リテンションとは?意味やメリット、具体的な方法と例も解説

メディアのニュースを見ますと来年(令和6年度)の就職先が既に内定している大学生は7割を超えているといいます。コロナ禍も下火になって新型コロナウイルス感染症が令和5年5月8日に5類感染症に位置づけられましたので、各企業は先を見越して有能な人材確保に注力しているためと思われます。

しかし、厚生労働省が毎年実施している新規学卒就職者の令和2年度における離職率は例年より低下したというものの就職後3年以内の離職率が新規高卒就職者36.9%、新規大卒就職者が31.2%となっております。

現在は高卒者・大卒者ともに「売り手市場」と言われますので、どの企業に就職するか選択肢が広がっていますが、それでもせっかく就職したのに3年間で3割以上の新入社員がやめてしまうことは、研修等で早く一人前になってもらいたいと育成に力を注いだ企業にとっては大きな損失になります。

このような事態をできるだけ避けるため、企業側は原因分析をしたり新たな方策を考案したりするようになっております。とりわけ人事部の中堅職員がその役割を担うことが多くなっているようですので、離職を防ぐ方策の1つとして「リテンション」を取り上げて、その意味やメリット、具体的な方法と例も解説しますので参考にしてください。  

リテンションとは

「リテンション」は英語を日本語のカタカナ読みで表現したものですが、ビジネスシーンにおけるリテンションとマーケティングにおけるリテンションの2つに分けて使われています。

リテンションの意味

リテンションの英語は「retention」です。その意味などを次に述べます。

「retention」という英単語が語源

この「retention」という英単語が語源になっていますが、Web専用辞書の英辞郎で調べると「保有・保存・保持・保持率・保持力《名-2》想起力・記憶力《名-3》保持されているもの・記憶」など名詞として多数の日本語訳が出てきますが、ここでは「社員が退社しようと思っていることを思いとどまらせる方策」と捉えていますので「維持・保持」という意味が適訳ではないか思われます。

維持・保持という意味を持つ

冒頭で述べました新入社員の3年以内の離職率の高さを低下させるために、各社とも「雇用の維持・保持」対策に心を砕いています。特に近年はこれまでの主流だった終身雇用制が崩れて、成果主義を取り入れる企業が増える一方で、若い人の価値観や生活様式の多様化なども進んでいますので、企業側は新入社員との雇用関係を維持することに苦労しており、その戦略や方策を検討しているのが現状です。リテンションをその一環として取り入れている企業が増加しており、成功している企業もあります。

ビジネスにおけるリテンション

ビジネスシーンにおけるリテンションは、「人材流出の防止」と「優秀な社員の引き留め」を目的として実施されています。

人材流出の防止

新入社員が3年以内に離職する割合が3割を超えていることは、企業にとっては大変な損失になります。就職して3年経過すればその企業のシステムに精通して将来を担う人材として活躍が期待できます。そのため、各企業とも新入社員の離職率低下を企業戦略の1つに掲げ取り組んでいます。

優秀な社員の引き止め

また、中堅社員でもキャリアアップを目指して離職を考えている人もいます。この場合は、新入社員以上の痛手を被る可能性があります。その社員を中心として形成されたステークホルダー等との関係の再構築、その社員が意図すれば、自社企業機密が漏洩される可能性なども生じます。これらの事態を未然に防ぐために有効なリテンション策を講じることが求められています。 

マーケティングにおけるリテンション

「マーケティングにおけるリテンション」は、「既存顧客の維持」を目指すことを第一に考え、「新規顧客とのコスト面を比較」しながら企業運営拡大のためのリテンションを計画すべきです。

既存顧客の維持

自社製品やサービスの顧客獲得のために各企業は熾烈な競争をしています。自社製品やサービスの先進性などを大々的にPRしてやっとのおもいで顧客を獲得したはずです。その既存顧客を維持することは最も重視する必要があります。

例えば「SNSを利用」したり、「●●社情報」を送付したり「●●社カスタマー準社員制度」などを設けてどんどん運営に関しての意見をもらい、優秀なアイディア提案者を表彰するなど、既存顧客をつなぎ止めするあらゆるリテンション策を考案し実行すべきです。

