リスクアセスメントとは?必要性と手法、期待できる効果も解説

現代社会、特に工場や機械従事の分野において、事故や災害というリスクは常につきまといます。それに対する有効なアプローチとして、リスクアセスメントと呼ばれる手法があります。

本記事では、リスクアセスメントについての基本や手法、効果について解説します。

職場の危険性を特定し、効果的な対策を実施するために必要な情報を身に付けましょう。

リスクアセスメントとは

リスクアセスメントとは、企業や組織が直面する可能性のあるリスクを事前に評価し、それらのリスクが発生した場合の影響や損失を予測し、適切な対策を講じるプロセスです。

リスクアセスメントを元にリスク管理の基盤を築くことにより、効率性の向上、作業環境の安全性の確保、損失の最小化などを実現します。

リスクアセスメントの意味

リスクアセスメントは英語の「risk」+「assessment」、つまり訳としては「リスク評価/査定」となります。

まずはリスクアセスメントとは具体的にどのような意味なのかについて見ていきましょう。

職場の危険性の特定

リスクアセスメントとは、「危険性の特定」です。特に製造業のような、機械設備を重点的に使用するような職場では、意識しなければ把握できないようなリスク要素を労働災害が起こる前に早期発見しなければなりません。

リスクの対策と見積もり

リスクアセスメントに基づいて特定されたリスクに対して、適切な対策を講じます。

対策実施に必要なリソース・予算・時間などを見積り、リスク対策の優先順位を決定しなければなりません。

リスクアセスメントの歴史

リスクアセスメント自体、意外にもその歴史は古いものではなく、比較的近代に誕生しました。

1982年にECで導入

リスクアセスメントの起こりは、イギリスで1974年に制定されたHSWA(イギリス労働安全衛生法)です。

その後、1976年にイタリアで起きた化学プラントの爆発事件を受けて、EUの前身であるECで1982年に有害化学物質関連の重大事故の予防と被害拡大防止を目的として「セベソ指令」が導入されました。

日本では平成18年に努力義務化

イギリスの労働災害による死亡率減少を契機に、日本も平成18年(2006年)の「改正労働安全衛生法」において、以下の事業者に対する「リスクアセスメントの努力義務化」が導入されました。

  • 安全管理者を選任しなければならない業種
  • 化学物質等による労働者の危険又は健康障害を生ずるおそれがある事業場

イギリス式5ステップ方式

イギリスで採用されていたリスクアセスメントは以下の5ステップに分かれているものです。

  1. ハザード(危険源)の特定
  2. 危害範囲の見極め
  3. リスク評価
  4. 調査結果の記録と予防措置の実施
  5. リスクアセスメントの見直し・修正

リスクアセスメントの必要性

こうした歴史と意味を持つリスクアセスメントですが、そもそも、なぜこのような概念が必要になったのでしょうか。

従来の労働災害防止対策

それには、従来の労働災害防止対策では不十分な点があり、改善するための手段としてリスクアセスメントの必要性が見いだされたためです。

事後調査が基本

従来は、何らか事故が起きた際は、事後的に対処することが大半でした。

もちろん事故が発生した際は、原因追求と対策は事後調査ののちに行われることになっていました。

事前対策が不十分

しかし、対策されるのは以前災害が起きた場所や状況に限られ、いまだ事故が起きていない潜在的な災害というのは考慮されておらず、事故を未然に防ぐという体制が不十分でした。

労働災害防止に向けた動き

そのため、労働災害防止の重要性が認識され、企業や政府などが積極的に労働災害の予防に取り組み始めました。

あらかじめ危険性を把握

事前調査により、あらかじめ危険性を把握した上で適切な予防策を講じることで、労働者の安全を確保し、労働災害の発生を最小限に抑えられます。

職場ごとの的確な対策

また、リスクアセスメントは職場特有の危険性についても実施されるべきです。

異なる業種や作業環境では、異なるリスクが存在し、対策も多種多様です。職場ごとに適切な対策を講じることで、労働災害のリスクを最小限に抑えられるでしょう。

技術の進展による必要性

ことさら現代では、自動化やロボット技術の導入により、労働者が機械と共働する状況が増えています。

これに伴い、新たなリスクを正確に評価し、適切な対策を講じる手段が求められました。

多種多様な職種

現代のビジネス環境では、多種多様な職種が存在し、それぞれが異なるリスクに直面しています。

例えば、製造業、医療業界、建設業など、業種ごとに特有のリスクがあることは想像でき、それゆえ個別のニーズに応じたリスクアセスメントの実施が重要です。

使用する設備の多様化

例えばコンピュータ類や作業用機器など、多様化した設備は、それぞれ特定のリスクや誤作動の可能性を伴うことがあり、汎用的なリスク管理ではカバーしきれません。

こうした事情があるため、リスクアセスメントによって、自社で使用する設備の特性と潜在的なリスクを評価し、適切な安全対策を講じる必要があります。

リスクアセスメントの手法

リスクアセスメントの必要性を把握したところで、ここからは具体的な手法についてステップごとにわけて見ていきましょう。

危険源の特定

第一に、危険源の特定を行います。危険源とは、リスクを生み出す原因となる要因のことであり、鋭利な刃物、化学物質、高所作業などがその一例です。

危険源の特定によりリスクを明確化し、適切な対策を講じるための基礎情報を得られます。

機械・設備の危険性

中でも機械や設備は、労働環境における代表的な危険源です。これは、機械の不安全な設計や運転手順、保守の欠陥、適切な防護装置の欠如など様々な要素を持ちうるものです。

材料や環境などの有害性

使用される材料や環境要因による有害性も考えられます。直接的でなくとも、化学物質や放射線などの有害物質、騒音や振動などの環境要因が労働者の健康や安全に与える影響も考慮する必要があるでしょう。

