企業の広報部などに配属され、上司から「これからアニュアルレポートを作成しようと思っているので、作成を担当してもらうよ」と言われ、どんなことをするのか分からず困惑していませんか?
アニュアルレポートは、金融機関・株主・投資家に向けた報告書であり、作成にあたって、会社のことを理解し、わかりやすく伝えることが求められます。
そのため、アニュアルレポートの作成に関わる経験は、将来のキャリアアップに活かすことができる経験となるでしょう。
この記事では、アニュアルレポートをはじめて作成する方に向けて、作成方法や作成例などを詳しく説明しますので、ぜひ最後までお読みください。
アニュアルレポートとは
「アニュアル(annual)」は、名詞では「年鑑・年次・年報」、形容詞では「年に1度の・毎年の」といった意味で使われています。
そのため、「アニュアルレポート(annual report)」とは、「年次報告書」を意味する書類ということになります。
日本語では年次報告書
企業では、事業年度が終了すると事業報告書や決算報告書、有価証券報告書等を作成する必要があります。ただし、年次報告書(アニュアルレポート)という形式での作成は義務付けられてはいないため、年次報告書を作成するかどうかは各企業の判断によることになっています。
「日本企業の統合報告に関する調2020」によると、日経225構成企業のうちアニュアルレポートを含めた「統合報告書」を発行している企業数は「182社」、発行していない企業数は「43社」となっています。
作成されているアニュアルレポートを含めた統合報告書では、「企業の財務情報」や「実施した事業」などが開示されています。
企業の財務情報の開示
財務情報は、安定的な経営が行われていることをステークホルダー(利害関係者)に伝えることが投資への判断に役立つため、開示されています。
実施した事業の紹介
その事業年度で実施した事業の狙いや到達度を分析し、さらに次年度以降の課題や事業方針、取り組みなどをステークホルダー伝えることが投資への判断に役立つため、開示されています。
統合報告書や有価証券報告書との違い
アニュアルレポートと統合報告書の違いとして、アニュアルレポートは単年度の事業報告であり、それと比べて統合報告書は、将来を見据えた企業の利潤追求と社会的責任にも言及した統合的ビジョンを記入する報告書となっていることが挙げられます。
アニュアルレポートと有価証券報告書の違いとして、アニュアルレポートは報告書の内容が企業によって差があり、また作成が義務付けられていない報告書であること。それに対して、有価証券報告書は金融商品取引法で上場企業に提出が義務化されているため、作成することと記載する内容が定められていることが違いとして挙げられます。
アニュアルレポートの目的とメリット
ここでは、アニュアルレポート作成前に知っておくべき「目的」や「メリット」などの基本的事項を説明します。
アニュアルレポートを作成する目的
アニュアルレポートを作成する目的として「株主・投資家からの信頼獲得」と「金融機関からの融資獲得」が挙げられます。
株主・投資家からの信頼獲得
株主・投資家から信頼を得るためには、企業の財務状況や運営をオープンにするとともに、どのような方向に進むのか将来の展望を示すことが必要です。またそれ以外にも、経営者のメッセージや企業の社会貢献活動などを伝えることによって株主からの共感、信頼を得ることにつながるでしょう。
金融機関からの融資獲得
財務諸表と合わせて、アニュアルレポートによって企業の経営者のメッセージ、自社の強み、安定性や将来性などをわかりやすく伝えることで金融機関からの信頼獲得にも役立つでしょう。
アニュアルレポートのメリット
アニュアルレポートを作成するメリットとして、次の2点を挙げることができます。
企業実績を数字以外でもアピールできる
当該年度で取り組んだ事業のハイライト等の既存の書類で公開している数字以外のアピールすべきポイントをアニュアルレポートに載せることで、自社の魅力をアピールすることができます。
企業への長期投資を呼び込める
近年のアニュアルレポートは各社が工夫をこらしており、企業が発展する将来像を明確に、わかりやすく、株主・投資家へ伝えることができます。このような姿勢は、投資家からの長期投資を呼び込むことにつながるでしょう。
アニュアルレポートの作り方
ここではアニュアルレポートの作成方法をお伝えます。
原稿作成の事前準備
まずは「何を載せるのか」を考えるためにも、他社のアニュアルレポートの項目や自社のアピールするポイントについて広く情報収集を行います。
担当者は、この機会を利用して自社の全部門を訪問し、ニュースやトピックスを集めましょう。会話を重ね、各部門の状況を詳細に把握することで良いアイデアに結びつくでしょう。
作成スケジュールの決定
アニュアルレポートは、年一回発行することになるので、「いつまでに作るのか」を確定させ、それに合わせて情報収集やインタビュー、画像などの素材集め、編集、校正、決裁、データ化、印刷などのスケジュールを組むことになります。
コンテンツの決定
集めた情報を「どのようなコンテンツにして載せるのか」は、担当者としての力量が試されるので、悩むところだと思います。
集めた情報は、優先度付けだけして並べてもなかなかイメージが伝わらないため、掲載する情報の順序や大きさをイメージできるように雑誌のラフのようなものを作成して上司に相談しましょう。
原稿作成と校正
コンテンツが決まると、不足している情報を集めたり、インタビューをしたりしながら原稿の執筆活動に入ります。執筆後は、必ず校正を行い、合わせてインタビューした部署や本人へ事実確認などを行います。
