購買とは?仕事内容や調達との違い、必要な能力も解説

連合による2023春闘の結果は平均賃上げ率が3.69%になり、1980年以降で最大になる可能性が高いと言います。
サラリーパーソンにとっては好ましいことですが、他方で消費者物価指数から変動の大きい食品とエネルギー価格を除いた2023年のコアインフレ率は7.1%で、2022年の5.1%を上回っています。しかし、各家庭の支出額に直接影響がでるのはやはり食品や家庭用品です。(株)帝国データバンクが発表した「食品主要195社」価格改定動向調査では「食品に関しては値上げが前年を超え、7月は3566品目が値上げ予定、パンが一斉値上げ 」となっています。

しかも、「電気代や人件費、物流費の負担が徐々に増しており、値上げペースは引き続き高水準で推移している。一方で、足元では物価上昇に比べて家計の食費支出は勢いを欠き、値上げ後に店頭での売れ行きが伸び悩む食品も出始めるなど、値上げに対する消費者マインドは寛容さを失いつつある。」と述べております。

消費者が食品まで買い控えするようになると、これからの日本経済は先行き濃霧の状態になるのかと不安に襲われていた時に遭遇したのが、タレントバズを運営する高功代表取締役の寄稿でした。 

『【購買・調達職の中途採用】コスト削減や業務効率化を担う組織を立ち上げる動きで求人が増加傾向』のテーマで購買・調達職がコスト削減でいかに重要な役割を果たすべきかを述べています。

また、日本能率協会が2017年10月に実施した「調達部門実態調査」では100 人未満から5000 人以上の企業で、購買・調達部門の人員は 10~50 名の組織が 44%と多数を占めていたと言います。
これは各部門ごとに購買や調達業務を行っていることに大きな原因があるようですが、コスト削減に真剣に取り組むべき喫緊の課題となっています。

今年は社員採用業務はほぼ完了していますが、購買・調達職を希望していて来年に応募してみたいとお考えでしたら「購買とはどのようなことを言うのか、その仕事内容や調達との違い、必要な能力も解説しますので取り組みに活用してください。企業側が求めるスキルと現担当職が有するスキルの間にギャップのあることが課題とされています。なお、製造業関係であれば、現在も購買・調達職の募集をしているようですので、チャレンジしてみてください。

購買とは

単純に「購買とは」を日本国語大辞典で引くと「必要なものを購入すること」というアンサーが出てきます。

必要なものを購入すること

必要なものを購入することは分かりますので「購買・調達職」の意味合いで調べてみますと「原材料や部品の購入」「設備や備品の購入」「加工や配送などのサービス」と具体的な内容が出てきました。

原材料や部品

原材料は加工しなければ使えない鉄材や樹脂材、部品はねじやナットなどそのまま使える製品で、自社製品を作る場合はいずれも外部業者から仕入れる必要があります。

設備や備品

設備は複合的で、それぞれが設備の一部として機能を果たしているもの、これに対して備品は、それ自体で固有の機能を果たしていて、独立して使用するものです。これらも購買・調達の対象になります。

加工や配送などのサービス

加工や配送などのサービスも購買・調達の対象になります。購買・調達する「原材料や部品」「設備や備品」などが決定すれば最終段階の物流プロセスに入ります。ここでのサービス提供者の選択も重要です。加工が必要な購買・調達品があれば中途で加工も行ってもらう必要があります。これらの業務の効率化を図って単価をできるだけ下げる努力が求められます。 

購買と調達の違い

「購買と調達」は内容が似ていることもあって時々間違えて使われることがあります。「必要なものを用意する点では同じ」ためかもしれません。

必要なものを用意する点では同じ

一般的に言われている購買と調達は次のように言われることが多いです。

購買:金銭を出して購入すること

調達:必要なものを入手すること

調達の場合は入手手段に触れていませんが、とにかく「必要なものを用意する」点では

同じです。これをもう少し業務関連で整理すると次のようになります。

購買:日常業務などで使われる標準品・市販品などを購入する業務

調達:事業戦略に基づいて交渉したり選定したりした供給者(サプライヤー)のものを購入する業務。

となります。

調達はリースも含む

「調達する場合はリースも含みます。」例えば、会社を設立する場合、設備投資で莫大な資金を用意する必要があります。リース契約を使えばリース会社の方で必要な設備類・機器類・備品類等を準備してくれますので、余計な苦労をしなくて済みます。事業戦略展開では、全体として会社機能が果たされていればリースでも問題ありませんので、調達にはリースも含まれます。ただ、リースには「ファイナンスリース」や「オペレイティングリース」等各種のタイプがありますので検討してベストなリース契約を結ぶようにします。

