コアコンピタンスとは
コアコンピタンスは1990年、ロンドンビジネススクール教授(国際経営)であるゲイリー・ハメル氏と、ミシガン大学ビジネススクール教授(企業戦略・国際ビジネス)のC.K.プラハラード氏の論文によって発表された概念です。
企業の中核となる強み
単にコンピタンス(Competence)といった場合、「能力」「力量」「適正」といった意味になりますが、コアコンピタンス(Core Competence)といった場合、さらにこれらの核となるものを指します。
競合他社を圧倒する高レベルな能力
またその能力は競合他社を圧倒する高レベルなものでなければなりません。
競合他社が真似のできない独自の能力
さらに最先端の在庫管理システムを構築している、業界最大の店舗網など、いずれも競合他社が真似のできない独自の能力である必要があります。
コアコンピタンスとなる条件
コアコンピタンスは主にビジネスシーンで用いられる用語です。また企業の経営においてその活動がコアコンピタンスであるとされるにはいくつかの条件があります。
顧客に利益をもたらす
他社より優れた能力や強みであっても、顧客にとって利益がないのであればそれは企業にとって利益とはいえません。コアコンピタンスは高い開発力や技術力は、これを通じて他にはない機能や付加価値がある製品を提供することで、顧客の利益につなげていくことが必要です。
競合他社が真似できない
コアコンピタンスは競合他社が簡単に真似することができないことも大切です。特に多数の参入がある分野では、他社を寄せつけない圧倒的な能力であることが競争力の源泉となります。
複数の製品に応用できる
ひとつの製品にしか利用できない能力もコアコンピタンスとはいえません。これはビジネスにおいて応用できないものは変化に弱く競争力を持ちにくいからです。このためブランド力のある企業では、いくつの産業に参画してもビジネス展開ができ競争力を持っていることが少なくありません。
コアコンピタンスとケイパビリティの違い
コアコンピタンスには類似語としてケイパビリティがあります。両者はどちらも企業活動において用いられます。
どちらも企業の強みを示す
企業活動において、さまざまな事業活動を価値創造のための一連の流れとして捉える考え方としてバリュー・チェーンがあります。このなかでコアコンピタンスとケイパビリティはお互い企業の強みを指す単語として扱われます。
ケイパビリティは組織的能力
ただしケイパビリティに関してはバリューチェーンにおいてその全体に及ぶ組織的能力を意味します。このためケイパビリティは優れたビジネスプロセスに対して用いられます。
コアコンピタンスは特定の技術力
一方でコアコンピタンスはバリューチェーン上の特定の技術力です。つまり、企業内部の独自のスキルや技術そのものといえます。
コアコンピタンスとケイパビリティの関連性
このようにコアコンピタンスとケイパビリティは違いこそあるものの密接で相互補完的な関係性といえます。
コアコンピタンスはケイパビリティの集合体
なかでも組織能力であるケイパビリティは複数のコンピタンスから成り立ち、かつコンピタンスは形づくる要素です。このためコアコンピタンスはケイパビリティの集合体であるということができます。
企業の強みを異なる切り口で分析
仮にコアコンピタンスが「技術力」であるとき、ケイパビリティはそれを構成するマーケティング力や研究開発能力、熟練した技術者など、企業が持つ強みを異なる切り口で分析します。
コアコンピタンス経営とは
経営手法にはさまざまなものがありますが、コアコンピタンスを活かしたのが「コアコンピタンス経営」です。これは将来にわたって企業が生き残っていくために有効となりうるものです。
インサイド・アウト戦略
コアコンピタンス経営は基本的にインサイド・アウト戦略に基づいています。このインサイド・アウト戦略とは、内から外に向かって問題を解決する手法で、問題が生じた場合、自身の内面をどのように変えることで事態の改善につながるかを主体的に考えることです。このため企業の内部環境である「強み」を重視するコアコンピタンスやケイパビリティはまさにインサイド・アウト戦略であるというこということができます。
1990年代から主流に
時代の変遷により、プロダクト・ライフサイクルの短期化をはじめとして経営環境が不確実になりました。これにより1990年代に主流となったのがインサイド・アウト戦略です。
従来はアウトサイド・インが主流
インサイド・アウト戦略に対し、外部環境を変えることで課題の解決を図ることをアウトサイド・イン戦略といいますが、かつてはこちらが経営戦略の基本でした。アウトサイド・イン戦略では外部環境である「機会」や「脅威」に重点を置き、自社のポジショニングを定めます。
インサイド・アウトとアウトサイド・インの違い
インサイド・アウト戦略とアウトサイド・イン戦略はそれぞれの特徴をみてもわかるように、対局となる考え方です。ただし、双方の理論はどちらが優れているというものではなく、企業の「強み」を見極める際の視点の違いといえます。
内部環境の強みを活かすインサイド・アウト
しかしながら、時代とともに経営環境が激化すると、外部環境が安定していることが前提となるアウトサイド・イン戦略は限界が指摘されました。すると台頭したのがそれぞれの企業の内部環境である強みを活かすインサイド・アウト戦略に基づく、コアコンピタンスやケイパビリティです。
リソース・ベースド・ビュー
これらコアコンピタンスやケイパビリティはリソースベースドビュー(RBV)といわれます。リソースベースドビューとはまさに企業の競争優位の源泉を内部資源(経営資源)に求める戦略理論です。
