現在の会社に就職して無我夢中で働き、気が付くと中間管理職になっていて、今まで以上に「会社を発展させる責任」を感じている方々を見かけます。管理職になると経営側サイドですから、全体的な視点から「わが社はどうすればもっと発展できるのか」悩むのは当然です。そのような時に上層部から「コーポレートブランディングを検討したいので、プロジェクトに入ってもらいたい」と頼まれたらチャンスです。積極的に引き受けて会社のブランド化に貢献してください。
そこで、ここでは「コーポレートブランディング」について、その目的や効果、実際の進め方を取り上げてみます。
コーポレートブランディングとは
ブランディングと言うと企業の商品やサービスなどをブランド化する意味で使われることが多いですが、コーポレートブランディングの「コーポレート」は法人や企業を意味します。つまり「会社自体をブランド化する」ことを意味します。
「わが社はなぜこの会社を設立したのか」「社会にどのような貢献ができるのか」等、入社時に聞いた記憶があると思います。会社の理念とも言えることですが、会社が目標とする使命を世間に訴え、商品販売やサービス提供などで実践していけば、次第に顧客などを通じて世間に広がります。
さらに会社全体を応援してもらえるようになれば、その会社の商品名を聞いただけで、「〇〇会社の商品だから安心して買えるよ」と推薦してくれるようになるかもしれません。そこまで進めば、会社のブランド化に一歩踏み出したと言うことができます。コーポレートブランドは会社の価値を高めてくれるツールです。
第5の経営資源
安定した企業運営をするためには、次のような経営資源が必要です。
- 人材・人的資源
- 経営資金
- モノ・設備(オフィスやPC、生産設備など)
- 知的財産や情報(自社だけが有するノウハウや顧客情報・市場動向・取引先など無形であるが重要な情報)
等が経営資源と言われておりますが、近年はこれに加え第5の「経営資源」にコーポレートブランドが挙げられています。
第5経営資源のステータスを確保するために、次の2つの課題にチャレンジを試みてください。
企業の個性を見直す
「貴社の個性は何でしょうか?企業運営が惰性に流されていませんか?」
もし、そう感じることがあれば、適正な時期に企業運営を分析してみてください。他社と比較して自社の個性がどこにあるのか徹底分析して、その個性を打ち出すことをお勧めします。
企業価値の向上を目指す
企業価値の向上を目指すため「事業収益性の向上」「固定資産や流動資産活用の最適化」「財務状況の見直し」などが一般的に行われています。これらに加えて
企業が持つ特別なノウハウや情報、優秀なスタッフの存在などを活用したビジネスモデルを作り実行してみることも自社事業の先進性をアピールでき、企業価値の向上につながります。
企業ブランドの全体構築
企業ブランドの構築は多くの場合時間を要しますが、一度構築されると経営者が変わってもブランドとしての評価は持続するのが通常です。顧客や取引先から「貴社の製品でなければダメ」と言われるようになれば企業ブランドとしての評価を勝ち取ったと言えます。そのためには企業ブランド化に向けた全体構築をして計画的にプロセスを踏みながら進める必要があります。その手法として2つの例を紹介します。
企業そのものをブランディング
企業そのものをブランディングする例としてアマゾンを取り上げてみます。
インターネット通販事業で最大手のアマゾンは企業コンセプトとして「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」を掲げています。これは企業創始者の「理念」にあたりますが、その後も「顧客は常に正しい」などのメッセージを発し、「顧客第一」の運営が顧客などの共感を呼び、「アマゾン社」そのものがブランド化していると考えられます。
社会における企業の存在価値
ある会社を訪問すると、受け付け近辺に「企業理念」が掲げられていることがあります。創業者がスタートアップする時に「このような会社にしたい」という宣言ですが、会社の日常活動の中で「社会にどのように貢献しているのか」「社会における企業の存在価値」もその会社のブランド化に関係します。会社が収益をあげ利潤を追求することだけに没頭しないで自社が社会で役に立っていることを点検して、PRしてください。「SDGsに参加しているのであれば、会社のブランド化に役立つでしょう。
コーポレートブランディングの目的
企業は他社より事業などで先行しようと毎日懸命な努力をしています。1分野でも先行して他社より優れていれば、それを売りにして差別化ができます。
「わが社の製品は〇〇だけは他社に負けない」と企業全体が適正な媒体を使ってPRを続けると、その企業自体がブランド化する可能性が高まります。
その要素としては、企業が持つ「技術的ノウハウ」「優秀な人材」「PR技術」などがあげられます。自社全体がブランド化するために、目標設定を明確にして
顧客など周囲を巻き込むと、企業自体のブランド化を早く達成できる可能性があります。
