です。

ケイパビリティとコアコンピタンスの違い

ケイパビリティの類似語にはコアコンピタンスもあります。ただしこの2語の意味するところは同じではありません。

コアコンピタンスの特徴

ケイパビリティが一連のプロセスを実行する強みであるのに対し、コンピタンスは技術そのものを指します。

特定の技術力を表す

より詳しく説明するのであればコアコンピタンスはバリューチェーン上の特定の技術力や製造能力です。バリューチェーンとは企業の事業活動を価値創造のための一連の流れとして捉えることです。

他社が真似できないような強み

また技術力や製造能力は他社に真似できないもので、複数の商品や分野に応用できることが条件として欠かせません。

ケイパビリティの特徴

特にコアコンピタンスと比較した場合には、ケイパビリティには次のような特徴があります。

全体的な組織能力を表す

営業力や生産力、マーケティング力など、企業が強みとするものはさまざまですが、より踏み込むとケイパビリティは組織として持つ、他社より優位な強みとなります。

バリューチェーンのプロセスを重視

ケイパビリティはたとえ部分的に模倣されたとしても、構築してきた組織力すべてを真似できるものではありません。これはケイパビリティがプロセスを遂行する能力そのものだからです。

ケイパビリティを重視する意味

このためケイパビリティは効果的に活用すれば他社との圧倒的な差別化要因となり、優位性を発揮できます。

競争力の強化

良質な商品やサービスを提供が可能でも、必ずしもそれが企業の競争力に結びつくとは限りません。競争力の維持には、技術力以外の「価値」の提供できるビジネスプロセスを遂行する組織力、つまりケイパビリティがこれを大きく左右します。

企業の優位性を発揮

ケイパビリティには製造過程のサプライチェーンや販売過程の流通網を管理する能力も含まれます。これらは外部からはみえにくく、企業の優位性を発揮するのに役立ちます。

他社に真似されにくい

ケイパビリティ自体はプロセス全体で一貫して保持する「組織力」であることから、他社が構成しようとしても間やコストの面で難易度が高いものです。このためケイパビリティは他社に真似されにくいのも特徴です。

企業の資産となる

ケイパビリティはそれ自体を強化することで、企業において資産性を持つことも期待できます。

長期にわたり発揮できる

模倣しにくく、簡単には真似できないケイパビリティは長期にわたり企業が優位性を発揮し続けられる可能性があります。これはケイパビリティが組織横断的な力であり、短期間に構築することは難しく、多くのリソースが必要とされるからです。

独自ノウハウが反映される

独自ノウハウを持っている場合、それは企業の競争力の源泉です。こうした企業の戦略を実現する実行力は、ケイパビリティにおいて特に大きな価値があります。

ケイパビリティの把握方法

自社が持つケイパビリティを把握するには、客観的に他社より秀でる強みをみつけなければなりません。

バリューチェーンの洗い出し

より的確に把握するためには、自社の活動を機能ごとに分け、バリューチェーンを洗い出します。

企業の強みを再確認

洗い出したバリューチェーンは項目ごとに分類し、他社と比較してどのように長けているのかを分析し、自社の強みを再確認します。

事業以外の活動も把握

本来の事業以外についても、場合によってはケイパビリティに該当する場合があります。支援活動や人事労務、総務経理などがこれにあたります。

ケイパビリティを向上させるには

ケイパビリティはこれを向上させるために、直接利益活動につながることばかりに注力するのでは不十分です。

人材育成

組織を支える上で、人材が幅広い知識を身につけたり教養を深めることは重要です。このため、従業員に対し、幅広い教養が身につくような教育をおこなうことが望ましいといえます。

知識の取得を推奨する

さまざまな事柄を理解し情報に敏感になっていなければ企業が激しいビジネス環境に対応できる力が備わりません。そこで、従業員に対するセミナーや勉強会の実施、学習の支援など、積極的に知識の取得を推奨することも大切です。