コアコンピタンス経営の重要性
内部環境である企業の強みに着目したインサイド・アウト戦略は特定のモノを指すものではなく、需要動向の変化といった市場環境にも左右されにくいことから、コアコンピタンス経営の重要性は今後も高まっていくと考えられます。
内部環境の強みを活かすことのメリット
では内部環境の強みを活かすコアコンピタンス経営特有のメリットとは具体的にどのようなものなのでしょうか。
市場動向に左右されにくい
市場環境にも左右されにくいコアコンピタンス経営は、ニーズに応じ、独自に技術の使い方やシステムの適用の仕方を柔軟に変化させることができます。このため仮に急激な変化が訪れたとしても他の経営手法よりも極端な業績の低下が起こる可能性は低いといえます。
競争に強い
ビジネスを展開していれば、そこには必ず競合他社が現れます。しかしながらきちんとコアコンピタンスが確立されていれば競合他社に対し独自の強みで敗北することはありません。
外部環境も考慮する
とはいえ、外部環境の変化が激しい現代において、内部の「強み」のみに頼るのでは市場環境に対応できない可能性もあります。
短期化するビジネスのライフサイクル
その要因のひとつとして、革新的なITの進化などによるビジネスのライフサイクルの短期化が挙げられます。
外部環境を意識してコアコンピタンスを育成
このため、インサイド・アウト戦略に基づくコアコンピタンス経営にあっても、インサイド・アウト戦略のように外部環境も考慮しながら、コアコンピタンスを育成し続けていく必要があるといえます。
コアコンピタンスを見極める手順
では、的確にコアコンピタンスを見極めるにはどのようにすればよいのでしょう。
プラハラードらが提唱する5つの視点
C.K. プラハラードらの著書によれば、これには5つの視点があるとされます。
模倣可能性(Imitability)
自社の強みであっても他社にとって模倣が容易であれば優位性を見出すことは難しくなってしまいます。そこで他社が模倣できる可能性があるのかを見極めるのが模倣可能性です。
移動可能性(Transferability)
移動可能性は特定の技術が商品や分野に限定されず応用可能なことで、汎用性や応用性を指します。こうしたさまざまな製品や分野に応用できる技術は自社の競争優位性を多角的に押し上げることができます。
代替可能性(Substitutability)
他社が容易に代替できてしまうような商品やサービスはコアコンピタンスとしてふさわしくありません。このため、これらが置き換えられるかどうかの視点を代替可能性といいます。
希少性(Scarcity)
ほかに類似の特徴や特性を持つ商品やサービスが存在しなければ、それは市場で唯一無二と認知されます。これが希少性で、コアコンピタンスとして自社の競争優位性に大きく貢献します。
耐久性(Durability)
長期にわたり他社の追随を許すことなく、競争優位性を維持できることもコアコンピタンスにおいては重要です。そこで日々新たな術が生み出されている今日でも長期にわたって競争優位性を維持できることが耐久性です。たとえ優れた技術でも、短期間でその強みが失われてしまうのではコアコンピタンスではありません。
コアコンピタンスを評価する3ステップ
見極める視点が明確になったら、コアコンピタンスは次にこれを評価する必要があります。
強みの抽出
評価においてまずおこなうのは自社の強みを抽出することです。
ブレーンストーミング
抽出方法のひとつとしては、まずブレーンストーミングが挙げられます。これは自由な発想でアイデアを出し合うもので、多角的な視点で分析が可能です。ただし分析の際には技術力や能力だけにフォーカスするのではなく、組織文化なども含めたあらゆる視点でおこないます。
SWOT分析
強みの抽出にはSWOT分析と呼ばれるマーケティング分析の手法もあります。この手法であれば自社の内部環境と外部環境双方を分析し、戦略立案をおこなうことも可能です。
強みの評価
抽出した強みはコアコンピタンスに当てはまるかを評価します。
抽出した強みをリスト化する
評価のためには抽出した強みを以下のような条件もと、リスト化します
・顧客が利益や価値を見出せるか
・競合他社に模倣されることはないか
・複数の商品やサービスに応用できるか
リスト化した強みを相対評価する
リスト化された強みはこれを相対評価します。このとき、適正な相対評価をおこなうためには、強みを点数化しなければなりません。また定量化が難しい場合には基準を100として評価する方法などもあります。
強みの絞り込み
リスト化により、評価された強みはコアコンピタンスとなる可能性が高いものを絞り込みます。このとき基準となるのはC.K. プラハラードらの著書による5つの視点です。また絞り込まれた独自の強みは自社のコアコンピタンスとしてひとつのフレーズにまとめますが、以下のような視点でおこなうのが一般的です。
替えの効かない強み
コアコンピタンスは将来に渡り自社の経営を支えるものです。このため絞り込みの際には単純に点数が高いものだけがコアコンピタンスとならないよう留意します。
長期にわたり強みを活かせる
コアコンピタンスは将来にわたって維持できるのか、あるいは成長させることができるか、さらには本当にそうしたいかを精査しなければなりません。また、これらは最終的には経営判断によるものとなります。したがって本質的にふさわしいと判断されたもののみが、コアコンピタンスとして認識されなければなりません。