「ユビキタス」という単語を聞いたことはあるでしょうか。
ビジネスにおいては、特にIT関連分野において使用されるものですが、近年はまさしく「ユビキタス社会」であるため、さまざまなところで耳にしているかもしれません。
本記事ではその意味や関連した語句、課題について解説します。
ユビキタスとは
まずは基本的な用法と、ユビキタス発展の経緯について解説します。
ユビキタスの意味
ユビキタスは、情報技術が社会のあらゆる側面に普及し、無意識と言えるほどに私たちの生活や業務に浸透している状態を表現します。
「ubiquitous」という英単語が語源
「ユビキタス」は、英語の「ubiquitous(ユビキタス)」をそのままカタカナにしたものです。ラテン語の「ubique(どこにでも)」と「-ous(~の性質を持つ)」を語源とし、「普遍」というイメージがあります。
時間・場所・人を選ばない
情報技術、またそれが搭載された機器の普及により時間や場所、人を選ばずにそれらの恩恵を享受することができる、というのがユビキタスの状態です。
ユビキタスの歴史
次に、ユビキタスがどのような経緯で作られ普及したかについて見ていきましょう。ユビキタスはIT技術についての用語なため、比較的浅い歴史ではあります。
マーク・ワイザーが提唱
この用語は、技術者兼教授のマーク・ワイザーが1991年に発表した論文の中で提唱したものです。
彼は「革新的技術は、有益すぎるために世界に浸透し、それゆえ次第にだれも革新技術であると気づかなくなっていく」という旨を表明していました。
コンピュータの小型化とともに浸透
当時はコンピュータ自体学者が使う程度のもので、とても普遍なんて言えなかった時代でした。しかし、技術の発展に伴う小型化にともないコンピュータの利用は「一人一台」から「一人複数台」へと浸透しました。
日本独自の解釈
日本でも後にユビキタスの概念は輸入されましたが、やや違った意味合いで解釈されたようです。
ワイザーはあくまで「それが当然のものとなる」ということを発していましたが、日本は「いつでもコンピュータが使え、どこにでもある」と、若干の差異がうかがえます。
IT業界でのユビキタス
それでは、IT業界で使用される場合の「ユビキタス」の一般的な意味についてここでは述べていきます。
IT技術が生活に溶け込んだ状態
スマートフォンやタブレットといったデバイスを通じて、情報の受け取りや送信、コミュニケーションなどが既に日常化していますね。そして自宅やオフィスでのインフラもユビキタスなIT技術の一例です。
IoTやクラウドと似た概念
またIoT(Internet of Things)やクラウドコンピューティングといった概念と密接に関連しています。機器が人へ情報伝達を行うIoT、インターネットを介したデータ提供をするクラウドコンピューティングが組み合わさり、ユビキタスな環境が実現されています。
新しい技術が次々と誕生
人工知能(AI)、仮想現実(VR)などの革新的な技術は、ユビキタスな環境だからこそ円滑に発展しているといえます。新しい技術の発展はより高度な情報処理を可能にし、業務の効率性を向上させるでしょう。
ユビキタスの関連用語
そしてこのように社会にIT技術が常在化するとともに、ユビキタスを用いたいくつかの派生語が生まれてきました。
ユビキタスコンピューティング
一つ目の概念として「ユビキタスコンピューティング」というものが挙げられます。
これはロボットや家電機器等の核にあたるOSを新開発する日本の「TRONプロジェクト」で提唱されたものです。
「どこでもコンピュータ」の概念
プロジェクトを立ち上げた坂村健は、将来的に家電の一つから衛星に至るまでのすべてが自動的に、自律的に動作するだろう、とする「どこでもコンピュータ」を提唱していました。
すでに多くの端末に応用
事実、ICカードやロボット、スマートフォンといった多数の端末に応用され、この用語が現実に近づいています。
ユビキタスネットワーク
「ユビキタスネットワーク」という、ユビキタスコンピューティングを土台に生まれた用語も同時に覚えておきましょう。
あらゆる場面で通信し合うことを目指す構想
ユビキタスネットワークは、あらゆる場面で通信し合うことを目指す構想です。
人々、もしくは機械が全てつながりを持ち、思いのままに通信できる状態を目的とします。
LTEやWi-Fiの普及が後押し
ユビキタスネットワークの実現には、高速で安定した通信インフラが不可欠です。これは、LTE(Long-Term Evolution)の高速モバイル通信とWi-Fiの広範な範囲での無線通信が実現の後押しとなるでしょう。
ユビキタス社会
最後に、これらを包括的にあらわしたものが「ユビキタス社会」です。
人と人、あるいは物と人のつながりが一体化した社会ともいえるでしょう。
ユビキタスが浸透した未来を指す
