財務会計とは?管理会計との違いや業務に役立つ資格も解説

新入社員が最初に企業の経理部門に配属された場合、日商簿記2級以上の資格があれば即戦力になると評価されて経理の中でも財務諸表関連の業務を任される可能性があります。しかし、そうでなければ最初に任される業務は最新の調査によりますと、

①「伝票入力(企業支出の入力作業)(44.9%)」

②「経費精算の確認・承認」(26.1%)」

③「請求書支払業務」(21.4%)」

となっています。定型化された業務を任される傾向が高いようです。

それでも、3~4年もすれば、このような業務のエキスパートになりますので、「もっと専門性が高い業務に挑戦してキャリアアップができないものか」と考えるのは自然の成り行きです。そこでお勧めしたいのが「財務会計業務」の学習です。

財務会計に関する資格、例えば「財務会計士」のような資格は現在ありませんが、政府は2013年に「財務会計士制度の設置」を提案しています。
その理由は、せっかく難しい公認会計士の資格を獲得しても専業は企業等の「会計監査」ですから就職先が少なく、その補完の前段階として「財務会計士制度を設置」して企業のポジションでしばらく活躍してもらう構想でしたが反対の声が強くペンディングになっています。
いずれまたこの問題は繰り返されると思いますので、ぜひ、財務会計について勉強されることをお勧めします。

また、財務会計に精通すると決算書を読み解くことができるようになります。取引先や顧客企業あるいは同業他社などの動向を数的裏付けをもって解析できますので、経営層からの信頼を得ることができるのもお勧めする理由の一つです。

財務会計とは

財務会計は、企業の会計処理方法を言います。企業は株主・投資家・取引先等いわゆるステークホルダーと呼ばれる利害関係者に囲まれて存在していますので、これら外部の人たちに財政状態・経営状態を知らせることが要求されます。そこで、例えば「財務諸表」を作成して公表することでステークホルダーの信頼を勝ち取り、出資や融資を得ることにつなげたりしています。

財務会計の定義

「財務会計の定義」をもう少しブレイクダウンして説明しますと「企業会計の一つ」で

「企業の財政と経営状況を明らかにする会計」であり「利害関係者に公表する」ものであると言うことができます。

企業会計の一つ

企業の会計手続きは「財務会計」「管理会計」および「税務会計」の3つに分類されています。財務会計はそのうちの1つになっています。

企業の財政と経営状況を明らかにする会計

また、「財務会計は企業の財政状況と経営状況を明らかにする会計」です。財務諸表等のデータを使って現在の会社の経営状況とそれに基づく将来予測を立て、財務戦略の構築を行い、必要に応じて資金調達なども実施します。企業の継続的成長に欠かせない役割を担っています。

利害関係者に公表

金融商品取引法は上場企業に対して財務諸表の作成と所轄庁への提出、監査法人や公認会計士による監査を義務付けています。また、非上場企業や株式非公開企業、一般財団法人や社会福祉法人は、財務諸表にあたる会社法の「計算書類」の作成及び所轄庁への提出が義務となります。

管理会計との違い

上述しましたように管理会計も財務会計と同様に企業会計の一つですが、「管理会計が企業の内部を管理」するのに対して「財務会計は企業の外部が対象」になることが一番大きな違いです。

管理会計は企業内部を管理

管理会計は企業内部を管理するものですから財務会計のように法律に基づき必ず報告する必要はありません。そのため企業によってどのように管理するか各企業の方針によって異なります。「経営状況の把握をする」あるいは「経営判断を下す」ために各部門から必要な情報を集めてデータ分析をする手法などが取られているようです。

財務会計は企業外部が対象

これに対して財務会計は既述しましたように、大部分が法律に基づき遂行しなければならないという大きな違いがあります。

財務会計の仕事内容

財務会計の仕事内容を分類しますと「経理系の業務」と「財務系の業務」に分類することができます。

経理系の業務

経理系の業務は、「毎日の売上管理・経費精算・仕訳・伝票記帳・商品や原材料などの仕入管理」等々多岐にわたりますが、ここでは経理系の業務として重要視される「財務諸表の作成」関係を取り上げます。