新規顧客とのコスト面を比較

「新規顧客も獲得する必要がある」という発想が生じたら、新規顧客を獲得するため過去にどれだけ苦労したか思い浮かべてください。その時にかかったコストはいくらだったでしょうか?企業ですから新規顧客を増やしていくことは必要です。既存の顧客を企業全体組織の一員として取り込み、経営の在り方についても意見交換することで費用をかけずに新規顧客を増やしていく方策がでてくると思います。とにかく既存顧客とのコミュニケーションを切らさないことです。既存顧客を大切にしながら会社発展の方策を問えば、新規顧客拡大策のアイディアを提案してくれる可能性があります。また、商品の開発で特許が取れれば、第2次新規顧客獲得プランを作り実行することで、自社が飛躍的に発展する姿を見ることができるかもしれません。

リテンションのメリット

リテンションを実施するメリットとしては「社員の離職率の低下を図ることができる」「社員のスキルアップを図ることができる」「社内ノウハウの維持ができる」「長期的な企業戦略になり得る」などをあげることができます。

社員の離職率の低下

「社員の離職率の低下」がもたらすメリットとしては、「採用コストの削減」「育成コストの削減」があげられます。

採用コストの削減

社員の離職率が低下すると採用コストとしてかかっていた離職や採用に関するコストや離職に伴う手続き関係のコスト、人材補充のための人材派遣会社に支払う手数料などが不要となりますので、採用コストを削減することができます。

育成コストの削減

社員の離職が続くとそのたびに研修などを通じて人材育成をしていたことも必要がなくなり育成コストの削減にも貢献します。

社員のスキルアップ

「社員のスキルアップ」関係では「経験を積める」「信頼関係が構築できる」ことなどが「社員のスキルアップ」につながります。

経験を積める

「7・2・1の法則」をご存じと思いますが、ビジネスパーソンが成長するためには7割を「仕事上の経験」、2割を「上司や先輩からの助言やフィードバック」、残りの1割を「研修などのトレーニング」から学ぶと言われています。リテンションで離職をおもいとどまれば、十分な経験を積むことが可能になります。

信頼関係の構築

信頼関係は時間をかけて相手方との関係性を積み上げていくことで構築されます。離職者が少なければこの条件を十分満たすことができます。

社内ノウハウの維持

「社内ノウハウの維持」には、「対外流出を防ぐこと」及び「ネットワークの維持をすること」が求められます。

社外流出を防ぐ

自社が有する社内ノウハウが優れていればいるほど、それを真似したり盗んだりしようとする企業が後を絶たない状況にあります。それは国内企業のみならず海外の企業も虎視眈々と狙っています。日本発の技術があたかも自国が開発したように装って製品化し、国際的に売り出している例が多々あります。このような実態を受けて経産省が平成15年3月に「技術流出防止の指針」を発表しています。その一部をご紹介します。

●技術流出防止基本方針の策定をすること 

●技術流出防止管理マニュアルの策定をすること

●技術流出防止のための社内組織体制の整備をすること 

●事業活動を行う上での具体的対策の強化を図ること

●関連情報の収集・提供及び社内教育の実施をすること

等々の対策をするよう呼び掛けていますので、参考にしてください。 

ネットワークの維持

「ネットワークを維持すること」が「社内ノウハウ」の維持につながります。

社内ノウハウはそれぞれの社員が持つ「知識・技術・経験」等が集合化されたものです。それを社員全員が共有しネットワークとして維持することで「社内ノウハウ」は受け継がれていきます。

長期的な企業戦略

長期的な企業戦略を立てて実行することで、社員の「適材適所の配置が可能」になり「経営陣との信頼関係も向上」します。

適材適所が可能

長期的な企業戦略は5年あるいは10年先のその企業のあるべき姿を想定して策定しますので、全社的な取り組みが必要です。そのため、経営者層も一般社員と十分な意見交換をすることが求められます。一般社員が最初に課題に取り上げたいことは、自分を含めて適材適所の人員配置がされているかということです。与えられた職務が自分の希望と異なると「インセンティブ(行動を促す動機・要因)」も低下します。意見交換で上層部がそのことを把握すれば、希望を優先した人事配置案が検討され、「適材適所」が実現する可能性が高くなります。 

