「年金」と言う言葉を聞くと、ご存知と思いますが、金融庁が設置したワーキンググループが、2019年に「老後を現役時代並みに生活していくには年金以外に2000万円の資金が必要である」という報告書を作成し財務大臣に提出しようとしたところ、受け取りを拒否された事件がありました。
これは、ワーキンググループのメンバーが厚生労働省のデータを使って、「夫65歳以上、妻60歳以上の無職夫婦の収支は、収入月20万9,000円に対して、支出26万4,000円なので、毎月約5万5,000円の赤字となり、夫が95歳になる30年間で約2,000万円の不足になるというものでした。このような報告が公になると厚労省が作成・発表している年金支給のモデルケースに影響がでますのでいつの間にか収束してしまいましたが、「その通りかもしれない」という声も多数あったようです。
このような話を聞いて年金など必要としない人はどのくらいいるのか興味がわき、(株)野村総合研究所が2005年以降毎年推計している富裕層調査を見てみました。それによりますと、2021年の日本における「純金融資産保有額が1億円以上5億円未満の「富裕層」は139.5万世帯、5億円以上の「超富裕層」が9.0万世帯という推計でした。これらの世帯は年金などあてにしていないと思いますが、一般的な会社員などが退職後の生活設計をするに当たっては、自分がもらえる年金額について常に把握しておく必要があります。とりわけ近年は確定拠出年金が注目されており、取り入れを検討している企業が増加していますので自分の年金額を増やすことができる可能性があります。しかし、導入するに当たっては、
確定拠出年金は、拠出された掛金とその運用益との合計額をもとに、将来の給付額が決定する年金制度ですので、掛け金や社員の投資教育など担当する経営層の役員の方は苦労すると思います。
そこでここでは、確定拠出年金とはどのようなものなのか、特徴やメリット及び企業型確定拠出年金を導入する流れも解説しますので参考にしてください。
確定拠出年金とは
ここでは「確定拠出年金」の概要について述べます。
確定拠出年金の概要
「確定拠出年金」は「DC(Defined Contribution)」と呼ばれ、「加入者自らが運用する」年金で「拠出された掛け金を運用し」「運用結果により給付額が決定する」年金を言います」。
DC(Defined Contribution)と呼ばれる
確定拠出年金は略して「DC」と呼ばれることが多いですが、英語のDefined Contribution
を意味します。Defined は「定義された」Contributionは「貢献・寄付・出資・寄与・寄贈」などの意味があります。1930年代の大恐慌で社会保障制度(ソーシャル・セキュリティー)が創設されたアメリカには、OASDI(Old-age, Survivors, and Disability Insurance)という、日本でいう公的年金にあたる年金制度があります。現在日本で行われている給付型年金とほぼ同じですので、給付に必要な原資が不足する恐れがあることが危惧されています。
加入者自ら運用する年金
話が少しはずれましたが、確定拠出年金は「加入者自らが運用する年金」で、「拠出された掛け金を運用」して「運用結果により給付額が決定する」という特徴があります。
拠出された掛金を運用
厚生労働省の説明では確定拠出年金は、拠出された掛金とその運用益との合計額をもとに、将来の給付額が決定する年金制度で、掛金を事業主が拠出する企業型DC(企業型確定拠出年金)と、加入者自身が掛金を拠出する(個人型確定拠出年金)iDeCo(イデコ)の2つに分類しています。この2つの掛金を使って加入者が運用し、出した結果が将来の給付額に反映されるというものです。
運用結果により給付額が決定
運用に当たっては、金融機関等の運営管理機関が選定提示する投資信託・保険商品・預貯金等の中から加入者自身が商品を選択して運用することになります。運用商品の選択は必ず3(簡易企業型年金は2)以上35以下の商品を選択肢として選択・提示することになっています。
確定拠出年金の種類