財務諸表の作成

財務諸表は、ステークホルダーに知らせることを目的として企業の年度初めから終了まで1年間の財政状態や経営成績をまとめた計算書を言います。財務諸表がどのような役割を果たしているのか1例として「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」について述べます。

貸借対照表

貸借対照表は、企業の決算日における「資産」「負債」「純資産」の内容を示したものです。預金や負債の残高が記載されていたり、企業の保有資産、返済義務がある負債、返済義務のない純資産の情報が得られますので、企業の経営状態の診断に役立ちます。

損益計算書

損益計算書は企業のある一定期間の収益と費用の損益計算をまとめたものです。収益・費用・利益の3つの要素で構成されていますので、やはり企業診断に役立ちます。

キャッシュフロー計算書

損益計算書で会計期間中に企業が上げた利益は読み取ることができますが、利益が出ていても実際に手元に現金として残っているわけではありませんので、キャッシュフロー計算書はその欠点を補うものとして、会計年度中に、どのような理由でどれだけのお金が入ってきたのか、また、出ていったのかを表したものとして利用されています。このキャッシュフロー計算書が加わることにより手元に現金がいくらあるのかが分かりますので、黒字倒産を防ぐことができるなど、詳細な経営実績や財政状況を把握できるようになります。

財務系の業務

財務系の業務は「企業の資金管理」「経理が作成した資料を活用した業務」「株式の発行」「銀行からの融資」「余剰資金の運用」など広い守備範囲の業務を担います。

企業の資金管理

企業の資金管理は「資金計画」と「資金統制」の2種類に分類されるのが一般的です。将来の収入や支出を計画するのが「資金計画」で、資金計画に基づき資金の確保を図ることを「資金統制」と呼んでいます。この資金確保は財務系の業務になります。

経理が作成した資料を活用

資金確保は上層部を含めた全社的な戦略とする必要がありますので経理が作成した資料を活用します。特に新事業を計画する場合は、経理が作成した決算書を詳細に分析すべきです。分析した結果、「来年度は新事業に取り組む」という結論が出た時は、その資金を「株式の発行」に依存するのか、「銀行からの融資を」受けるのか「余剰資金の運用」にするのか決定します。

株式の発行

株式の発行による資金獲得方法は、「公募増資」と呼ばれ、一般の投資家を対象に株主を募集するもの、「第三者割当増資」と呼ばれ、特定の第三者に株式を割り当てるもの、「株主割当増資」と呼ばれ、新株予約権を既存の株主に割り当てるものの3種類があります。

銀行からの融資

銀行からの融資に頼る場合は、当たり前のことですが「審査」がありますので、審査をクリアする必要があります。「企業運営が安定しているか」新事業であればその「収益性は確実か」等に応えられるような「事業計画書」等を作成する必要があります。また、銀行によって金利や返済期間が異なりますので余裕をもって返済できるようなスケージュールを組むように銀行側と相談しながら決めるようにします。

余剰資金の運用

企業の余剰資金は「内部留保」ともいわれておりますが、企業運営で何かあった時に使える資金です。貸借対照表の中では自己資本である「純資産」に分類されており、設備投資などに利用できる資金源になります。余剰資金が多ければ多いほど企業運営は安定しており、ステークホルダーの信頼度が高いと言われております。

財務会計の役割

財務会計の役割は「利害関係者に対する役割」と「利害の調整」があげられます。

利害関係者に対する役割

「利害関係者に対する役割」として「財務情報の公開をすること」「投資を呼び込むこと」「企業の信用を上げること」があげられます。

財務情報の公開

企業と関りを持つステークホルダーは「その企業の財務情報の公開がない」と自分の立場で行動したくても何もできません。例えば決算書が公開され企業運営が順調であれば、投資家は「来年度はもっと投資額を増やそう」と考えたり、株主は「配当額をもっと上げてもらいたい」と主張するかもしれません。財務情報を公開することで企業とステークホルダーの間に会話が生まれ、信頼関係を築けるようになって両者がウィン・ウィンの関係で納得できれば良いですが、配当額を巡って対立する場面も想定されます。なお、ここでは株主と投資家と言う言葉を使っていますが、投資家が株式を購入すれば当然「株主」になります。投資家は株式を初め債権・不動産・投資信託・FX・仮想通貨など様々な金融商品に資産を投じて売買益や配当金などで生計を立てていますので別扱いしております。

