ワークライフバランスとは?意味や重要性、メリットも解説

6月21日に新聞を読んでいましたら「今日は夏至です」と言うキャプションが目に留まりびっくり。“まだ梅雨もあけていないのに、明日から昼間が短くなってしまうのか!“と思うと1年の過ぎ去るのが速いことに驚きます。

「今年はまさに『脱兎のごとし』だな」とオチを考えながら過去を振り返ってみますと、コロナがわずか数カ月でパンデミックになった2020年初頭より前と比べて世の中の雰囲気が変わってきているように感じます。

2019年位までは「働き方改革関係法」の成立や内閣府の「ワークライフバランス憲章」の制定などで国民の意識はある程度その必要性を自覚していたと思います。それでも会社に出勤して仕事をするのが当たり前の世界でしたから、ワークライフバランスの実践までには至らなかったと思います。そのような時にコロナ問題が発生し、リモートワークを余儀なくされたり、在宅で家族と長時間接することで従来は女性にまかせっきりだった家事労働にも参加するようになり、人生の価値観が変わったという男性社員が多くいます。

企業側もせっかく自社で活躍してくれている人材を失いたくないので、働く場所を自由に選択させたり、ダブルワークを認めるなど社員の働き方に対して寛大になっております。コロナのお蔭で内閣府が制定した「ワークライフバランス」が促進され、各社もそのトレンドに乗り遅れないために旗振り役の専門職員を配置して取り組んでいくものと思われます。

そこで、ここでもワークライフバランスを取り上げ、「ワークライフバランスとはどのようなことをいうのか、その意味や重要性、メリットについても解説します」ので参考にしてください。

 

ワークライフバランスとは

ワークライフバランスの歴史を調べてみますと、1980年代の後半に米国で生まれた概念であることがわかりました。働く女性の保育支援が最初の目的でしたが、1990年代には子どものいない女性や男性にも重要な施策として対象が拡大されております。

日本では「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」が内閣府を中心に関係者で検討され「仕事と生活の調和推進のための行動指針」とともに2007年12月に策定されました。 

ワークライフバランスの意味

ワークライフバランスのワークは「仕事」ライフは「生活」バランスは「調和」の意味で使われていますので、「仕事と生活を調和させよう」という意味になります。

参考までに日本で制定された憲章の前文を掲げます。

仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章

我が国の社会は、人々の働き方に関する意識や環境が社会経済構造の変化に必ずしも適応しきれず、仕事と生活が両立しにくい現実に直面している。

誰もがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たす一方で、子育て・介護の時間や、家庭、地域、自己啓発等にかかる個人の時間を持てる健康で豊かな生活ができるよう、今こそ、社会全体で仕事と生活の双方の調和の実現を希求していかなければならない。

仕事と生活の調和と経済成長は車の両輪であり、若者が経済的に自立し、性や年齢などに関わらず誰もが意欲と能力を発揮して労働市場に参加することは、我が国の活力と成長力を高め、ひいては、少子化の流れを変え、持続可能な社会の実現にも資することとなる。

そのような社会の実現に向けて、国民一人ひとりが積極的に取り組めるよう、ここに、仕事と生活の調和の必要性、目指すべき社会の姿を示し、新たな決意の下、官民一体となって取り組んでいくため、政労使の合意により本憲章を策定する。

仕事とプライベートの充実

この憲章が制定されたのが2007年12月ですから、男性の場合はまだ「仕事中心」の人が多かった時代です。理念として仕事とプライベートの双方を充実させることは分かっていても実際に2008年の育休取得状況は女性が89.7%に対して男性1.56%に留まっています。

最新の2021年の統計を見ますと育休取得率は男女ともに増加が認められますが、女性の85.1%に対して男性は14.0%となっています。男性の大幅な増加がみられますが、まだ1割台なのは、会社発展の激烈な闘いの中で育休を取ることができないと思われているのかもしれません。

互いに好循環を生み出す

しかし、実際に男性が育休を取った場合は、次のようなメリットが報告されています。

  • 女性の育児ストレスが減る
  • 一度経験することで2人目が育てやすくなる
  • 時間意識が高まり生産性が向上する
  • 情報の共有化ができ、チームワークで対応できるようになる
  • 仕事と育児を両立しやすくなり、女性の活躍する場が広がる