確定拠出年金の種類は「企業型確定拠出年金」及び「個人型確定拠出年金」の2種類があります。
企業型確定拠出年金
「企業型確定拠出年金」は、企業の従業員(加入者)が運用を行いますが、掛け金は企業が毎月積み立て拠出するものです。従業員が自動的に加入する場合と、加入するかどうかを選択できる2つの形態があります。
個人型確定拠出年金
「個人型確定拠出年金」は、さらなる老後資金を得ることを目的とした年金制度のひとつです。国民年金や厚生年金に上乗せするために、個人自らが掛金をだして金融商品を選んで運用し、積みあがった資産は60歳を過ぎれば一括または分割で受け取ることができます。
企業型と個人型の違い
「企業型と個人型の違い」は、企業型が社員などの退職金制度の一環として実施されるのに対して、個人型は個人が任意で加入する年金のシステムとされています。企業型が拠出する掛金は会計上「損金」になり、個人型は個人の所得から掛金が控除されますので節税対策にもなると言われています。
企業型確定拠出年金の特徴
「企業型確定拠出年金の特徴」は「事業主が主体となり実施すること」従って「掛け金は事業主が拠出すること」などの特徴があります。
事業主が主体となり実施
企業型確定拠出年金は企業年金の1つですので、その代表者である事業者が実施主体となります。従業員は与えられたプランに加入することになります。法律的な位置づけは国民年金や厚生年金などの「公的年金」ではなく「私的年金」になります。
掛金は事業主が拠出
従って、上述しましたように掛金は事業主が毎月積み立て拠出することになります。
個人型確定拠出年金の特徴
「個人型確定拠出年金」はiDeCo<イデコ>と呼ばれていますが、全ての現役世代が加入できるという特徴があります。
国民年金基金連合会が実施する「iDeCo」
iDeCoの運営主体は国民年金基金連合会です。運営方法は加入者自身が決定しますので、受取額も加入者の運用結果次第になります。加入者がそれぞれ口座を持ち、老後資金を積み立てていきます。それを自分で運用します。様々な税制上の優遇措置を受けることができます。
掛金は加入者が拠出
積み立てる掛金は加入者が拠出することになります。
確定拠出年金のメリットとデメリット
ここでは、確定拠出年金のメリットとデメリットについて述べます。
企業型確定拠出年金のメリット
「企業型確定拠出年金」のメリットとしては「掛け金が非課税になること」「運用益も非課税になること」「各種控除による税の軽減があること」などがあげられます。
掛金が非課税
「企業型確定拠出年金」の掛金はその全額が所得控除の対象になります。従って、所得税・住民税の課税を免れることができます。掛金は会社側が負担しますので、給与所得ではないかと考えてしまいますが、掛金の同額を給与所得として受け取ると所得税・住民税だけでなく社会保険料にも影響しますので給与所得にすると会社員にとっては不利になります。
運用益が非課税
通常は金融商品を運用すると20%の源泉分離課税が利子や運用益に対して実施されますが、「企業型確定拠出年金」の運用益は「非課税」ですので魅力的です。
各種控除による税の軽減
「企業型確定拠出年金」は受け取る時も税金の軽減になる優遇措置が設けられています。
企業型確定拠出年金(企業型DC)は、60歳を過ぎると老齢給付金として受け取ることができるようになりますが、年金として受け取るようにすると「雑所得扱い」になり、公的年金と合算し公的年金等控除の対象として税額が計算されますので、通常の所得税よりはるかに低くなります。
一時金として受け取る場合は「退職所得」として扱われますので、やはり退職所得控除が受けられるようになります。
企業型確定拠出年金のデメリット
「企業型確定拠出年金」のデメリットとして「加入者のデメリット」「企業のデメリット」について触れておきます。
加入者のデメリット
加入者(企業の従業員)のデメリットは次のようなことが考えられます。
- 普段あまりやったことがない資産運用で失敗する可能性があり将来の受取額が減る
- 選択制企業型確定拠出年金プランで従業員が掛金を拠出することを選択した場合、拠出した分が全額非課税となるが、社会保険料も対象外となるので将来受け取る公的年金が減る可能性がある