購買の仕事内容とは

ここでは「購買の仕事内容」について述べます。

購買の仕事内容は大別して「見積業務」「発注業務」「納入業務」の3つになります。

見積

見積業務を時系列で述べますと「見積依頼書の作成」「見積要求仕様と見積回答の整合性」「見積結果の比較」「価格と納期の交渉」「支払い方法の確認」「秘密保持契約について」の6項目になります。

見積依頼書の作成

見積依頼をしないと業務が進展しませんので、「見積依頼書の作成」が最初の業務になります。作成に当たってはあらかじめ関係各部門に依頼して要求仕様を提出してもらい、それを基に作成します。見積依頼書ができたら漏れがないか等を確認してから、複数の発注候補社あてに送付します。

見積要求仕様と見積回答の整合性

各社から見積書が送付されてきたら、こちらが見積要求した事項を全て満たしているか、「見積要求仕様」と「見積回答の整合性」を確認します。特に問題がなければ各社の見積結果の比較を行います。ただ、見積書の中には、いろいろ条件を記載していることがありますので、注意する必要があります。 

見積結果の比較

見積結果の比較により最適と思われる1社を選定するか、ほぼ同じような見積であれば、事情を話して再度相見積を取ると良いでしょう。その上で価格と納期の交渉に入ります。交渉に入る前に見積依頼をする時に出された要求仕様の各部門とは連絡を取って、選定までの経過を報告することをお勧めします。

価格と納期の交渉

価格の交渉では、事前に購買物の市場価格や原価積算を調べておくと納入価格の引き下げ交渉に有利です。また、納期も価格に影響しますので、絶対に守ってもらいたい納期日を伝えることが必要です。

支払い方法の確認

企業間の取引では、請求書をもらってから「銀行振込をする」「口座振替をする」「クレジットカード決済を利用」するのが一般的ですが、他の方法もありますので確認する必要があります。

秘密保持契約について

1社を選択して契約書の作成に入る段階で検討する必要があるのは「秘密保持契約」をするかどうかの検討です。通常「NDA(Non Disclosure Agreement)秘密保持契約」と呼ばれていますが、例えば自社が開発した製品やサービスでその技術を他社に知られたくないあるいは保有する顧客情報などを他社が不正に利用することを防止するために結ぶ契約です。各社とも自社発展のために激しい「つばぜり合い」をしておりますので、契約を締結するまえに相手方に提案して結んでおいたほうが安心できると思います。契約書の「ひな型」はネット上に各種提供されています。

発注

発注するに当たっては契約後にゴタゴタが発生しないように「引き渡しの定義を定めること」「代金支払い方法の決定をすること」「所有権・知的財産権の所在の確認をすること」「検収方法の確認をすること」「紛争発生時の処理方法の確認をすること」「契約有効期間の確認をすること」など多岐にわたる確認事項を実行してスムーズな発注に入れるよう努めます。

引き渡しの定義

引き渡しは民法上の概念で例えば建物の賃貸借契約を結ぶと契約に基づき引き渡しをする必要があります。「●月●日に建物のキイをお渡しします。」と記載してあればこの日に建物の占有権が所有者から借主に移転することを意味します。このように購買においても契約書に基づき依頼した製品やサービスの引き渡し方法を決めておくようにします。

代金支払い方法の決定

代金支払い方法は先述しましたが、「請求書受理後〇〇日以内に『銀行振込』・『口座振替』・『クレジットカード払い』をいたします」と代金支払い方法を決定しておく必要があります。

所有権・知的財産権の所在の確認

自社製品やサービスを他社などに委託製作してもらった時は、それらの所有権や知的財産権の所在を確認する必要があります。所有権はその所有者以外は処分権限がありませんので、あらかじめ了承が得られているのであれば「所有権譲渡」等の手続きをする必要があります。また、知的財産権は「特許権、実用新案権、育成者権、意匠権、著作権、商標権その他の知的財産に関して法令により定められた権利又は法律上保護される利益に係る権利をいう」と規定されていますので、この規定から知的財産権を侵害しているかどうかの判断をすることができます。

検収方法の確認

「検収」は、発注した製品やサービスが発注通りに納品されているか検査することですので、「発注した商品で間違いないか、種類や数量、品質などに問題がないかをチェックし発注内容と納品内容に相違がないことを確認するために行われます。事前にこのような検収を行うことを伝え了解を取るようにします。  

紛争発生時の処理方法の確認

購買業務の委託契約で紛争になるような事例が発生した時にその処理方法をどうするか確認をしておく必要があります。当事者間の話し合いで解決することが困難な時は、裁判所での解決が一般的です。裁判官が法廷で両者の言い分を聞き、証拠調べ等を行い、判決を言い渡します。一番公平な処理方法と思われますので、契約書の中に盛り込むようにします。