つまりコンピュータ、ITの常在とそれを当たり前のように行使しているような、ユビキタスがすっかり浸透している未来を意味します。
ICT政策の一環として進行中
ICT(情報通信技術)と呼称されるITをより人への通信や事業として活用する取組全般を指す用語があります。また国家的な方針として、現在ユビキタス社会実現もICT推進政策の一環とされています。
ユビキタス社会に向けての課題
完全に実現すれば暮らし全体が大きく便利になるであろうユビキタスですが、それにあたっては課題がいくつか考えられます。
プライバシーの保護
ユビキタス社会では、個人の情報が広範囲に収集され、利用される可能性があります。そのため、個人情報の適切な取り扱い、データのセキュリティ対策、法的な規制などが必要とされるでしょう。
対策が不十分なケースが多い
現実には、プライバシーの保護に関する対策が不十分なケースが多く存在します。実際今でも、個人情報の漏洩や不正利用のニュースを時折見かけることがあります。
個人でのプライバシー管理
今後さらに個人として、プライバシーを適切に管理することが求められ、防止策、リテラシー教育の価値が向上すると想像できます。
企業内でのプライバシー管理
更に、当然企業は従業員や顧客の個人情報を取り扱うため、プライバシー管理の責任があります。法的要件に適合するため規定を策定すること、データの適切な保管やセキュリティ対策の実施などが必須です。
プライバシー保護ガイドライン
こうした規定はプライバシー保護ガイドラインという形で企業が策定・遵守していくことが基本となると予想できます。
情報セキュリティの確保
プライバシー保護に加えて、ユビキタス社会においては外部からの不正アクセスやサイバー攻撃に対する情報セキュリティが求められます。
迷惑メールの被害が多い
ユビキタス社会では、迷惑メール(スパム)、もしくはそれに類似したものによる被害の増加が予想されます。迷惑メールは個人のプライバシーやセキュリティを脅かし、妨げとなるものです。
コンピュータウイルス対策
同時に、さまざまなデバイスがネットワークに接続されるため、ウイルス感染のリスクも爆発的に伸びるでしょう。具体的な対策が欠かせません。
不正アクセス対策
不正アクセス防止策としては、強力な認証・認可システムの導入、監視と分析、セキュリティの脆弱性の定期的な調査などが方法として考えられます。
専門技術者の育成
現状、こうしたIT技術に精通した人材は多くないため、関連する資格の取得を支援する制度の整備、専門的な研修やセミナーの提供なども重要でしょう。社会全体での専門技術者の育成や知識共有の活性化が対抗策になりえます。
利用者のマナー
ユビキタス社会においては、ますます利用者のマナーが問われるでしょう。強固なセキュリティやプライバシー保護も、利用者が悪意を持って使用すれば意味を成しません。
携帯電話の使用マナー
無配慮・無防備な携帯電話の使用を行わない、自分・他人の個人データをむやみに送信しないなど、一人一人の携帯電話の使用マナーの徹底が必要でしょう。傍受、情報の抜き取りといった多様な罠をかける悪意の利用者の存在の増加がユビキタス社会では考えられます。
他者への誹謗中傷
SNS等での誹謗中傷も挙げられます。誹謗中傷を原因とするいじめや自殺の事案もあり、これは倫理的にも社会的にも受け入れられません。すべての人間が便利にコンピュータと共存するユビキタス社会の実現のためには、他者との相互尊重を意識するよう喚起する必要があるでしょう。
著作権の侵害
他にも、ユビキタス社会においては、デジタルコンテンツの簡単な共有や再利用(あるいはAI技術の台頭によるもの)が容易になりますが、裏を返せば意図的、もしくは悪意がなくとも著作権侵害が加速する確率が高いです。
法整備が求められる
これらの使用者のマナー、道徳性に依拠する問題はユビキタス化に伴って顕著となっていくのではないでしょうか。また、個人のモラルやマナーに依存するだけでなくそれらを制限する法整備が必要ですが、しかし自由の侵害という面も考慮されなければなりません。
まとめ
ユビキタス(Ubiquitous)は、現代の情報技術の一つで、人々が身の回りにあるあらゆるものがインターネットやセンサーによってつながり、情報が自動的に収集・処理される状態を指します。スマートフォンやウェアラブルデバイス、スマートホームなど、さまざまなデバイスや環境が相互に連携し、人々の生活やビジネスに利便性や効率性をもたらすとされています。
ユビキタス技術は今後ますます普及していくと予想され、ビジネスや生活のあらゆる領域でさらなる大きな変革をもたらす可能性があります。これからの社会で活躍するためには、ユビキタス技術の基礎知識やセキュリティ意識を高めることが重要です。
本記事が今後のビジネスにおいて役立てば幸いです。