ストラクチャードファイナンスは、企業や銀行が利用する融資実務の一種です。
ストラクチャードファイナンスは多くの金融商品と手法を含んでおり、その内容は非常に難解です。
本記事ではストラクチャードファイナンスイナンスの意味やメリット、案件を構築するためのさまざまな手法など基本的な事柄について解説していきます。
ストラクチャードファイナンスとは
ストラクチャードファイナンスとは、従来の融資構造では得られない企業価値を引き出すことを目的とした、さまざまな金融商品とその手法を指す広義の言葉です。
ストラクチャードファイナンスの意味
ストラクチャードファイナンスは「structure(構造、構築)」+「finance(金融)」という単語の組み合わせでできています。
つまりストラクチャードファイナンスとは、大まかに言うと「資金調達のための仕組みを構築する」といった意味になります。
仕組み金融とも呼ばれる
ストラクチャードファイナンスは仕組み金融とも呼ばれ、借り手と貸し手の間でオーダーメイドの契約を結ぶために、さまざまな取引、条件、手段を含む融資の一形態です。
不動産開発やM&Aなど、従来の融資手法では実現不可能な大型プロジェクトの資金調達に利用できます。
金融プロダクトを包括的に示したもの
ストラクチャードファイナンスには、デリバティブや資産担保証券など、さまざまな金融商品が含まれます。これらの商品はさまざまな方法で構築され、取引の条件を調整するために使用されます。
ストラクチャードファイナンスの特徴
次にストラクチャードファイナンスの4つの特徴について見ていきましょう。
ストラクチャードファイナンスについて理解が難しいのは、「個々に仕組みを構築する」という性質による部分もあります。
明確な定義はない
ストラクチャードファイナンスには明確な定義がなく、解釈もさまざまです。
それぞれのストラクチャードファイナンス案件は独自の基準、条件、手法で構成されており高度なカスタマイズが行われます。
これにより銀行は顧客に合わせた資金の提供が可能です。
多様な手法がある
ストラクチャードファイナンスを実施するためには、さまざまな方法があります。
具体的な方法は企業が保有する不動産の証券化、債権の流動化、特定プロジェクトの証券化、リースファイナンス、レバレッジド・バイアウト(LBO)などです。
企業の資産や事業の価値に基づく
ストラクチャードファイナンスは、通常、企業の資産や事業の現在価値に基づいて行われ、取引の条件や取引の構造を決定するために使用されます。
個々の案件ごとに仕組みを構築する
仕組みは個々の取引ごとに構築され、契約内容によっては資産の譲渡、流動性へのアクセスの制限、資産の分割可能性などが含まれる場合があります。
ストラクチャードファイナンスのメリット
ストラクチャードファイナンスは、企業、金融機関双方にとって多くのメリットがあります。
それではどのようなメリットがあるのかについて見ていきましょう。
企業側のメリット
企業側がストラクチャードファイナンスを行う主なメリットは、資金調達先の多様化やリスク資産を軽減することにより自己資本比率の向上が可能といった点です。
資金調達手段の多様化
ストラクチャードファイナンスを利用することにより資産の証券化や債権の活用など、資金調達手段の手段が広がります。
ROEの改善
資本に対してどれだけ利益を上げているかという指標であるROEは「当期純利益÷自己資本」で算出します。
そのため、利益が変わらなくても自己資本を減らせばROEは向上することになります。
証券化などによって資産をオフバランス化(バランスシートから切り離す)し、ROEを改善することが可能です。
自己資本率の改善
ストラクチャードファイナンスを行いバランスシートから特定のリスク資産を移転することで、企業の自己資本比率も改善できます。
金融機関側のメリット
複雑な仕組みを構築するストラクチャードファイナンスですが、金融機関側にもメリットはあるのでしょうか。
顧客のニーズに合わせて提供できる
ストラクチャードファイナンスにより、金融機関は顧客のニーズに合わせた従来の銀行商品では利用できないような資金調達のサービスを提供できます。
業務の付加価値を高める
金融機関がこれまでに比べて多様な独自の商品を顧客に提供することで、サービス提供の差別化を図り利益を増加させることも可能です。
ストラクチャードファイナンスの最近の傾向
ストラクチャードファイナンスでは、バランスシート戦略を取る傾向が最近強まっています。