リスクの見積もり

危険源が特定されたら、次のステップであるリスクの見積もりを行い、リスクの大きさを把握します。

重篤度の見積もり

重篤度は、事故や危険源が労働者や組織に与える影響の程度を示す指標です。

労働者の健康被害や会社の損失、生産停止、会社外に与える被害などの要素を勘案し、死亡の可能性があるような「極めて重大」なものから健康に大きな影響を与えない「軽微」なものまで、重篤度についての見積もりを行います。

発生可能性の見積もり

重篤度も重要ですが、そのリスクがどのくらいの割合で発生するのかも重要です。過去の事故データ、統計情報等を基に「極めて高い」から「ほとんどない」までの発生可能性を見積もります。

優先度の設定

それぞれ起こり得るリスクを見積もった次に行うのは、リスクの優先順位の設定です。

より重大なリスクや高い発生可能性を持つリスクは優先的に取り組むべきであり、これによってリスクの管理や対策の優先度を明確にできます。

見積もり結果に基づき設定

リスクが複数、場合によっては多数存在するケースもあるでしょう。

リスクの見積もりから得た結果を基に、「即座に対策が必要」から「対策の必要なし」まで優先順位を付け、どのリスクに対して重点的に対策を講じるべきかを判断します。

低減措置の検討

リスクを低減するための適切な措置や対策を検討します。

低減措置は、リスクの発生可能性、あるいはリスクの重篤度の軽減を目指します。具体的な低減措置には、作業手順の改善、設備の修理・交換、適切な防護装置の導入、従業員への教育・訓練の実施などがあります。

リスク対策の実施

リスクアセスメントにおいて優先度が高いと判断されたリスクに対して、実際に適切な対策を実施することが重要です。

合理的に対策を実施

リスク対策を実施する際には、合理的なアプローチを基にした対策が効果的であり、組織や労働者にとって現実的で実施可能なものであることが要求されます。

リスクの特性や重要性、リソースの制約も考慮した上で、現実に可能な範囲で行うのが最善です。

定期的に見直し

職場環境も日々変化しています。対策の結果、もしくは危険源側の変化により新たなリスクが発生する可能性があるため、一度だけでなく定期的な見直しを継続的に行う必要があるでしょう。

リスクアセスメントの効果

これらのリスクアセスメント手順により、どのような効果が期待できるでしょうか。

リスクの明確化

明確化されたリスクは組織内で共有され、適切な対策の計画やリスク管理の優先順位付けの活用や、効果的かつ効率的なリスク管理の実施に期待できます。

潜在的な危険性の把握

リスクアセスメントの元々の目的は、事後の危険源の対策だけでなく、潜在的な要因を発見することにありました。定期的にリスクアセスメントのプロセスを踏むことで、事前に潜在的な危険性の把握ができる確率が高まります。

事前に危険性の芽を摘む

事前に把握した潜在的な危険性に対する適切な措置の実施により、労働者の精神的・肉体的安全、そして企業側の経営の安全性と信頼性が維持できます。

認識の共有

会社全体で危険性に対する認識が共有されることも、リスクアセスメントが生み出す効果です。

職場全体でリスクを共有

職場全体でのリスク共有を通じて、防止対策の円滑な実施、より安全で健康的な労働環境の確保につながることが期待できます。

労働災害への意識向上

リスクの脅威が可視化されることにより、個々人の労働災害への意識向上、またそれによる適切な対策の実施や安全文化の醸成につながります。

見積もり結果の利用

リスクアセスメントの過程で行われる見積もり結果は、リスク管理において重要な情報源となります。

優先順位の決定

優先順位の決定は客観的見積もりに基づくもので、リスクの重篤度や発生確率・影響範囲・対策の実施可能性などを考慮して行い、限られたリソースを最も重要なリスクに集中して割り当てられます。

合理的な対策の実施

リスクアセスメントによる明確な基準に基づいた、合理的な対策の選択と実施は非常に有効です。優先度の高いリスク対策が完了した後は、中程度のリスクへの対処と、合理的かつ総合的な対策の実施が行えます。

危険性の理由を理解

リスクの本質的な要因やメカニズムを把握することで、より具体的で効果的な対策が策定されます。

決めごとを守りやすい

可視化されたリスクアセスメントの結果を基にした対策や手順は、認識の共有によって組織内での標準化や規範となりうるもので、全体の方向性や取り決めが順守されやすいという効果をもたらす場合があります。

経験の浅い作業者にも浸透

特に経験が浅く従事する業務がはらむリスクを把握していない作業者にも、リスクとなる根拠と危険性が客観的に理解でき浸透しやすいというのはリスクアセスメントのメリットです。

まとめ

リスクアセスメントは、設備の高度化などに伴う事故や災害の潜在リスクを評価するための手法です。

リスクアセスメントでは、潜在的なリスクを特定し、その可能性と影響度を評価します。これにより、リスクの重要度や優先順位を把握し、適切な対策を講じることができます。特に製造業などに従事する社員にとって、リスクアセスメントの知識を基礎から学ぶことは重要です。

リスクアセスメントの知識は組織の安全性と効率性の確保に貢献するだけでなく、法的規制への適合性や信頼性の向上にも役立ちます。自分の仕事にリスクアセスメントの知識を活かし、安全な作業現場を築くためのスキルを身に付けましょう。


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