契約有効期間の確認

契約有効期間の確認は1回限りの契約であれば「納品日等義務の履行日」が定められていればその日になりますので、特に確認する必要はありませんが、引き続き契約を継続したい場合はその都度契約書で確認するのは手間がかかります。そのため、契約条文で有効期間の確認をします。例えば、「本契約の有効期間は令和○年○月○日から2年とする。ただし、期間満了日の2カ月前までに、いずれの当事者からなんらの意思表示がないときは引き続き同じ条件で2年間更新されるものとし、その後も同様とする。」というような条文を設けておけば、手間が省けます。

納入

購買業務で委託した製品やサービスが完成すると、「納入」の局面になります。納入では「納入管理」「納入品の確認」「検収」「支払い手続き」を実行します。

納入管理

「納入管理」では、納期を守ってもらうことは重要ですので、発注先から工程表を提出してもらいます。工程表はスケージュールと責任者名を記載してもらいます。購買担当者はこの工程表に基づき納期が順守されているか常に確認するようにします。

納入品の確認

定められた期限までに納入品が届くと思いますので、納入品の確認を行います。納入された自社委託の製品やサービスが発注仕様書に沿ったものであることを確認します。

検収

納入品の確認を行い、合格すれば「検収」が終了して、支払い手続きに入ります。

支払い手続き

購入した物品等の支払いは購入した部署でなく経理部になりますので、購入した部署から経理部に対して「支払い依頼書」を作成して経理部に送付します。それを受けて支払いは経理部が対応することになります。

購買の仕事に必要な能力

ここからは、「購買の仕事に必要な能力」について述べます。

経済・社会情勢の知識

第一に要求されるのは「経済・社会情勢の知識」です。「海外の情報に精通すること」

「情報収集能力があること」「情報分析能力があること」に長けていることが必要です。

海外の情報に精通すること

購買の仕事を実施する時は多くの場合日本は海外から原材料を購入する必要があります。現在はウクライナ問題で食料など物資の流通が滞っていることをメディアが報じておりますが、このような情報をいち早くキャッチし、海外情報に精通することで代替策を講じることができるかもしれません。

情報収集能力

「情報収集能力」を向上させるには経験が必要と思われているかもしれませんが、日常活動の中で「網の目」のように広げていくことも可能です。例えば「USA TODAY」や「New York Times」は読者登録をすると簡易版を毎日配信してくれます。米国や世界で何が起きているのか分かります。詳しく知りたいのであれば、有料版もあります。また、卑近な例では、自社製品の顧客や取引先に働きかけるようにすれば、思わぬ有益情報を得られるかもしれません。「座して待つこと」なく「常にアクティブに」が情報収集能力を向上させてくれます。

情報分析能力

現在企業が求めている「情報分析能力」は発注実績や原価データの分析能力といいます。企業の各部門が別々に購買活動をしていますので非効率なことに気が付いた企業は、ステークホルダーを巻き込むリーダーシップや統率力がある人材を求めています。

コミュニケーション能力

第二に求められるのは「コミュニケーション能力」です。コミュニケーション能力では

「社内外の人々との連絡を行うこと」「良好な関係を保つこと」「関係調整能力を発揮すること」などがあげられます。

社内外の人々との連絡

購買を実践するには「社内外の人々との連絡」が必要になります。コミュニケーション能力を雄弁家で説得能力がある人と思っている人が多いと思いますが、必ずしもそうではありません。コミュニケーションは双方向のもので「人と人の間で情報を共有したり意志の疎通を図るもの」です。第一義的には「良好な関係を保つため」に使われます。

良好な関係を保つ

購買業務を円滑に進めるにはステークホルダー(利害関係者)との良好な関係を保つ必要があります。「相手方の言うことを途中で遮らずに真剣な態度で最後まで聞き、それから自分の考えを伝える」ことで好印象を与え、良好な関係を保つことができます。

関係調整能力

また、時には調整が必要な事項が発生することもあります。その時は、真剣な話し合いを続け、この案なら納得してもらえる思った時は、担当者として「このようにしたらどうでしょうか」と「関係調整能力」を発揮することで「良好な関係を続けることができると思います。

交渉力

第三に求められる能力は「交渉力」です。交渉力も基本的にはコミュニケーション力と同じスタンスになります。交渉力があると「購買で得る必要がある製品やサービスを、できるだけ安価でゲットすることができる」と言われております。

できるだけ安価に購入

交渉力がある人が目的物を安価で購入できるのは、その担当者が「相手の立場で考えることができるから」と言われております。交渉ですから事前に相手方の様々な情報を入手していますが、それをもって一方的に自分の有利な条件を押し付けるのではなく、相手の言い分もジックリ聞いてとことん話し合いを行い、その結果、できるだけ安価で購入できれば、ウィン・ウィンの関係で「取引先との長期的な関係を築くことができます。

取引先との長期的な関係

取引先との長期的な関係が築ければ、担当者を超えて会社間の組織的な良好関係に発展します。

信頼関係を保つ交渉

そうなれば、常に信頼関係を保つ交渉を行うことができるようになります。


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