以上のように、「お互いに好循環を生み出す」ことが報告されています。

ワークライフバランスの類義語

ワークライフバランスの類義語に「ワークライフマネージメント」及び「ワークライフインテグレーション」という言葉がありますので、それぞれの違いを説明します。

ワークライフマネジメントとの違い

ワークライフバランスは「制度に頼る」ことで仕事と生活の調和を図ることを意味しますがワークライフマネジメントは概念として捉えられており、「主体的に努力すること」で仕事と生活を調和させようとするものです。

ワークライフインテグレーションとの違い

ワークライフバランスが仕事と生活を対立させずに調和を図っていくことを目的にしているのに対してワークライフインテグレーションは仕事と生活の両方を「統合・融合」させて充実させるという考え方を取っています。両者を統合化して実践するためには、例えば、フレックスタイム制」や「裁量労働制」を取り入れて働く時間を柔軟にする、リモートワークやワーケーションを取り入れて働く場所を柔軟にするなどがあげられます。従って、各企業がこれらのことを制度として確立する必要があります。

ワークライフバランスの重要性

「ワークライフバランスの重要性」は日本が現在直面している「少子化問題」「高齢化問題」などから読み解くことができます。

少子化対策

政府は異次元の少子化対策と称してその計画内容を検討していますがまだ結論は出ていません。メディアの予測では、「児童手当など経済的支援の強化」「学童保育や病児保育、産後ケアなどの支援拡充」「働き方改革の推進」の3つが柱となるようです。その中で、経済支援策の中核となるのは、「児童手当の支給額拡大」と言います。

この計画は未決定ですので置いておいて、ワークライフバランスの重要性で従来から言われていることを取り上げます。

出産・育児による離職の防止

出産・育児は女性にとって人生における一大イベントで、育児を含めると期間が長期になりますので、会社側にそれを支援するプログラムがないと多くの場合、離職せざるを得なくなります。せっかく会社の中軸として活躍してくれている女性が離職しないで、復職後はさらにキャリアアップができるような制度を設ければ、出産・育児による離職の防止を図ることができます。

キャリアをあきらめない

また、妻の出産・育児には夫の育児参加も欠かせません。夫が育児休暇を取るとことが2人のキャリアアップに影響しないことが分かっていれば、夫も積極的に育児休暇を取ると思います。

将来の働き手の確保

このような会社であれば、会社自体の社会的評価が高まり、安心して就職できる会社で社内結婚して子どもができても、二人とも勤務を続けることができますので「将来の働き手の確保」ができている会社であると言えます。

高齢化対策

少子化対策の重要性と一体的に重視されているのが高齢化対策です。少子化対策が功を奏して人口増加に転じることはいつになるか分かりませんし、現状からの予測ではかなり悲観的です。そこで、労働人口の確保をどう図るかが大きな課題になっています。

労働人口の確保

労働人口の確保については、特定の経験や能力がある外国人は受け入れられていますが、その他に技能実習生制度と特定技能の外国人労働者の場合は、14種の「特定産業分野」に該当し、法務省の定める基準を満たしていれば、一般の企業や個人事業主でも受け入れが可能になっています。これらの労働人口の確保策は人気があり引っ張りだこのようです。

働ける高齢者の活躍

もう一つの労働人口確保策は、働ける高齢者の活躍に期待することです。そのため、厚生労動省は、高齢者の雇用を促進するための改正高年齢者雇用安定法を成立させ平成18年4月(2006年)に施行されています。企業にとっては新たに登場した労働パワーである継続雇用等の高齢者に、その持てる潜在力をいかに発揮してもらい、業績や生産性の向上に寄与してもらうか、経営手腕が問われていると言われています。

家族の介護をサポート

他方で、高齢者は長寿化したとはいえ身体状況は次第に退化しますので、パートナーや家族の介護が必要になる状況も想定され、家族の介護をサポートするのに必要な公的なサービスの提供も求められます。

推進の目的

ワークライフバランスの重要性を「少子化」や「高齢化」問題から述べましたが、この政策を推進する目的をもう少し具体的に述べます。

経済的な自立

「経済的な自立」関係では、就労による経済的自立が可能な社会実現のために次の4項目が掲載されております。

• 若者が学校から職業に円滑に移行できること。

• 若者や母子家庭の母等が、就業を通じて経済的自立を図ることができること。

• 意欲と能力に応じ、非正規雇用から正規雇用へ移行できること。

• 就業形態に関わらず、公正な処遇や能力開発機会が確保されること。

労働者の健康維持

「労働者の健康維持関係」では「健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会」として次の6項目が掲載されています。