経営陣との信頼関係も向上

一般社員にとって別世界のように思われていた経営陣が率先して社員と話し合いを行い、改善策を戦略に組み入れるようになれば、両者の信頼関係は向上し企業全体のインセンティブも上昇します。企業の発展に結びつきます。

リテンションの具体的な方法

ここでは、リテンションのやり方について具体的な方法を述べます。

リテンションは大別すると「金銭的報酬」と「非金銭的報酬」の2つになります。

金銭的報酬

「金銭的報酬」には、「昇給や賞与」「福利厚生」「インセンティブ」「ストックオプション」があげられます。

昇給や賞与

入社したい企業を選定する時、新入社員であれば初任給や賞与はいくらもらえるのか他社と比較しながら決めることが多いと思います。また、経験者の場合でも離職する時は昇給や賞与が現在の会社を上回ることが絶対条件と考えている方が多いと思います。金銭的報酬はリテンション実施の大きな手段になります。

福利厚生

福利厚生を充実させることも社員の離職を防ぐ有効な手段です。社員がマンネリに陥り離職を考えているときに「疲れているようだから有給休暇を取って、わが社の〇〇荘で温泉に浸かりながらゴルフを楽しんできたら?」などと上司や同僚から言われれば、会社の福利厚生が充実していることを悟り、離職を防ぐことができるかもしれません。

インセンティブ

社員のモチベーション維持に即効性があると言われるインセンティブ制度は、社員が業務で結果を残すと給料や賞与にプラスしてその都度支給されるものです。従って社員は「インセンティブ」という意味通り良い業務結果をもたらすため張り切って業務に取り組みます。

ストックオプション

「ストックオプション」は米国で始まったものですが、日本では1997年の商法改正で認められるようになりました。株式会社の取締役や社員が権利行使価格と呼ばれるあらかじめ定められた価格で自社株を購入できる資格を与えられる制度です。将来、自社株が上昇した時に、この資格を付与された取締役や社員はその権利行使をします。つまり、あらかじめ定められた価格で自社株を購入し、株価が上昇した時に売却します。権利行使価格と株価上昇分の価格との差が、利益として得られるという報酬制度です。

非金銭的報酬

非金銭的報酬は上述したような金銭のやり取りを行わない報酬制度です。具体的には「各種休業制度」「多様な働き方の提供」「キャリア形成のサポート」などがあげられます。

各種休業制度

少子・高齢社会が現実となった現在、自分が体調不良や突発的な出来事で仕事を休むだけでなく、妻の妊娠・出産、父母等の病気や老齢に伴う看護や介護などで仕事を休まざるを得ないシーンが出てきます。このような時に法律で定める休業制度が守られているかどうかを確認してみてください。

法律で定められている「休業」の種類(要件、対象者)は次の通りです。

• 業務上の負傷・疾病の療養のための休業

• 産前産後の休業

• 使用者の責に帰すべき事由による休業

• 育児休業

• 介護休業

これらの規程が確認できれば社員を大切にしている「働きやすい職場」と言うことができます。

多様な働き方の提供

会社が「フレックスタイム制」や「リモートワーク」を認めていれば、「多様な働き方の提供」をしていると言えます。妊娠・産休・看護・介護も適用を受けますが、長期になる場合は話し合いが必要と思われます。

キャリア形成のサポート

厚生労働省が委託事業で実施している「キャリア形成・学び直し支援センター」をご存じでしょうか?「キャリアアップ」を図ろうとするとどうしても離職を考えますが、この支援センターは「個人から団体」までキャリア形成のサポートをしてくれます。企業の場合は企業ぐるみのキャリア形成サポートプログラムがありますので離職を考える必要がありません。ご利用されることをお勧めします。(参考:https://carigaku.mhlw.go.jp/)

