SRとIRを知って安心できる投資を勝ち取ろう!SRという言葉の豆知識も解説

政府が「成長と分配の好循環」及び「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトとする「新しい資本主義」を打ち出し、内閣に新しい資本主義実現本部を設置して本格的な活動を開始しています。そのプランの中には「貯蓄から投資のための資産所得倍増プラン」の策定があります。各家庭がいざという時に備えて貯蓄している2000兆円を箪笥預金にしないで投資に回してもらい個人所得を倍増させようという計画です。ちなみに投資信託や株式を持っている日本の投資家人口の推計は約2700万人と言います。20歳以上の人口が約1億人ですから約27%の人が何らかの形で投資に関わっていることになります。

また、2021年6月30日に投稿された「日経マネー」の記事では投資歴6カ月未満の初心者が増えていると言います。しかも、30歳以下の若い人の大手ネット証券の口座開設が急増するなど、従来と異なる現象が現れているようです。

口座開設の理由は、若い人の場合「投資で儲けたい」と思うのが一般的ですが、「自分で老後の資金を確保したいと考えた」という理由が「儲けたい」を上回ったそうですので日本の世情を反映しているのかもしれませんね。

このサイトをご訪問いただいたのも、SRやIRという言葉に引かれて「無難な投資をしていきたい」と考えておられるからだと思います。SRという言葉についての「コラム」も作ってみましたので、お楽しみいただければ幸いです。 

SR(Shareholder Relations)とは

SR(Shareholder Relations)を英和辞典で調べてみますと「Shareholder」は株主の意味がありますので「株主との関係維持」という訳が出てきましたが、日本語としての適切な翻訳語はないようです。これから自社株を購入してもらい株主になってもらうという活動ではなく、既に株主になっている人と友好関係を保持しながら対話を重ね、自社活動の理解を得てもらい信任を勝ち取る活動を言っています。 

この活動はもちろん現在も行われておりますが企業側にとっては、年次総会を乗り切るための方策の1つでもあります。しかし、近年は一定の自社株を獲得の上それを裏づけに企業側提案案件に異議を唱える「物言う株主『アクティビスト』の活動などがあり、時には否決されることもありました。その背景には「組織不祥事が発生」「リスク管理が未熟」「コンプライアンスや企業統治が不十分」などの問題があります。

金融庁の取り組み

このことを認識した金融庁は「コーポレートガバナンスコード」策定に向けて有識者会議を立ち上げて9回に渡る検討会議を重ね提言を受けました。その提言をパブリックコメントにかけて提出された意見を取り入れたりして最終的に、「コーポレートガバナンス・コード原案~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」が公表さました。

原案のアウトライン

コーポレートガバナンス・コードは日本語で「上場企業統治指針」と呼ばれますが、

その原案のアウトラインは次の通りです。

コーポレートガバナンスの目的は、上場企業や経営の透明性確保・株主やステークホルダー(利害関係者)の権利や立場の尊重を通じて上場企業の価値を中長期的に向上させることにある。

そのために上場企業は不祥事・不正などすることなく、公正な判断や経営ができるように監視・統制をするシステムを構築する。

監視するのは社外取締役か社外監査役で、これらの役職の人はステークホルダー(従業員や債務者など)の代弁者として重要な役割を担う。

「この報告書が指摘する問題点として『国際的に見ても日本企業の自己資本利益率(ROE)や株価は低いため、投資家にとって日本企業へ投資するメリットが少ない』などが指摘されています。」

金融庁と東京証券取引所の協議

以上のようなアウトラインを内容とする「報告書」の提出を受けて、金融庁は東京証券取引所と協議を行い、2015年6月に金融庁と東京証券取引所がコーポレートガバナンスコードを策定し、上場企業への適用が開始されるようになりました。

コード(code)は法律用語で「法典・法体系・規約」などの意味がありますので、「企業はコーポレートガバナンスコードを守る義務」があります。また、今回制定されたカバナンスコードが守れない場合は「その理由を明らかにする」ことも求められており、説明責任が伴うことを明確に規定しています。