投資を呼び込む

投資を呼び込むために、投資家に投資額の増額を依頼したり、カスタマーとの懇談会などを企画して新たな投資家発見に努めるようにします。新規施設・設備を設置すると新たな投資家を呼び込むことができると言われています。

企業の信用を上げる

企業側がステークホルダーを大切に扱い要求に耳を傾けたり、率直に意見交換をするなど常に会話を続けることで、その企業の信用度が上がります。

利害の調整

「利害の調整」としては「配当計画の開示」「株主に対する調整」「銀行への返済」があげられます。

配当計画の開示

配当計画額の決定と開示は、原則として株主総会の決議になります。企業によっては取締役会の決議で行っているようです。

株主に対する調整

配当額が決定すると株主の中には不満な方もいますので、調整が必要になることがあります。また、株主ではなく社債などを購入した債権者などもいますので、利害関係を調整するために、財務諸表を用いて算出する「分配可能額」という規定が設けられています。この規程を適用することで債権者にも納得してもらえることができます。

銀行への返済

銀行への返済も同様です。貸し付けを受けた際に返済条件を確認していると思いますので、配当額を決定する前に返済額を控除しておく必要があります。

財務会計に関連する資格

ここでは「財務会計に関連する資格」について述べます。財務会計に関連する資格としては「日商簿記」「ビジネス会計検定」及び「税理士」があげられます。

日商簿記

「企業の経営成績と財政状態を明らかにする」ことの重要性について何度か言及しましたが、そのためには「簿記の技能」を習得するのが近道です。企業の経理部門などに勤めていれば、毎日のように経営活動を記録・計算・整理していると思いますが、簿記は企業の経営成績と財政状態を明らかにする技能を言います。この習得度を測るのが、日商簿記検定試験です。検定試験は日本商工会議所と各地の商工会議所が実施しており、1級・2級・3級・初級という4つの階級別に行われます。

この検定の上級クラスを習得すると次のようなメリットもあります。

財務諸表の理解につながる

1級レベルであれば「経営管理や経営分析のスキル」を取得することができ、2級レベルでも決算書作成のカリキュラムがありますので、財務諸表を理解することができるようになります。

記帳の方法を習得できる

簿記は企業の活動状況を記録していく実践活動ですから、「記帳の方法を習得する」こともできます。

2級以上の資格が望ましい

企業は実務レベルのスキルを求めていますので、実務レベルの経営管理スキルを証明できるのは2級以上になります。

ビジネス会計検定

ビジネス会計検定は大阪市商工会議所が主催している検定試験です。簿記は財務諸表を作る時に役立ちますが、財務諸表を簿記等の知識がなくても作成時に用いられた会計基準や法令を理解し、財務諸表を分析して企業状況を把握しようとするものです。

分析できれば、新しい取引先や投資案件の評価・自社の決算内容などを理解できます。 

会計の基本知識が習得できる

そのため、あらゆる場面で会計の知識が求められますので「会計の基本知識が習得」できるようになります。

財務諸表の読解力が身に付く

また、「会計の基本知識を習得」の上で財務諸表の分析に入りますので、財務諸表の読解力が身に付くようになります。従って、ビジネス会計検定は会計の用語、財務諸表の構造・読み方・分析等、財務諸表を理解するための基礎的な力の習熟度を判定する検定試験と言えます。

税理士

企業の会計手続きは「財務会計」「管理会計」および「税務会計」であることを

前述しましたが、税務会計の中心となる「税理士」について述べます。

融資相談の専門家

銀行などから資金の融資を受ける場合、税理士を通じて行うという決まりはありませんが事業主の決算書や試算表を見る時に税理士も関わっていることがわかると信頼をしてくれますので、事前に融資に精通している税理士に相談されることをお勧めします。 

財務諸表が作成できる

税理士試験は11科目から構成されておりその中には「財務諸表論」が含まれます。財務諸表の作成方法やその考え方、ルールが問われますので、財務諸表の作成は十分対応できます。

銀行融資の事前対策が可能

税理士は銀行融資についても様々なケースを扱っていますので、申請書類を見ただけで、当落の判断ができると言われています。是非、事前に税理士事務所をご訪問されることをお勧めします。


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