バランスシート戦略
バランスシート戦略とは、不動産や債権などの資産の活用により従来のデット・ファイナンス(金融機関や投資家からの借り入れ)への依存度を下げ、株主資本に対するリターンを高めるというものです。
選択と集中
ストラクチャードファイナンスはその仕組み上、返済範囲に制限があります。
そのため金融機関側も、引き受けようとするストラクチャードファイナンス取引の種類をより選別するようになってきています。
そのため、単一の取引や特定の焦点や目的を持った取引への注目が高まっており、どの部分を対象とするのかの選択が重要です。
有利子負債の圧縮
企業が有利子負債を減らすためにストラクチャードファイナンスを利用する場合もあります。
資産のオフバランス化を行うことで負債を圧縮し、全体的な収益性を向上させるのに役立ちます。
株主価値の最大化
ストラクチャードファイナンスによる資本市場での資金調達、バランスシート上のリスクの低減、および企業の資産価値の向上によって株主価値を最大化できます。
ストラクチャードファイナンスの手法
ストラクチャードファイナンスの手法にはいくつかあります。
代表的なものが「不動産の活用」「債権の活用」「プロジェクトファイナンス」「リースファイナンス」「LBOファイナンス」の5つです。
企業が所有する不動産を活用
企業の資産である不動産を活用する「不動産の流動化」という方法があります。
不動産を複数所有する企業にとっては、多額の資金を得られ事業の拡大や他の用途に資金を充てられます。
不動産の流動化
不動産の流動化とは、流動性の低い不動産を売却、または流動性の高い有価証券として扱えるようにすることです。
不動産の証券化
不動産を証券化し、その不動産が生み出す利益を受け取る権利を有価証券として売却することで企業は追加の債務を負うことなく資金調達ができます。
企業が所有する債権を活用
不動産と同様に、企業が保有する債権によっても資金調達が可能です。
債権の流動化
債権の流動化は売掛債権や貸付債権を証券化して売却する、あるいは債権を担保に融資を受けるといった方法でおこないます。
企業にとっては、債権の所有権を変えずに、債権を収益源とすることができるメリットがあります。
特定の事業に着目
企業が行う特定の事業に資金を提供することに焦点を当てた仕組みがプロジェクトファイナンスです。
プロジェクトファイナンス
プロジェクトファイナンスでは、特定の事業から得られるキャッシュフローに基づき融資が行われます。
一般的に、大型かつ安定的なキャッシュフローが見込めるプロジェクトに対して行われ、返済原資も担保も対象となる事業に限定されます。
プロジェクトの成功が鍵
返済原資は対象となるプロジェクトから生じる収益に限定されるほか、担保もそのプロジェクト資産に限定されるのがプロジェクトファイナンスでは一般的です。
そのため、貸し手やスポンサーが投資に対するリターンを得るためにはプロジェクトが成功することが不可欠です。
設備利用の形態に着目
設備利用の形態に着目したリースファイナンスという資金調達の手法もあります。
リースファイナンス
設備を購入する代わりに、設備を購入した会社とリース契約を結びリース料として支払うことで、借入金を増やすことなく設備を導入できます。
出資金と共に一部借入を利用
大規模なM&Aを行う際、資金調達方法として挙げられるのが出資金と共に一部借入を利用し少ない資金で買収を可能にするLBOファイナンスです。
LBOファイナンス
LBOファイナンスでは、買収先企業の資産やキャッシュフローを担保にして借入し、借入金は買収先企業が返済します。
そのため買収先に高い企業価値と安定した収益が必要になります。
少ない資金で大きな買収が可能
LBOファイナンスでは「LBO=(Leveraged Buy Out)」、つまり必要資金の大半を金融機関から借入し自己出資額を抑えることで、レバレッジの力を利用し大規模な買収を可能にします。
まとめ
ストラクチャードファイナンスの基本的な事柄について解説しました。
従来の企業全体の信用力を基に金融機関から借り入れた資金に頼った資金調達方法だけでなく、特定プロジェクト、または買収先企業の信用力で資金を調達するストラクチャードファイナンスは財務指標の改善やリスクの分散を可能にします。
ストラクチャードファイナンスについて知ることで、企業に適した資金調達の選択肢が増えるのではないでしょうか。