サステナビリティ事業の取り組み

コーポレートガバナンスコード策定後も数回の改定が実施されていますが、2021年の改定コードで「サステナビリティを巡る課題への取組み」が取り上げられています。その内容は次の通りです。

1. プライム市場上場企業において、TCFD(*1)またはそれと同等の国際的枠組みに基づく気候変動に関する情報開示の質と量を充実させること

2. サステナビリティについて基本的な方針を策定し、自社の取り組みを開示すること

というものです。

(*1) 気候関連財務情報開示タスクフォースの略

近年は企業の社会的責任(CSR)が求められるようになりましたがSDG’sなどへの参加企業が増えているのもこのコードが影響していると考えられます。

SRの意味

 SRの意味は企業側が株主や投資家と接触して自社事業活動などを説明して親密な関係を築く行為であることは先述した通りですが、その活動をする人材が従来は社内におけるポジションが比較的低位でも良かったのが、コーポレートガバナンスコード策定後は社長等の経営層になっております。

SRの目的

SRの役割を経営層が担うことになり、SRの目的自体が変わっているということができます。

「株主との対話」をすることに変わりはありませんが、経営層が対応することで企業自体の経営問題を中心とした対話になります。コーポレートガバナンス・
コードは、「株主との対話」を株式発行企業の「持続的な成長と中長期的な企業価値に資する」取組みであると明確に位置付けているからです。

また、対話の内容として「経営戦略や経営計画の策定・公表」「収益力・資本効率に関する目標の提示」その実現のための「経営資源の配分等に関する具体的な方策」を説明すべきとしており、対話の内容にまで踏み込んでいます。

SRの主な活動内容

サステナビリティ事業についてはコーポレートガバナンス・コードが推奨している事業ですので前述しましたが、その他のフィールドで企業が社会貢献している事業活動をいくつか紹介します。

施設・所有地の提供

キリン : 工場敷地内にビオトープ(生物空間)
東京ガス: 環境エネルギー館
トヨタ :トヨタの森、里山学習館、組み立てライン工場見学
松下電器産業 :工場見学(リサイクルセンターなど環境施設の見学受入れ)
SANYO: 太陽電池科学館ソーラーラボ、ソーラーアーク

職員の環境教育への派遣

西友 :ゲストティーチャー
イオン:こどもエコクラブのサポーター
NEC:学校現場で自社の環境経営の講義、ケナフ紙すきの指導員
東京電力:小、中、高等学校でエネルギー講座

ボランティア活動など地域社会への貢献

伊藤忠商事: 夏休み環境教室(地元小中学生および社員の子供たちを対象)
王子製紙:工場周辺地域の清掃活動、地域における植林、植林教育への協力
キリンビール:植林、空き缶回収活動、クリーンキャンペーンへの参加
(キリン・コラボ倶楽部をつくってサポート)
松下電器産業:工場敷地の緑化活動
(パナソニックボランティア活動資金支援制度)
リコー:環境ボランティアリーダー
SANYO:ビーチクリーンアップ作戦
NEC:植林(豪州カンガルー島に「NECの森」と呼ぶ植林地区を整備

この他にもありますが、企業ぐるみの社会貢献活動が実施されている事例として環境省のホームページから抜粋しました。 

SR活動とSRコンサルティング

上述しましたようにSR活動は企業の経営層が担当することになりましたので、活動の中心は経営層の立場で自社の計画を話して株主に理解してもらい両者の関係の安定化を図ることになります。

これに対して企業のSR活動についてコンサルティングして株主総会などを援助する企業があります。

コンサルティング企業の具体的な活動内容は、例えば「実質株主判明調査」「株主総会支援活動」「個人株主対策」「アクティビスト分析」など幅広い活動でSR活動をバックアップしてくれます。