競争力の強化
競争力の強化も他社との差別化で欠かせません。競争力の強化に役だつ方策を2例紹介します。
商品イメージの底上げ
商品がまだブランドとして定着していない場合は、商品イメージの底上げを図るのが有効です。底上げを図るにはその商品の現在地を徹底分析します。
「価格・品質・機能等は他社と比較してどう違うのか」「差別化できるポイントは何か」を分析した上で「何をPRするか」決めて、PRの対象をある程度絞って効果的なPR活動を継続的に実施すると商品のイメージアップにつながります。
販促活動の効果を高める
どんなに素晴らしい商品でも顧客が知らなければ購入しませんので、「販促活動の効果を高める」ことはその企業が継続発展していくための必須条件です。
販促活動の種類をまとめると次のようなものがあります。
- インターネット通販(ホームページ・SNSの活用・インターネット広告等)
- オフライン広告(チラシ・旗や看板・新聞や雑誌)
販促活動の効果を上げるには、自社の製品を認知してもらうターゲット層を選んで、そのターゲット層に合う媒体を選択すると良いでしょう。
価格競争を避ける
競合他社と顧客獲得でしのぎを削る時にお得感を出すために価格を引き下げたりしますが、「価格競争は避ける」べきです。価格競争は「商品価値の低下」を
意味しますので、その業界全体に悪影響をもたらします。
企業のイメージで選ばれる
価格競争を避けるためには、企業のイメージで選ばれるように努力することです。例えば「自社ブランドを持っている」「製品に独自性がある」「注文すると1両日内に配達される」などの強みがその企業のイメージとして定着していると選ばれる可能性が高くなります。
固定ファンの獲得
「固定ファンの獲得」は企業運営に安定化をもたらしてくれます。いわゆるリピーターですが、この固定ファンは自分が気に入った商品をSNSなどで紹介してくれます。それを読んで新規購入者が増えます。その新規購入者とも定期的にコミュニケーションをして固定ファンになってもらうと自社製品の固定ファンネットワークが拡大していきます。ぜひ試してください。
従業員のモチベーション向上
モチベーションは英語で「動機付け、やる気、自発性」などの意味がありますが、従業員のモチベーションを向上させると会社の生産性が上がると言われています。次に述べる2つのケースもモチベーション向上の効果です。
企業への愛着を生む
従業員を大切にする企業は給料だけでなく透明性の高い評価制度や福利厚生制度など従業員が喜ぶシステムを設けています。このような環境で働く従業員は企業への愛着を持っています。
離職率の低下
企業に愛着があれば離職率の低下を防ぐと言われています。「毎日楽しくやりがいがある業務」に従事していれば、家庭等の特段の事情がなければ、離職することなど考えませんので離職率の低下は当然です。
コーポレートブランディングの効果
スタートアップ時の理念とも言うべき「自社の存在理由」や「社会における役割」
を社会や人々とシェアしていくことがコーポレートブランディングの目的ということができます。その結果、自社活動に消費者を始めとする多くの味方を得ることができるとともに、採用候補者や社員に仕事への誇り・充実感をもってもらえるという効果が期待できます。
インナーブランディング
インナーブランディングは、社員の会社に対するイメージを向上させ、企業活動に良い影響を与えるために自社の「企業理念」や「ブランド価値」を社員に浸透させる活動です。「インナー(inner)」は英語で「内部の」という意味がありますが、自社製品の素晴らしさを外部の人に理解してもらうには、社員自体がそれを理解していないと説得力がありませんので実施されています。
期待する効果は次の2つです。
社員の自尊心の向上
普段は自分の業務遂行に追われて気に留めることが少ない「会社設立時の理念」や「ビジョン」を社長や人事部長などから聞いたりすれば、やりがいのある会社に勤務していることを再自覚して「社員としての自尊心の向上」が期待できます。
インナーブランディングを計画するときは、できるだけ経営層との交流ができる機会を設けることをお勧めします。
強い組織力の形成
インナーブランディングは全社的取り組みですから、新人からベテラン職員まで幅広いメンバーを対象に実施されますので、一体感が醸成され「強い組織力の形成」が期待できます。
人材採用面
コーポレートブランディングにおける人材採用面での課題は次の2つがあげられます。
意識の高い人材の獲得
「知識の幅が広い」「夢や目標を持っている」「仕事に一生懸命」な人を一般的に
意識が高い人と呼んでいますが、職種は多種多様ですので職種によって「意識の高い」基準は変わると思います。私見ですが、採用する人材はとにかく「ポジティブ思考」で「協力的」な人材を選ぶと良いと思います。
企業理念に共感を得る
コーポレートブランディングでは「企業理念」の位置づけを重視しています。
採用時の面接などで「わが社の企業理念をご存じですか?」「企業理念について