• 企業や社会において、健康で豊かな生活ができるための時間を確保することの重要性が認識されていること。

• 労働時間関係法令が遵守されていること。

• 健康を害するような長時間労働がなく、希望する労働者が年次有給休暇を取得できるよう取組が促進されていること。

• メリハリのきいた業務の進め方などにより時間当たり生産性も向上していること

• 取引先との契約や消費など職場以外のあらゆる場面で仕事と生活の調和が考慮されていること

家族と過ごす時間の確保

「家族と過ごす時間の確保」については上記の「健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会」にほぼ含まれていますが、総論の国の取り組みの中で「生活の時間の確保や多様な働き方を可能とする雇用環境整備を目指した支援を進める」と記載されています。

自己啓発

「自己啓発」関係では、「就労による経済的自立」の中で、「職場や地域での活動に必要な能力向上の機会を拡充するため、社会人の学習目的に応じた教育プログラムの提供や学習成果が適切に評価されるような枠組みの構築等により、社会人の大学や専修学校、公民館等における学習を促進する。」と記載されています。

多様な働き方の導入

コロナ禍を契機に、テレワーク、フレックスタイム制、時差出勤制度、短時間勤務・短時間正社員、副業・兼業、ジョブ型雇用、業務委託など多様な働き方の導入が試みられております。多様な働き方は中小企業でも実現しやすいと言われています。

多様な生き方の受け入れ

「憲章」では、「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域社会などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会」と定義しています。

ワークライフバランスのメリット

ここでは、ワークライフバランスのメリットについて述べます。

従業員のモチベーション向上

ワークライフバランス実施のメリットとして従業員のモチベーションが向上し「意欲的な労働」が行われ「生産性も向上」します。

ワークライフバランスの実施は必然的に働く環境の改善につながり、環境の改善は従業員のモチベーション(やる気)の向上につながります。

意欲的な労働

高いモチベーションがあれば、実際に労働に従事した時に意欲的に取り組むことができ、集中した作業で従来より短時間で良い製品などを作ることができます。

生産性も向上

その結果、生産性も向上させることができ、従来より短時間で処理することで仕事と生活のバランスが好ましいサイクルで循環する可能性が高くなります。

人材流出の阻止

ワークライフバランスの実行は「人材流失の阻止」にも有効です

優秀な人材を確保

例えば新卒社員を募集した時に受験生は自分にフィットする会社を懸命に探していますので、ワークライフバランスを実行している会社は高い評価を受けます。その結果、優秀な応募者が集まり「優秀な人材を確保」することができます。

キャリア形成をサポート

前述しましたが、例えば社内結婚しても女性はもちろん男性も育児休暇を取ることができ、復職後は2人のキャリア形成をサポートしてくれます。

企業のイメージアップ

ワークライフバランスを導入している企業はそのイメージアップを図ることも可能です。

求職者の増加

前述しましたように、求職者はとにかく評判の高い企業を選ぶ傾向が強いですので、他社よりも求職者が多いこと自体がその企業のイメージに直結しています。

CSRの観点

CSRは「corporate social responsibility(企業の社会的責任)の頭文字を取ったものですが、企業を評価する時によく使われます。対象は従業員・消費者・社会貢献活動等幅広いですが、会社が不祥事を起こしたり、商品製造で環境汚染したりすると厳しい評価を受けます。

ワークライフバランスを実践していれば、先端を行っている企業として高い評価を受ける可能性があります。

会社の成長

 会社の成長と言うと一般的には会社の拠点数の拡大や取り扱い品目の拡大等財政規模の拡大や従業員数の拡大を意味しますが、ここではワークライフバランスを論じておりますので質的な面から「従業員の人間的成長」とそれを「業務に還元する」ことを説明します。

従業員の人間的成長

従業員の人間的成長では会社内での「人間関係が良好で心理的安全性が保たれている」「コミュニケーションが活発」「企業と従業員の目標の共有化」「人材育成制度が整備済み」などが行われていれば、人間的成長ができることが期待できます。

業務に還元

これらの事項を常に業務に還元することで企業全体の質的向上を図ることができ、企業の評価が高まります。

コストの削減

ワークライフバランスを実践することで、コストの削減を図ることも可能になります。

残業の減少

残業など長時間勤務が当たり前だったのが、ワークライフバランスの実践で仕事と生活の調和が図られ、「残業が減少」します。

人員補充の減少

また、ワークライフバランスが軌道に乗ると会社運営も円滑になりますので、各部門のバランスも良くなり「人員補充の減少」も期待できるものと思われます。


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