IR(Investor Relations)とは

一般的にIRと言っていますが、Investor は英語で「投資家」を意味していることは分かりますが、RelationsはSRと同様に適切な翻訳語がありません。

IRは投資家を対象とした活動、SRは株主を対象とした活動という区分の仕方が

分かりやすいと思います。 

IRの意味

IRと言うときの意味は、投資家や株主に対して情報の公開をすることです。情報の内容は企業の財務状況など投資の判断に必要な情報です。

IRの目的

IRの目的は「適正株価の形成」にあります。そのためには、タイムリーな時に適正で平等な企業情報を開示して、投資家に伝達することが求められます。投資家がもつ情報にばらつきがあると適正株価の形成の妨げになるからです。投資家が正しい情報に基づき正しい判断をすれば、正しい株価の需給バランスが確保できます。

IRとPRの違い

IRは上記の基準で「投資家」に対して正確・平等な広報活動をするのに対して、同じ広報活動でもPR(Public Relations)とは多少異なります。PR活動は企業や官公庁が事業内容などの公共的価値を一般人などに知ってもらい、その信頼・協力を得るための宣伝広告活動です。

IRの主な活動内容

IRの活動内容は多岐にわたりますが概ね次のような活動が行われています。

  1. 現在の経営状況や財務状況の報告
  2. 将来的な見込みを含む企業活動の実績
  3. 知的財産の状況
  4. 社会貢献活動や環境活動の実績
  5. IR活動に関するWeb公開等

以上のような事項について資料を作成し説明会などを開催しています。

これらの資料作成や説明会は株主総会の一環としても機能しています。

SR・IRの必要性

SRにつきましてはこれまでに述べましたようにコーポレートガバナンス・コードに基づき企業の経営層が主体となって株主と緊密な連携を図りながらコードが求める活動を展開することになりましたので、その必要性は明らかです。

また、IRにつきましても近年は投資家に対して自社の財務状況や経営状況だけでなく社会貢献活動などについても報告するなど信頼関係醸成に努めていますので、必要性があることは疑いの余地がありません。

他分野におけるSR

SRという略称は、ここで述べた意味と異なりますが、他の業界団体でも使われている例がありますので、豆知識として紹介します。

医療業界におけるSR

医療業界におけるSRとして、サイナス・リズム(sinus rhythm)があります。これは日本語で「洞調律」と言い、心臓が規則正しいリズムで収縮している状態を言います。

営業におけるSR

医療機器営業におけるSRは「Sales Representative」の略語で医療機器販売員を意味します。

車業界におけるSR

車業界におけるSRは、サンルーフ(SunRoof)を意味します。自動車の屋根がスライド、あるいは持ち上がる(チルト)パネルになっていて開閉することができます。換気・採光・開放感を味わうことができます。

IT業界におけるSR

IT業界におけるSRは、代替現実(Substitutional Reality)を意味します。代替現実は「現実とは違う事象を現実であるかのように認識する感覚」を生み出す技術を言います。

建築業界におけるSR

建築業界におけるSRは、球の半径(Spherical Radius)またはサービスルーム(Service Room)

を意味します。

電子工学におけるSR

電子工学におけるSRは、直列リアクト(Series Reactor)を意味します。直列リアクトルは、コンデンサに直列に接続され、電力系統に存在する高調波の抑制や電力用コンデンサの開閉により、過渡的に発生する過大な電流・電圧などの特異現象による弊害を防止する機器です。

まとめ

日米の家計の金融資産構成を見ますと、日本は「預貯金」が54.2%を占めているのに対し、「株式等」が9.6%、「投資信託」が3.4%で、「預貯金」に大きく偏っています。

これに対して米国は「預貯金」が13.7%、「株式等」が32.5%、「投資信託」が12.3%を占め、「株式等」が「預貯金」を上回っています(2020年8月日銀調査)。

長い歴史の中で預貯金を偏重するムードが醸成されてきましたので、一朝一夕には株式や投資信託にシフトするのは難しいと思いますが、今回のコーポレートガバナンス・コード策定など大胆な改革を進めることで国民の投資熱も高まっていくことができるのではないかと思います。


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