非金銭的報酬の例

上述した非金銭的報酬のほか、離職を防ぐには次のような環境の整備を図ることも大切です。

環境の整備

職場を「開かれた雰囲気」にすることや「自分の意見を主張しやすい」雰囲気にすることです。

開かれた雰囲気

開かれた雰囲気は「オープンな雰囲気」とも言いますが、一人で情報を抱え込まないで、「良いニュース」「悪いニュース」を全員で共有する職場にすることです。そうすることによって職場全員の一体感が生まれます。

自分の意見を主張しやすい

ブレインストーミングを経験していると分かりますが、業務に関するどのような意見にも耳を傾けるようにすることです。自分の意見と異なると「それを実施することは無理だよ」などと否定しがちですが、とにかく意見がある人はどんどん出してもらうようにします。その雰囲気に慣れてくると会議が楽しくなり「自分の意見が主張しやすくなります。

ワークライフバランス

「ワークライフバランス」という言葉を最近聞くことが多くなっていますが、ワークライフバランスは「仕事とプライベートを調和させる」という考え方で2007年に内閣府が「自身のニーズに合わせて多様な働き方・生き方を選べるワークライフバランス社会の実現に向けて、国や地方公共団体、企業、働く人々が一体となって取り組む」という方針を打ち出しています。

プライベートとの両立

日本人は「仕事中心人間」と言われ世界的にも有名ですが、政府主導で「働き方改革」が提唱されてから、「仕事とプライベートを両立させよう」という社会的風潮が出てきて、前述の内閣府の宣言ともいうべき「ワークライフバランス」が脚光を浴びています。いずれにしても、「仕事とプライベートの両立」は、日本においては画期的なことで大歓迎です。両立させることにより離職率の低下を期待できます。

育児・介護のサポート

両立させるに当たっては、「老老介護」や「ヤングケアラー」の問題を直視して、「育児・介護のサポート」を社会全体で担っていく必要があります。社員が育児・介護問題で離職しないようにサポートすることを取り入れている企業も出始めています。

スキルアップ

リテンションにより離職率を低下させるには、社員の「スキルアップ」も必要です。多くの新入社員は自分の希望に沿った会社を選択して入社を勝ち取ったと思われますので、当分の間はその会社でしっかり修行をしようと思っているはずです。また、AIの進歩などで自分の将来に不安を感じて、今のうちに自分のスキルアップを図りたいと思っています。

講習や研修の受講

スキルアップを図る方法として「講習や研修の受講」がお勧めです。新入社員の定着率がアップしますので、その費用を負担してくれる会社も出始めています。

通学のサポート

また、近年は業務に関連する資格であれば、通学制の「資格取得コース」を受講するサポートをしてくれる会社もあります。受講生にとってはスキルの向上を図ることができ、会社にとっては優秀人材の定着が期待できます。

心理的安全性の提供

ある研究結果によりますと「心理的安全性」が組織の生産性向上に寄与するといいます。

従来は個人の能力や働き方が生産性に関係すると言われていましたので、生産性向上理論の大転換と言えます。この理論に基づき、最近は多くの企業が心理的安全性を高める取り組みを始めています。心理的安全性は協力的な雰囲気や体制を意味しますので「共感や安心」をもたらしてくれ、「相互理解」を促進させ「多様性への配慮」もしますので現代社会で最も欠けている部分を補完してくれる理論とも言えそうです。

共感・安心

他人の考えや意見を察し、喜怒哀楽などの感情に寄り添うスキルを「共感力」と言います。共感力が高い人の存在は安心感を与えてくれます。

相互理解

「お互いの考え、立場、価値観、発言の意図や目標などを理解し合う」ことが「相互理解」ですからそのスキルを磨けば離職相談で思いとどませる説得力が発揮できます。

多様性への配慮

「多様性への配慮」は最も重要な課題でありながら、日本では取り組みが最も遅れた部分だと思います。それでも「心理的安全性の提供」の中で取り上げることは東京スカイツリー内にイスラム教徒用の施設が設置された例を見ても率先して取り組むべき課題であると思います。


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