等です。
企業のデメリット
企業側のデメリットとしては次のような事項があげられます。
- 掛金拠出のための原資を準備する必要がある
- 導入時の制度構築に関するコンサルティング費用・運営管理機関等への手数料や事務負担を考慮する必要がある
- 金制度・退職金制度見直しを検討する必要がある
- 従業員への継続的な投資教育が必要である
等です。
個人型確定拠出年金のメリット
「個人型確定拠出年金」のメリットとしては「所得税と住民税が軽減される」「運用益が非課税である」「各種控除による税の軽減がある」などがあげられます。
所得税と住民税が軽減
イデコは加入者が掛金を拠出しますので、その掛金は全額所得控除の対象になります。従って「所得税」と「住民税」が軽減されます。
運用益が非課税
「企業型確定拠出年金」と同様に運用益については、課税されません。
各種控除による税の軽減
成果を受け取る時は「企業型確定拠出年金」と同様に税金の軽減になる優遇措置が設けられています。
個人型確定拠出年金のデメリット
個人型確定拠出年金のデメリットとしては、「60歳まで引き出せないこと」「掛金の全額所得控除はできないこと」「資産運用のリスクがあること」などがあげられます。
60歳まで引き出せない
「個人型確定拠出年金」は基本的に20歳から60歳まで積み立てて60~75歳までに受け取る制度になっています。ただし、「加入者が死亡・障害状態になる・脱退一時金として受け取る」等の事情があれば受け取ることができます。
掛金の全額所得控除は不可
原則としてイデコの掛金は全額所得税・住民税の控除対象になりますが、掛金には上限があります。
- 自営業者は国民年金基金との合算で年間81万6,000円まで
- 勤務先に確定給付企業年金がある人や公務員は年間14万4,000円まで
- 企業年金のない会社員は年間27万6,000円まで
となっています。
資産運用のリスクがある
掛金を利用した運用は加入者自身の判断になりますので、資産運用に慣れていない方は運用後の成績が元本より低くなることもあります。
企業型確定拠出年金の導入方法
実際に「企業型確定拠出年金」の導入を検討されている方のために「導入の流れ」や参考になると思われる事項を説明します。
導入の流れ
「導入の流れ」としては「制度として確定すること」「労働者側との同意を得ること」「厚生労働省への申請をすること」「加入者の登録をすること」があげられます。
制度の確定
企業が「企業型拠出年金」を導入する場合はまず制度として確定する必要があります。そのためには加入者となる「労働者側との同意」が求められています。
労働者側との同意
労働者側との同意を得るためには労働組合があればその役員と地道な折衝を重ねて希望する事項はできる限り取り入れていくと同意を得るのが速く実現します。その上で規約を策定します。
厚生労働省への申請
規約ができたら厚生労働省へ規約の承認申請を行います。その結果、規約が承認されたら「加入者の登録」を行います。
加入者の登録
「加入者の登録」によって「企業型確定拠出年金」の実際の運用が開始されます。
「企業型確定拠出年金」を福利厚生事業の一つとして捉える企業が増加しており、2021年3月末時点で38,328社が導入しています。
導入の注意点
「導入の注意点」としては、企業側が従業員の福利厚生の一環と捉えていてもやはり従業員の同意を得ることが重要です。
労働者側との交渉のポイント
「労働者側との交渉のポイント」としては、いままで掛金を使って投資などの運用をしたことがない人が多いでしょうから、その不安をなくしてあげることや「導入後の支援」も積極的に行うことをアピールすることが有効です。
導入後の支援
「導入後の支援」は、「継続的な投資教育の実施」労使の定期的な話し合いによる「運用改善」等々いろいろな課題が山積しています。企業年金連合会が平成30年9月に「企業型確定拠出年金制度運営ハンドブック」を公開しておりますので、参考にされることをお勧めします。
なお、米国にも日本のモデルになった401kと呼ばれる「企業型確定拠出年金制度」がありますので参考にしてください。