デザインの決定
アニュアルレポートは、文章、図表だけでなく、イラストや写真、画像などデザインも自由に設定することができるため、執筆とデザインを組み合わせて考えていくことになります。
「企業としてのカラー」や「読みやすさ」、「わかりやすさ」といった視点からデザインを検討するとよいでしょう。
開示前の最終チェック
原稿の最終版が完成したらデータの最終チェック、ゲラ刷りしてデザイン面での最終チェックを必ず複数人で行いましょう。自分では気づかなかったミスが複数人の目を通すことで見つかる可能性があります。
アニュアルレポートで開示する情報
ここでは、アニュアルレポートで開示する情報・項目の例をご紹介します。
企業の財務状況
アニュアルレポートは、株主や投資家、金融機関、企業の関係者、そしてその企業に応募しようしている学生まで見る可能性がある書類です。
そのような方々に、企業の経営状況、財務状況は、基本的な情報として伝えるべき情報になっています。
財務状況の安定性を公開
企業の財務状況を伝える際は、「安定性=安定していること」がわかるように伝えましょう。
特に株主・投資家は財務諸表から「自己資本比率」、「流動比率」、「当座比率」、「固定資産比率」の4点から財務状況の安定性を判断することが多いようです。
もちろんすべての数字が魅力的であれば良いのですが、魅力的に見えない場合は、それを補足するための情報を記載することが重要になります。
目的達成のための経営戦略
企業は、必ずその企業が存在する目的を定めています。そして、目的を達成するための方針・方法として経営戦略があります。
企業の経営戦略に沿った結果、現在の財務状況に至ったことを伝えることで、経営者が考えている中長期的な視点を数字の根拠を示して伝えることができます。
企業理念
企業理念は、その企業の創設者が創業するときに掲げる「使命・思想・存在意義」を指します。
多くの企業が、企業理念、企業理念を実践している経営者からのメッセージ、企業の目指す将来像をアニュアルレポートで開示しています。
それではいくつか実例を見ていきましょう。
経営者からのメッセージの例
株式会社日立物流の経営者からのメッセージを例としてご紹介します。
日立物流グループは、経営理念である「広く未来をみつめ 人と自然を大切にし 良質なサービスを通じて 豊かな社会づくりに貢献します」のもと、高度化・多様化・広範化しているグローバルサプライチェーンにおいて、お客様・株主・従業員などあらゆるステークホルダーから、最も選ばれるソリューションプロバイダとなることを経営ビジョンとして掲げ、さまざまな『協創』を通じた課題の解決と『価値』の創出に取り組み、持続的な成長を実現してまいります。 |
アニュアルレポートの注意点
ここでは、アニュアルレポートを作成する際の注意点をいくつかご紹介します。
わかりやすく正しい情報を開示する
アニュアルレポートは企業の公式レポートなので、「正しい情報を公開すること」。そして、アニュアルレポートを作成する目的でもある「わかりやすく伝えること」も忘れてはいけません。
アニュアルレポートを作成する際は、この2点に注意しましょう。
簡潔な情報が共感を呼ぶ
わかりやすく伝えるためには、簡潔であることが求められます。
そして簡潔でわかりやすい情報を伝えることで、情報を得た相手から共感を得ることにつながっています。
情報の正確性が信頼を生む
正しい情報を伝えるためには、情報の正確性を確認し、例えば、良いところだけではなく、課題や改善が必要な事項も示すことが必要になるケースもあります。
伝え方は考えなくてはいけませんが、課題や改善が必要な事項も含めて正確に伝えることで、ステークホルダーからの信頼獲得につながります。
企業イメージを明確に表現する
アニュアルレポートは様式が決められていないため、企業のイメージを伝えるために適した書類となっています。
投資家への認知が広がる
企業のイメージを伝えることができるということは、投資家に対しても認知が広がることを指します。一般的に、投資家は投資先である企業を認知し、その後情報を収集し、収集した情報から投資の判断をすることになります。
そのための第一歩として「企業のイメージを伝えること」は、企業にとって重要な活動です。
ブランディングにもつながる
アニュアルレポートで企業のイメージを伝え、自社と競合他社との差別化を図ることは、企業のブランディングにもつながっています。
アニュアルレポートの作成例
ここでは、実際に公開されているアニュアルレポートの例をご紹介します。
パナソニック
パナソニックホールディングス株式会社の「Annual Report 2022」の内容をご紹介します。
ESGの体制と取り組み
ESG は「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」のイニシャルで、中長期的な成長のために経営に必要とされている観点を指します。
パナソニックホールディングス株式会社のアニュアルレポートではESGについて、「取締役会議長メッセージ」、「社外取締役メッセージ」、「コーポレートガバナンス(体制と取り組み等)」、「人権の尊重への取り組み」を14ページに渡り説明をしています。
中長期の経営戦略
パナソニックホールディングス株式会社のアニュアルレポートでは中長期戦略について、「価値創造プロセス」、「報告セグメント別 中長期戦略の概要」、「オペレーション力徹底強化の取り組み」を8ページに渡り紹介、説明しています。