ケイパビリティを利用した戦略

自社のケイパビリティが何かを把握できたら、次に経営的な視点から、ケイパビリティを用いた競争戦略を立てる必要があります。これをケイパビリティ・ベース競争戦略といいます。

ケイパビリティ・ベース競争戦略

ケイパビリティ・ベース競争戦略では外的な要因よりも企業内部のコンテクストを重視します。これは自身が持つ武器を理解し、簡単に真似ができないように強化しようというものです。

ケイパビリティを中心とした戦略

ケイパビリティ・ベース競争戦略ではケイパビリティを中心に据えます。これにより企業間の競争において、優位性を発揮することを目指します。

4つの基本原則

一方でケイパビリティ・ベース競争戦略には4つの基本原則が示されています。

まず一つ目は企業戦略を構成する要素です。これは製品や市場ではなく、ビジネスプロセスを指します。

二つ目は他社よりも優位性のある価値を継続的に顧客に提供できるよう、主要なビジネスプロセスを戦略的ケイパビリティに転換することです。これが競争の勝敗を左右します。

三つ目は戦略事業単位と職能分野を結びつけ、どちらも限界を超えて引き出せるようインフラに投資し、戦略的ケイパビリティを構築することです。

そして四つ目が必然的に複数の職能部門にまたがるケイパビリティ戦略をCEOが推進することとなります。

ダイナミック・ケイパビリティ戦略

ケイパビリティは時代の変化に応じて絶えず柔軟に刷新し続けることも大切です。これをダイナミック・ケイパビリティ戦略といいます。

外部も含めた広い視野での企業戦略

ダイナミック・ケイパビリティでは企業内部だけでなく外部も含めた広い視野で戦略を練ります。企業が保有する既存の資産や資源、知識などを再構成したり相互に組み合わせて持続的な競争的優位をつくり出すのはもちろんのこと、必要であれば他社の資産や知識も巻き込んで構成します。

3つの主軸をもとに体制構築

またダイナミック・ケイパビリティの主軸は3つです。これをもとに体制を構築します。

感知…環境変化に伴った脅威を感知することです。

捕捉…見出せる機会を捉え、既存の資源やルーティーン、知識などをあらゆる形で応用し、再利用することです。

変容…持続的競争優位をつくりだすため、組織の内外問わず既存の資源や組織などを体系的に再構成し、変容させることです。

ケイパビリティの活用例

では最後にケイパビリティを活用した実際の事例をみてみましょう。

アップル社の取り組み

ケイパビリティを実践した事例としてはアップルがたびたび取り上げられます。

直営店の展開

アップルでは小売店で主力商品を積極的に販売しません。一方で製品の魅力を顧客に伝えるためカフェのような体験型の直営店舗を展開しました。こうした体験型の店舗はアップルのブランディングに貢献しただけでなく、販売プロセスを自社で管理することにより、販売網の強化につながっています。

従業員が直接顧客に説明

体験型の直営店舗で顧客に製品説明をおこなうのは自社の専門スタッフです。アップルがこうした選択をしたのは、独自の革新的な機能を顧客に伝えるため、これが最も効率的だという判断をしたからです。

革新的な企業イメージの構築

早い段階から組織体制や人材募集などに注力したことで、アップルでは後に発表された「iPhone」や「iPad」といった大ヒット製品が生まれました。これにより、革新的な企業イメージの構築に成功しています。

莫大なコストを恐れず強みを活かす

このようにケイパビリティの活用ではときにコストを恐れず強みを活かすことも大切です。特にアップルの事例では、一般的な製品の販売方法よりも大きなコスト負担が想定されるリスクを選択しつつも、製品の革新的な機能を自社の専門スタッフが詳細に、顧客へ伝えるという強みを生みだしました。これは販売プロセスのケイパビリティを創出・活用したという好事例といえます。

このため、ケイパビリティを意識した戦略は、長期的にも短期的にも、企業において効果を発揮する可能性があるものといえるでしょう。


AD