貴方はどうお考えですか?」等の質問をして、企業理念に共感を得られるか確かめることをお勧めします。企業理念に共感を得られれば、採用後の活躍が期待できます。
アウターブランディング
アウターブランディングは、インナーブランディングが従業員を対象に実施するのに対して、企業が外部に直接情報を発信し、自社そのもののブランド化を図る方法です。商品やサービスのブランド化を目的にするのではなく、良い企業イメージを社会に浸透させ定着させることを目的としています。
マーケティング面での効果
自社のブランドイメージが競合他社より優位な位置にあり、それを活かして新規顧客の獲得やリピーターにもすることができれば、マーケティング面で効果があったと言うことができます。長期的に見て収益が向上します。
社会の中での信頼を獲得
社会に対して「会社の理念やミッション」などを中心にPR活動を行いますので
効果的なPR活動で会社の事業スタンスが広まれば、「社会の中での信頼」を獲得できます。
コーポレートブランディングの進め方
ここでは、実際にコーポレートブランディングをどう進めたら良いのか説明します。最初の行動は「コーポレートブランディングを実施する」という方針を上層部にあげて決済を取ることです。
開始するタイミングの見極め
決済が完了して着手するフェイズ(局面)では、社員の大部分が初めての経験になると思います。失敗すると会社全体が意気消沈する可能性がありますので、手順に従って慎重に進めるようにします。
全社のタイミングを捉える
コーポレートブランディングは全社事業ですから、実施するタイミングを捉えておく必要があります。例えば「自社の周年行事・新経営計画策定時・社長交代・新規上場会社になった・企業合併した」等を出発点にするなどの案が考えられます。
企業が生まれ変わるタイミングに合わせる
「コーポレートブランディングは企業の生まれ変わり」ですので、上記の周年行事・新規上場・企業合併などはそれにふさわしいかもしれませんが、全社的事項ですので上層部の意向も含めて十分検討するようにしてください。
プロジェクトチームの編成
決済をクリアして行動を開始するに当たって最初に取り組むことは、実行部隊であるプロジェクトチームの編成です。
全社プロジェクトですから次の2点を考慮して編成すると良いでしょう。
部署をまたいだチームの編成
各部署から最低1人は参加するのが理想ですが、無理な場合は必ず書記を置いて「議事記録」を作成し、社内報などで全社員に報告するようにします。
企業全体の視点を持つ社員が適任
プロジェクトチームを運営していくうえで「問題意識があり」「企業全体の視点に立って主体的に取り組める」チームのコアになる社員を必ずいれるようにしてください。チームリーダーになる人は普段からアンテナを張って社内の人物情報を集めておくことをお勧めします。
自社の現状を把握
次のステップは自社の現状把握です。「自社全体のブランド化を目指すに当たって現状はどうなのか」を認識して改善に向けた出発点にするため「外部分析」と「内部分析」を行います。
外部分析
外部分析は自社を取り巻くビジネス環境や他社の状況を調査することを目的とします。「コロナが自社のビジネスにどのような影響を及ぼしているのか」 「競合他社がどのような戦略を取っているのか」「自社より先行していることは何か」等を分析することで、自社が目指す方向が見える可能性があります。
手始めに関係各社の社報などの収集が必要です。
内部分析
内部分析で自社の現状を分析します。自社内の資料収集をしてその分析をしたり、社長へのインタビューを行ったり、自社製品に関する顧客のアンケートなどを実施して、自社をブランド化するに当たっての問題点や課題を整理します。
コーポレートアイデンティティの策定
次のステップで実施することは「コーポレートアイデンティティーの策定」です。
これまでの調査や資料分析で分かったことをベースに、「自社はこれからどの方向を目指すのか」「何を社会目的にするのか」等、明確なメッセージを発信するようにします。発信する例を2つ紹介します。
方向性を明確にする
調査・資料分析で判明した課題に対して自社がどのように取り組むのか、方向性を明確にします。
社会の一員としての目的
コーポレートアイデンティティーの策定により、社会の一員としての目的達成のために、会社のみならず社員も会社理解のための情報を積極的に発信していきます。
ビジュアルアイデンティティの開発
次のステップは「ビジュアルアイデンティティーの開発」です。
コーポレートアイデンティティーは文字で表現されますので、そのままでは概念として活用されるだけで範囲が限定されます。
概念にとどまらないように視覚化
ビジュアルアイデンティティーを開発することで概念に留まらない視覚化が実現し、飛躍的な活用が期待できます。
ブランドロゴやスローガンの作成
ビジュアル化作業はデザイナーとの共同作業になりますが、ブランドロゴやスローガンの作成もできますので、自社の新生デビューに華を添えてくれます。